嘘つき編





▽ 俺の (姉/妹) が可愛すぎて心配です 兄の健司 続編。









幼少期からバスケットに打ち込む日々だった。


勝ったら嬉しいけど負けたら悔しい。小さい頃はそれで済んだのが次第に勝つためにはどうしたらいいのか、仲間との距離感や戦術などより深く考えてプレーをするようになりそうなるにつれて俺は余計にバスケットにのめり込んでいったんだ。


高校三年になった今、かれこれ十三年ほどのバスケット人生を振り返れば思うのはやっぱり仲間に恵まれてたってことと、ありがたい家族の存在であった。そもそもタダでは習えないバスケットをやらせてもらえたこと、遠征やら道具やらもちろんお金はかかるけど「金」にまつわる話をされた事は一度もなかったこと、そして何より学費が高いで有名な翔陽に入れたのももちろん俺の努力だけではなかった。


父さん母さん。そして姉貴と妹のなまえ。


『お兄ちゃんすごいねー!!』


俺がシュートを決めるたびに目をキラキラさせて拍手していたなまえ。


『うちのお兄ちゃんが一番かっこいい!!』


いつも自慢の兄貴だと周りに言いふらしていたなまえ。


『お兄ちゃん大好きー!』

「俺もなまえのこと大好きだよ。」


誰よりも俺を「1番」にしてくれていたなまえ。


俺にとって何よりも大切な存在であったなまえ。俺がシュートを決めれば可愛い笑顔で笑ってくれるから、俺がドリブルでなまえを抜けば尊敬の眼差しで見てくれたから、俺がバスケットボールを手に取ればキラキラした顔で駆け寄ってきたから、だから俺はどんな時もこの子にとって最高の「お兄ちゃん」でいられるようにって様々なことを乗り越えてきたんだ。


大切な存在であった、じゃない。


なまえは今でも俺にとって、何よりも誰よりも大切な妹なんだよ。


でもそれは、どうやら俺の一方通行になったらしい。






『お兄ちゃん?私髪の毛巻きたいんだけど、どいてくれない?』

「......なんだよ、そんなの部屋でやれよ。」

『大きい鏡の方がやりやすいの。お兄ちゃんこそ向こうで歯磨いてくれない?』


お前はいつからそんな顔で俺のこと睨むようになったんだよ。「邪魔」「どけ」「黙れ」言わずともそう顔に書いてあるトリプルパンチ決めてくるなまえ。女子高校生となりそれなりに毎日楽しそうで土日は遊びに行くことも多いようだけれど.......つーか...なんかいつもと違くね?


「お前今からどこ行くんだよ。そんなに気合い入れて。」

『遊びに行くの。お兄ちゃんには関係ないでしょ。』

「は?どこに?誰と?」


俺の顔見て逃れられないと判断したのかなまえはヘアアイロン片手に「ハァ」とため息をついて「友達とだよ」なんて嫌そうに口を開いた。


「友達?誰だよそれ。名前は?一年?何組?」


こんなに気合い入れて会う友達ってまさか男じゃねーだろうな、なんて事細かく確認し出した俺になまえは「マジかよ」といった顔で俺を見つめた。あ?俺はいつだってお前にマジだよ、馬鹿野郎め。


『また本気で確認しに行く気なの....怖すぎ.....』

「あったりめーだろ。兄として挨拶くらいしなきゃなんねーし。で?その友達っていつものなっちゃん?」


「なっちゃん」と呼ばれる友達と仲がいいのは知っている。よく二人でいるところも見かけるし隣のクラスらしくて実際どんな子か確認に行ったこともある。顔真っ赤にして「はじめまして...」と震えながら挨拶してくれたなっちゃんは確かにいい子だった。うん、あの子との交流は害もなさそうでとてもいい。


『.......翔陽の友達じゃない。』

「......は?お前他校に友達いたの?」

『友達の友達なの。だから確認いらないです。』


....は?なんなのマジで。いつのまに?コイツ部活もやってねーし毎日のんびり暮らしてるし遅くまで家に帰ってこないなんてことも今のところなさそうだし健全に生活してると思いきやいつのまに他校の奴と交流深めてたなんて.....いっけねー、俺としたことが.....JKのコミュニケーション力を侮っていた。


「どこの高校?名前は?」

『もう勘弁してよ...全然髪巻けないし...。』

「んなもん巻かなくたっていいだろ。」


いっつもめちゃくちゃなこと言う....なんてため息をつくなまえ。


『のんちゃん。いつか紹介するよ。』

「.......ってことは、女の子だな。」


のんちゃんか....新しい友達の名が俺の脳内にインプットされた。他校ののんちゃん。まぁ名前からしても可愛らしいし嘘ついていきなり男と会うなんてことも俺が見張ってたわけだから無いだろうし、そもそもコイツ嘘つけるタイプじゃねーし、しばらくのんちゃんとの交流も様子見るとするか...。


「遅くなんねーうちに帰って来いよ。」

『わかってる。お兄ちゃん早く行かないと遅刻になるよ。』

「....重役出勤なんだよ、俺は。」

『うわぁ...職権乱用だ......。』


午後から練習の予定がある俺に対して「頑張ってね、監督」なんて笑って手を振って洗面所から出て行ったなまえ。去り際フワッと香ったスタイリング剤の匂いがやけに鼻に残って途端に部活に行きたく無い気持ちでいっぱいになった。あぁ、もう。














「藤真、飯でも食べてから帰らないか。」


今日の練習もやたらとハードだった。無理もないだろう。今年の夏は湘北に負けてインターハイはおろか決勝リーグさえも行けなかったのだから。選抜は絶対にうちが勝つ。そんなこと考えているうちに季節は秋となり今日は国体のメンバーに選ばれたことも顧問の先生から知らされた。普段は引率以外いない先生が突然体育館に入ってくるもんだから驚いたけど。


「悪い、花形。今日はパスだ。なまえがちゃんと帰ってきたか確かめねーといけねーんだよ....。」


今着替えて帰れば20時には家に着く。さすがにこの時間には家に帰ってきてんだろう。母さんに確認したっていつだってなまえの味方だから平気で嘘つくんだよな...どうしてこうも女ってのはすぐ群れたがるんだろうか。姉貴も母さんもなまえに甘くて放っておけやしない。


「そうか、なまえちゃん今日は出かけてるって言ってたもんな。」

「あぁ。他校の友達とつるんでんだと。しばらく様子見ねーとな...。」


のんちゃんがもしかしたらとんでもねーヤンキーでなまえが巻き込まれるなんてことがあったらたまんねーからな。さっさと着替えに部室へ向かおうとすれば隣にいた高野と永野がニヤニヤしながら「お兄ちゃんだな、藤真」なんて気持ち悪いこと言ってくる。は?黙れよ。


「まぁでもなまえちゃんももうJKなんだし放っておいてやればいいのにな〜。」

「そうだそうだ。そんな口うるさい兄貴は嫌われちまえ!!」


......高野、永野......お前ら息の根止めてほしいんだな?あ?やんならやってやんだぞ.....?


「まぁまぁ高野、永野。藤真にとっては大切な妹なんだから。お前ら男兄弟しかいないんだし気持ちわかんないだろ。あんまりそんなこと言うもんじゃない。」


いつだって冷静な花形が間に割って入ってきた。高野、永野、コイツらもしや自分たちは国体に選ばれなかったからって八つ当たりしてきてんのか?翔陽からは俺と花形と一志の三人だったもんな。あーそうかそうか、だけどな、今の俺はそんな戯言に付き合ってる暇はねーんだよ。


「.......なんとでも好きに言うがいい。華のJKを守るのは俺の役目なんだよ。」


ケッ。














「.......?」


帰り道、急ぐ心をよそにのらりくらりチャリを漕いでいた俺の目の前からとぼとぼ歩いてくる長髪の男。どこからどう見てもあの牧のとこのうるさい奴にしか見えなくて。でもなんでコイツがこんなとこでしかも私服で歩いてんだ?地元近いのか?


「......お前、牧んとこの。」

「.......っ!!翔陽の.....ふ、藤真........」


は?呼び捨て?マジで礼儀がねー奴だな、なんて顔に出てたのか「藤真........」の後に小さな声で「.....さん」がくっついてきた。そう、それでいい。


「なんだっけ?神.....は、二年だもんな。」


コイツの名前が一向に出てこなくてモヤモヤする俺にソイツは「清田信長っす」なんて若干怯えながら言うじゃねーか。何?俺のこと怖いの?


「あーそうそう。清田ね。で?こんなとこで何してんの?」


俺の問いに清田は少し目を見開いて固まると「少し近くで用事が...」なんてしどろもどろに言ってくる。何?聞いちゃいけないやつだった?それは悪かったわ。


「そ。俺ん家もすぐそこなんだよ。気をつけて帰れよ。」

「....っす。おやすみなさい.....。」

「おー、おやすみー。」


なんでそんなにビクビクすんだか。しっかしよく見りゃ長い髪もしっかりセットされてて私服もやたらとオシャレだし黙ってりゃかっこいいのにな。去り際も柔軟剤っぽいいい匂いしたし。つーか海南は今日終わんの早かったのか......。あぁ、もやもやする。やっぱり選抜では絶対に決勝で海南と戦う。よし、負けてらんねーな......!


「ただいま。」


家に入ればなまえの靴が揃って並べてあり途端に俺はホッと肩を撫で下ろした。よし、帰宅してるな。中からは「おかえりー」なんて間延びした声も聞こえてくるし。よし。


『お兄ちゃんおかえり。お疲れ様。』

「あぁ。ちゃんと帰ってきたんだな。どうだった?楽しかったか?」


『うん。のんちゃんいい子だから。』


何してたんだ、とかどんな子だったんだ、とか俺の質問に少し呆れながらも付き合ってくれるなまえ。やっぱり最高に可愛くてふわふわと頭を撫でていたら突然違う部屋にいる母さんに呼ばれて席を立ちリビングから出て行こうとするなまえ。その瞬間フワッと香ったのは朝嗅いだスタイリング剤の匂いではなくて...










「?!...この匂いは...!!!」









『?お兄ちゃんどうしたの急に大きい声出して...』


怖いんだけど、と続けたなまえ。










やばい、俺やばい、無理、やばい。
沸々とこみ上げてくる怒りに俺はとうとう震え出した。



「テメェ...俺に嘘つくなんていい度胸じゃんか。」

『......な、なんの話........』



この匂い、さっき嗅いだばっかりなんだわ。なんでお前がアイツと同じ匂いすんだかな...........怖いのはお前だ馬鹿野郎。いつのまにあんなに嘘が上手くなったんだお前は。まんまと騙されたってか。この俺が。


「のんちゃんだなんてずいぶん可愛い呼び方だよな。そののんちゃん、どうしてほしい?煮るか焼くか.....あとはそうだな.....」


地獄に突き落とすって手もあるけど。


俺の言葉に観念したのかもう誤魔化せないとでも思ったのかなまえは可愛い顔を歪めて「だから言いたくなかったんだよ」なんて文句たれてやがる。


「何がのんちゃんだ馬鹿野郎。あんのクソ猿め...!」


なんでなまえから清田信長と同じ匂いがするんだって?そんなの決まってんだろうよ。コイツさっきまで清田といたってことじゃんね。しかも匂いうつるくらい近くにいたってことじゃんね。心なしか首元が赤い気がするじゃんね。完全に吸われた痕じゃんね。














「おい待てこのクソ猿野郎!!!!!」

「け、健ちゃん?!ちょっと裸足でどこ行くの?!近所迷惑よ!!」













ダッシュで家を飛び出した俺を誰か止めてくれ


(........逃げられたか。こうなりゃ国体で思う存分シメてやるか.........)





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