完敗編






藤真健司、25歳。本日はお日柄も良く暑すぎるほどに快晴でこんな素敵な日にピッタリのお天気........


って、んなことどうだっていいんだわ。


「藤真、いい加減諦めたらどうなんだ。今更どう足掻いてもみょうじは振り向いてくれないんだぞ。」

「うっるせーなー!!」


隣でほざいてる長身メガネに肩パンすれば何故か隣の高野が「痛っ!」と声を出した。それを見ていた永野がなんだか神妙な面持ちで「そういえばさ」なんて切り出してくる。


「みょうじってなんで藤真に興味なかったんだろうな?」


.....なんなんだよお前は!俺に恥かかせたいわけ?!と言いかけたところで周りにいた高野や一志がマジになって「うーん」と考え始めたから途端に俺も黙り込んでしまう。いやいや、別にもういいだろそんなこと。だって初対面の頃からアイツは俺に普通だったし...


「相当嫌がっていたしな...藤真の彼女だと勘違いされること...」

「...は?」


花形の言葉に俺が眉間にシワを寄せれば長身メガネは途端に言ってしまった!と言わんばかりに「あ」と声を出した。


「なんだそれ...詳しく聞かせろよ。」


ギクッと肩をあげた花形に対して相変わらず神妙な面持ちの永野が「やけに藤真のこと避けてたよな、やっぱり嫌いだったのかな」なんて真面目に言い出し始めた。


.....マジでムカツク。


よくよく考えれば確かに思い当たる節が無いわけでもない。何かを話すには必ずと言っていいほどの恩人ポジションだった一志。先輩として敬われ懐かれていた花形。友達やそれ以下としてからかわれたりタメ口を使われたりしていた高野と永野。そのどれにも当てはまらずこの五人の中で圧倒的に絡みが少なかったと思われるのに勝手に意識していた俺。アホか。


いやでもそれは俺を「監督」として扱ってくれていたことへの距離だと思っていたし実際「監督」の俺よりも「ただの先輩」であったコイツらの方が絡みやすいってのも普通だと思う。だからこれといって嫌われる要素はなかったはずなんだが....


「苦手だと漏らしていたのは覚えている。」

「.....一志、詳しく教えてくれ。」


突然の一志の言葉に俺は待ってましたと言わんばかりに食いついた。


「元々タイプではないと言ってはいたが、藤真のファンがみょうじを彼女だと勘違いして羨望の眼差しで見られたり追いかけられたりして、そういうのが本当に面倒だと。」


......。
ファン云々はもはやいいとして、最初の一言に鈍器で殴られたような感覚になった。タイプ......


「......俺なんぞタイプじゃねーってか.......」

「中身が我儘で自己中だとか...言っていたかな。」

「.....はっ.....」


.........。


「ま、まぁ、そんなのも昔の話じゃないか。ほら、みょうじ待ってるから挨拶行ってこよう。」


慌てた花形にずりずり引きずられて魂の抜けた俺は四人と共に控え室の前へとやってきた。控えめにノックした一志の声に中から「長谷川さーん!」と元気ななまえの返事が聞こえてきた。


なんだよ!!みんな揃って言ってたじゃねーか!!

「見た目綺麗で中身は男らしい藤真くんがかっこいい」って!!こんの嘘つき野郎共め!!大半はそうだとしても肝心な奴ひとりがそう思わなきゃ意味ねーっての!!そりゃ俺も思ってたよ?脈ねーなって!初対面だってあんな対応だったしどんだけ話しかけても冷たいし!!あぁもううぜぇな!!


『あぁーみんな来てくれたんですねー!』


イライラしていた俺の前でにっこり笑うなまえは純白のドレスに包まれて立ち上がると少しだけよろけていた。咄嗟に駆け寄った一志が腕を支えて「ありがとう長谷川さん」なんて可愛く笑ってやがる。


.....マジでめちゃくちゃに綺麗だわ......


『お忙しい中ありがとうございます!』

「なまえめっちゃ綺麗だわ...やばいな...」

『やだ高野さん!褒めても何も出ませんよ!』


これ飴です。あげます。なんて高野に飴差し出してるし。がっつりなんか出るんじゃねーかよ。


あまりにも綺麗で眩しくてなんだかもう言葉にならない俺はふと今日の結婚式について思い出したことがあり「あ!」と声を上げてしまった。


『え...どうしました?』

「お前なんで招待状俺に送らねーんだよ!」

『出しましたよ!だから今日来たんでしょ!』

「いいや。一志から受け取ったんだぞ。しかも「一応渡しておく」なんて意味不明な言葉付きで!」


少し前にファミレスに一志に呼び出された時は何かあったのかと心配になるくらい神妙な面持ちで。途端に差し出された封筒は結婚式の招待状でしかも「一応俺から渡すよ」なんて言葉付きだったからてっきりなまえが一志と結婚すんのかって手汗出るくらい焦ったんだから。


あ、いや、違う。そこじゃねーし。


なんで一志から手渡しなんだと疑問に思った俺に「藤真を招待するか悩んだ挙句に決められなかったらしく渡しても渡さなくてもいいなんて俺に託されたんだ」なんて言うじゃねーか。


「前から思ってたけど俺の扱い雑すぎんだろ。」

『他の女たちが過度に手厚いだけですよ。』

「は?」


今日が結婚式でよかったな、なんて普通の場だったら怒鳴り散らしてやるって意味で言ったら、コイツは笑って「今日快晴ですもんね」なんて言うからもう腹も立たねーよ俺は。好きにしろ。このマヌケ。


「みょうじ、あんま長居すると悪いから俺ら行くよ。今日は本当におめでとう。」

『花形さん...ありがとうございます。楽しんでいってくださいね。』














廊下に出たところで隣の部屋がガチャッと開き中から出てきたのはタキシードを着た男。もうあの頃みたいにリーゼントじゃなくて相変わらず整った顔に人懐っこい笑顔で「お、兄貴じゃん」なんて笑いかけてくる。


「おう、お疲れ」

「ハハハ。まだ何もしてねーけど。」


確かになんのお疲れだったんだろう、なんて自分で言って考えていたら水戸はやっぱり楽しそうに笑っている。


「そういや兄貴ここにいるってことは招待状届いたんすね。」

「...どういう意味だよ?」

「なまえが出さねーって言ってたような気がしたから。」

「.....は?」


俺の「は?」に水戸は「兄貴変わんねーっすね」なんてケラケラ笑っている。


「藤真さん翔陽で先生になったんでしょ?忙しいからってアイツなりに配慮してたんすよ。」


水戸という男はとことん完璧だと思う。俺のことを勝手に「兄貴」なんて呼んで距離を縮めてくると思いきや途端に「藤真さん」なんてしっかりと名前で呼んでくる時もあって。その使い分けが絶妙にうまくてコイツのペースに巻き込まれてしまう。あぁもう。


「絶対ちげーだろ、俺嫌われてたし、多分。」

「んなことねーっすよ。ま、好かれてなくてよかったっすけどね。」

「.....お前なぁ......」


兄貴が相手だったら勝ち目ねーっすよ俺!なんて笑ってるけど実際そんなことねーだろ!なんてことは思うだけで口にはしない。せめてもの強がりとして「どうだかな」と言わせてもらった。


「前も同じようなこと言ったけど、これからもなまえのこと.....」


泣かせないでやって
幸せにしてやって


そんな言葉が出る前に水戸の「兄貴」という呼び声によって俺の声はかき消された。


「....なんだよ。」

「兄貴なら絶対来てくれると思いました。」


何が言いたいのかわからなくて「...おう」と呟いた俺に水戸は綺麗に笑う。


「なまえ本当はわかってましたよ。」

「何が?」

「藤真さんの気持ち。」


理解が追いつかずに、でも何だか体が震えるくらいに熱くなって出た俺の「は?」に水戸は「だから迷ってたんです」と言う。


「アイツ変なとこ気ぃ遣うから。別に他の先輩たちと同じようにすりゃいいって何回言っても藤真さん嫌な気持ちにならないかなってその一点張り。」


..........そんな、こと.........。


「でも俺は来てくれると思いましたよ。」

「......何で?」

「だって兄貴、そんな器の小さい男じゃないでしょ。」


水戸はそう言って笑うと「アイツのことは俺に任せてください」なんて言葉を残してどこかへ歩いて行ってしまった。その後ろ姿がとてもかっこよくて、俺の顔面がどんなに良かろうと、俺がどんなに女にモテても、どれだけ足掻いても勝てっこないと思わずにいられなかった。


















完全なる敗北と書いて「完敗」


(......ぐうの音もでねぇな......)




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