大阪旅行編







『.......泣きそうだ........』


大学二年の今、神様は私に微笑んだ。

大阪にある有名な美術館に展示された大きな絵。それは紛れもない私が描いた絵で、今日からしばらくの間この場に置いてもらえるらしい。

東京の芸術大学に進学した私と、同じように東京の大学にバスケ推薦で進学した健司くん。交際は順調だけれど変わらずどんどん有名な選手になっていく健司くんに気後れしている自分がいて。彼ばっかり先に進んで私はその場に立ち止まったまま。相変わらずの彼の人気の高さも相まって最近は考えたくもない「別れ」までが脳内をチラつき始めていた。だって私なんかに健司くんじゃもったいなさすぎる。今に始まったことじゃないけれど。


だからこそ、今回のコンクールで「最優秀賞」をもらえたこともこんな有名な美術館に飾ってもらえることも本当に光栄で、少しは彼に相応しい女に近づけたかななんて、そんなことすら思ってしまう。あぁ、本当によかった。でもこれも健司くんのおかげなんだよね。いつも忙しいのに会いに来てくれるし、絵で息詰まった時も「なまえの絵が一番綺麗だ」って言ってくれたんだから。






飾られた自分の絵を見上げては「わぁ...」なんて感動で胸がいっぱいになる。コツコツ描き上げて本当によかった......。


首が痛くなるくらい見上げていた私の隣にいつのまにか人が立っていたみたいで。「なんやこの絵は...」なんてその言葉の真相が気になる台詞が聞こえた。


横を見ればポケットに手を入れて私の絵を見上げている男の人がいて。健司くんよりも背が高いその人は私の絵から視線を外さずに「なんやろ...」なんて呟いていた。左耳についた金色のフープピアスがキラキラと輝いている。


「....なんやえらい吸い込まれるわ...。」


心なしか横顔が柔らかい表情になったような気がして「ヘタクソ」なんて言われるかとドキドキしていた私はホッと肩を撫で下ろした。そんな私の視線に気付いたのかその男の人は私と目が合うと「すごいよな、この絵」なんて笑いかけてきた。


.......笑うと、なんか、可愛いかも......。


『あ、そ、そうですね.......』

「.....あ、なんやのこれ。最優秀賞やって。どっかの大学生が描いたんや?」

『あ、あぁー.........』

「才能の塊みたいな子がおるんやな。二年て俺と同い年やんか...。」

『えっ?同い年?』


てっきり何個か年上だと思い込んでいた私はその人の言葉に過剰に反応してしまい「なんや、老けて見えるか?」なんて彼の気分を害してしまったようだった。しまった.......。


『あ、いえ......あの、その絵......描いたの、私........』

「.......は?」


男の人は目を見開くともう一度私の絵に視線を戻して、経歴として隅に書いてある高校名や大学名、そして私の名前を読み上げた。


「翔陽高、芸大....みょうじなまえ...?」

『はい。私です.....。』

「......サインもらってもええ?」


関西人はリアクションが大きいイメージであったし「なんで早よ言わんねん!」みたいな感じで来るかと勝手に身構えていた私。まさかすごく落ち着いた雰囲気でそんなことを言われるとは思っていなくて「ふふっ」と吹き出すように笑ってしまった。


「なんやねん。画家さんもファン大事にせなあかんねんで。」

『画家とかファンとか、そんな大袈裟ですって。』

「何言うとんの。みょうじさん程の実力者なら絶対画家さんになるやろが。」


俺感動してんねんで。なんて力説してくるその人はクスクス笑う私に「俺、南や」と言った。


『みなみ...?下の名前?』

「ちゃう。南烈。大阪の薬科大の二年や。」

『薬学部?薬剤師.....?見えない......。』


もう完全に失礼に値する言葉をサラッと言ってしまった私は言った後にハッとしたのだけれど。南くんは「よく言われるから気にすんな」なんて特に気にかけていない様子だった。なんか....見た目の割に優しいし面白いし....見た目だけで決めつけるのって本当に良くないなぁ....。


『南くんは絵とか好きなの?』

「まぁ...綺麗なもんは好きやで。俺ん家ここから近いねん。」

『えー...いいなぁ...。美術館が近所だなんて...。』


そやろ。なんて笑う南くんはもう一度私の絵を見上げて「ほんまにいい絵やわ」と言ってくれる。


『ありがとう....。なんか恥ずかしいな.....。』

「俺みょうじさんの絵なら買うわ。あ、そや。今日は日帰りなん?」

『ううん。明日帰るから今日は泊まりなの。』

「ほんまに?なら付き合うてや。」

『えっ?!....ちょっと、南くん...?!』


自分の絵を見に普段なかなか来ない大阪へとやってきた私。健司くんは私のこの絵を「絶対に見たい」と言って聞かなくて、たまたま明日バスケ部はオフなので新大阪駅で合流することになっていた。健司くんにとっては日帰りになってしまうのだけれど1日時間もあるしデートも兼ねて大阪観光を..........


南くんは私の腕を引っ張り美術館を後にした。行き先を聞いても教えてはくれなくて足早に過ぎていく大阪の街を目で追うのに必死な私。南くんはあまりにも強引で一歩も大きく歩くのも早い。それなのに不思議とあまり嫌な気はしなかった。何故なんだろう。


「.....スケッチブックとかペンとか持ってるんか?」


突然立ち止まるから南くんの背中に激突した私。鼻を押さえながら「うん」と呟けば「ほんならここや」と南くんは指差した。


『...公園?』

「おん。あそこのバスケットゴール、描いて欲しいねん。」


南くんが私を連れてやってきたのは公園で確かに奥にバスケットゴールがある。そこに近付き南くんは「ここでずっとバスケしててん」とゴールを見上げて呟いた。


『南くん、バスケットやってるの?』

「おん。大学ではお遊び程度や。勉強忙しいねん。」


そう言ってゴールを見上げる横顔はあまりにも切なくて......綺麗で。私はすぐさま鞄からスケッチブックとペンを取り出して少し離れたところからスケッチし始めた。奥に見える木とバスケットゴールとそれを見上げる南くんの背中。バスケットボールを持ってシュートやドリブルをする姿が簡単に想像できて、彼も健司くんと同じようにバスケに夢中だったんだろうなぁ、なんて何故だか嬉しくなった。


しばらくバスケットゴールを見上げていた南くんはスケッチし始めた私の元へとやってきて。絵を見るなり「うわ...」と声を出した。


『思っていたのと違ったら....ごめっ....?!』


「ごめん」まで言わせてもらえないままグシャッと乱暴に頭を撫でられる。びっくりして顔をあげれば絵を見たまますごく嬉しそうな顔をした南くんがいて私まで嬉しくなってしまう。


「ほんまにすごいわ。みょうじさんありがとう。」


あぁ、この人はバスケットをしたかったんだろうな。ずっとここで汗水流して練習してたんだろうな。長い時間をここで過ごしてきたんだろうな。


言わずともわかるそれが余計に私のペンを走らせる。南くんにとって思い出の一枚になればいい。誰かを想って描く絵はとっても気持ちがいいんだ。














『.....よし、出来た。』


色鉛筆で色を塗って南くんに差し出せば画用紙を受け取って「部屋に飾らせてもらいます」なんて頭を下げてくる。


「あ、ここにサイン描いといてや。」

『......サインなんてないから名前描いておくよ。』


さっきのサインもらうって本気だったんだなぁ...なんて笑いながら隅に名前を書けば南くんは「額縁買わへんと」なんて言いながら歩き出した。


『私、ホテルに行くから。またね。』

「......ほんなら送ります。先生。」


だから画家でもなければ先生でもないって。













「ほんなら明日は観光するんやな。」

『うん。たまたま部活休みなんだって。あ、私の彼氏もバスケ部なの。』

「....芸大にバスケ部あんの?」

『ううん、違う大学。高校の同級生なの。』


南くんは歩きながら私の話を聞いて「へぇ」なんて相槌を打った。


『南くんは彼女いないの?すごくいそうに見えるけど...』

「おらへんよ。面倒なだけや。」

『そう?』


意外だなぁ...なんてまたしても多分失礼なことを思う私に南くんは「喧嘩とかするやろ、ひとりが楽やん」なんて言ってくる。あぁそうか。多分色々経験済みなんだなぁ.....。すごくモテそうだし.....。


『まぁ......そうだね、色々悩みとかも出てくるしね。』

「なんや、悩んどることでもあるんか?」

『ん.......すごい人気者だからね、バスケ上手いし顔も良くて.....。』


釣り合わないかもっていつも思ってるよ、なんて言えば南くんは「そんなことあらへんやろ」と言い切った。


「そんなんちゃうで。逆や。」

『.....逆?』

「みょうじさんにソイツなんかじゃもったいないんや。」

『えっ?そんなことあるわけ......』


何を思ったかそんなことを言う南くん。絶対的にそんなことあるわけない。健司くんみたいなすごい人、私にはもったいない。それが正しいのに。なのに南くんは「そうやで、絶対そう」なんて言い切ってくる。


「彼女にそんなこと思わせる時点でいい男ちゃうやろ。」

『わ、私が勝手に思ってるだけだし......』


南くんは私の言葉を聞いて「ほんなら余計気付いてやらなあかんやんか」そう言いながら今度は優しく頭を撫でてきた。


「ほら着いたで。」

『あ、あぁ.....ありがとう.....。』

「自分で思っとるよりもずっとみょうじさんは魅力的だと思うで。」


「ほな、絵ありがとうな。」南くんはそう言い去って行った。その後ろ姿はどこか寂しそうで、でもたくましく見えて.....。


『不思議な人だったな........』
















翌朝の新大阪駅のホームで私は健司くんの到着を待っていた。始発で来ると言うからもたもたしている時間もなくて。慌ててホテルを出て駅へと向かったのだ。


「.....おはよーさん。」

『.....?!』


えっ?と思い振り返ればそこには大きい荷物を持った南くんがいたのだ。


『南くん...!どうしたの?』

「俺今から用事で出かけんねん。広島。」


昨日とはまた違ったオシャレな服装で相変わらずピアスがキラッと輝いている。少し悪そうな雰囲気も南くんならアリだと思わせてくるあたりがすごいなぁと思ってしまう。なんだか本当に不思議な魅力.....。


「彼氏もう来るんか。早いな。」

『うん...南くんが乗る新幹線で来るのかも。』

「ほんならここで待っとってもええ?」


さすがに健司くんに見られたらまずい気もするのだけれど。昨日のこともあるし断るわけにもいかなくて。「うん」と言えば南くんは私の隣に座った。


「昨日の絵、ありがとうな。」

『ううん、喜んでもらえてよかった。』

「俺のうるさい幼馴染が「俺も欲しい」言うて聞かへんかったわ。」


聞けばあの公園で小さい頃から共にバスケットに励んだ幼馴染がいるらしい。なんだ、それなら二枚描けばよかったと言った私に南くんは「いいねんアイツは」と言い捨てた。あらま、いいのか。


「お、そろそろ来るな。」

『うん...。』


新幹線がホームに入ってくるなり南くんは私の隣から立ち上がった。


「会えてよかったわ。」


真っ直ぐ前を見たまま。それに合わせて私も立ち上がれば南くんは私の方を向きクシャッと頭を撫でた。


「応援してんで。これからも。」

『南くん、ありがとう。』


新幹線が止まり扉が開く。中から降りてくる人がたくさんいた。


「俺の方がな。あ、そや。言っといてくれへんか。」

『え?』


降りる人がたくさんいてホームは途端に人だかりになった。


「デコの傷、悪かったな、って。」


私の返事を待たずして南くんは器用に人混みをかき分けて新幹線へと乗り込んだ。固まる私の元に「なまえ!」なんて聴きなれた声。


『....け、健司くん....!』

「待っててくれてありがとう。なんか今、誰かと話してなかった?」


フワッと風が吹いて健司くんの髪が揺れる。流れた髪の隙間から彼のおでこにある傷が姿を現した。


『.......ううん、話してないよ。』

「そっか。ならいいや。美術館行こうぜ。早く見たいな...!」


大学二年の今、神様は私に微笑んだ。

そしてそれに伴い不思議な出会いも経験したのだった。



















ほんの少しだけ私の胸に罪悪感が生まれたのだった


(...なまえ?どうかした?)
(あ、ううん、なんでもないの。)











月影様 (*^o^*)

この度はリクエストありがとうございました!そしていつもいつも本当に助けていただいてありがとうございます(T_T)洋平祭が本当に楽しみになっております。月影さん無しでは成り立たない洋平祭....。感謝でいっぱいです(T_T)藤真くんのリクエストありがとうございました!!2話目は完全に私の妄想です(T_T)藤真くんのいない所で何かが起こってしまうっていう....。別に二人の仲が悪くなるわけではなくて、南くんが勝手にヒロインちゃんに惚れたっていう。笑
途中から藤真くんが彼氏だと気付いて、バスケもうまいしいい男だってのは知ってるから余計イラッとしてヒロインちゃんが少しでも動揺したらいいと思ってあんなこと言っちゃったっていう設定です。。最後のも「フジマと会った後も俺のこと考えてればいいやん」みたいなね。あぁ、南くん......(T_T)藤真くんが出るとついつい南くんを出したくなってしまいます(T_T)余計な話だったらごめんなさい(T_T)!いつも本当にありがとうございます☆今後共どうかよろしくお願いします(T_T)!!!





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