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次男の大が産まれた翌年、着実に武将として力を上げていった藤真健司は長い期間戦へと出かけていたことがあった。その際藤真が味方についた側は勝利したものの、敵側には藤真健司の父や兄弟がおり、敗れた藤真の身内は朝廷からの命により、藤真健司自身の手で斬られたのだった。


「親を斬った」と藤真はたちまち白い目で見られ、とても苦しい時間を過ごしてきたことをなまえは知っていた。普段屋敷内で戦や外での話をほとんど持ち来ない藤真だが、実際には共に戦った武将が次々と恩賞を受け高い位まで昇り詰めているのに、自分自身は身内を斬る命を受け、さほど恩賞を受けず上まで昇り詰めることが出来ていない現状にいささか不満を抱いていた。


なまえはなんとなくではあるが、そんな藤真の様子に気づいていた。その為、栄治が二歳を迎えた今、「戦わねばならない」と立ち上がった藤真を見てなんだかひどく胸騒ぎがしたのだった。


『健司様....いつ頃お戻りになられるのですか....?』

「.....わからぬ。」

『.....困ります。』


そんなの、いってらっしゃいませだなんてお見送り出来るはずがない。今回ばかりはとても念入りに準備をしていたように思える上に今までの全てをぶつけて戦う気なら、この人は下手したらもう二度と私の元へ帰らないかもしれないではないか。


「...なまえ、必ず戻る。約束する。」

『健司様....、それはいつでしょうか.....。』


約束してほしい。いつまでに必ず戻る、と。それがあればなまえはその日を迎えるまで藤真を信じ、大人しく帰りを待つことができそうであったから。


「....そなたの元へ帰ってくる。それまで、寿、大、栄治を頼む。」


藤真は明言せずなまえの前から消えた。最後まで快く見送ることのできなかったなまえ。まだことの次第を理解していない栄治がなまえの周りで楽しそうに駆け回る。


『栄治.......、信じましょう.........。』


それ以外できることなどない。なまえは子供達の前では気丈に振る舞った。七歳、五歳となった寿と大に不安な胸中を悟られてはなるまい。藤真が残した「子供達を頼む」という言葉をしっかりと守り抜く。藤真が戦を終え戻って来る際には笑顔で迎えてあげられるように...。

























藤真家当主、藤真健司は自身の子である一志や側近であった花形透などを従え、戦に向かったのだ。以前自身の父親や親族を自分の手で斬った際、共に戦い抜いた仲間であるひとりの男に藤真はえらく不満を抱き、それが積りに積もったのだ。親を斬り微々たる官位になっただけの自分やその一族と比べて、めきめきと頭角を現したその人物や兄弟は、恩賞に大和国をもらい受け、四ヶ国の受領にまで命じられていたのだった。平安時代末期、名を馳せているのは藤真一族とその一族。あまりの扱いの差に、仲良くしながら共存していくつもりは毛頭ない。





「行くぞ。」


藤真健司は立ち上がった。最大の敵である相手の名は仙道彰。頭のきれる要領のいい人物であり武将にして政治的な能力も兼ね備えた優秀な男であった。


仙道彰が京である京都を離れた隙に襲撃に向かった藤真達。藤真にとって仙道彰は邪魔な存在ではあるが、実の所、今回の戦は仙道彰襲撃を目的としたものではなく、仙道彰と共に手を組み、政治の主導権を握っていた「田岡茂一」という男の首を斬ることが本来の目的なのだった。その人物は以前の戦で藤真一族に対する微々たる恩賞を受けさせた張本人であり、お気に入りである仙道彰に対しての絶大な信頼が藤真を苦しませた。


そんな田岡茂一と敵対した田岡一族の派閥は、茂一へあまりいい印象を抱いていない藤真健司に話を持ちかけ味方につけたのだった。


仙道彰不在の中、天皇や上皇を人質とした藤真一行は本来の目的である田岡茂一抹殺をいとも簡単に成し遂げてみせた。あまりに簡単に事が進んだ為、藤真一族は形勢逆転になることを恐れ、「仙道彰の抹殺」も実行するよう声を上げたのだった。しかし茂一の派閥はそれを断った。藤真に話を持ちかけた派閥の先頭に立つ男の嫡子が、仙道彰の娘と婚姻関係にあったのだ。


親戚ともなれば自分の味方についてくれるはず。そう信じてやまなかった為、仙道彰の首を斬ることは叶わなかったのだった。


田岡茂一に気に入られとてもいい待遇を受けていた仙道彰は、今回茂一の首を斬った派閥とも親戚関係にあり、なんとも中立的な立場で、京都に戻ってきた際どちらの味方につくか誰しもが想像できなかった。しかし首を斬ることを禁じられた藤真健司はなんとも言えない複雑な気持ちのまま、いい働きをしたと派閥の当主から多大なる恩賞を受けたのだった。


戦は藤真一行の勝利かと思われた。


しかし、仙道彰が京都に戻るなり、彼は人質として囚われていた天皇や上皇を助けたのです。解放された天皇はすぐさま「藤真一族への追討」を宣言し、藤真一行は一気に追われる身となったのでした。


いとも簡単に人質を逃してしまった藤真達は、兵力の数が桁違いである仙道一族と善戦を見せるも途中で失速し東国へ落ちることとなったのでした。


茂一派閥の当主であった男はその場で斬首となり、藤真の複数いる息子のうちひとりは捕まり、仙道彰の元へ連れて行かれたのです。そんな中なんとか逃げ出すことに成功した藤真健司、花形透、藤真の息子、一志は何を考える暇もなく必死で逃げ落ちたのだった。










君の元へ必ず戻る


(そう約束したのだ、死ぬわけにいかない)







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