低体温宗ちゃんの体温を上げてみよう大作戦
▽もしものはなし 全員と同じ高校だったら...の超低体温氷点下の冷たい宗ちゃんこと神くんの態度がもっと温かいものに変わらないかなぁと無駄なことに力を尽くすヒロインちゃんの話。
「どこ見て歩いてるの?俺の顔がそんなに変?」
『...いいや、違うよ宗ちゃん』
「あぁ羨ましいってことね、知的に見えるでしょ」
『...そんなことは一言も...』
「なまえなんか惜しい顔してるもんね、アホっぽい」
...朝っぱらからどんな言われようなのそれ。
今日は珍しく信長を自転車の後ろに乗せてなかったから宗ちゃんもひとりで来るなんてことあるんだなぁと思ってただけじゃん。そんなにジロジロ見てたわけでもないし...あ、ピョン吉が朝から生活指導の先生に捕まってる。何やらかしたの...まさか、言葉遣い?!語尾が変だって?!いまさら?!
「よそ見してるなってば、ぶつけて痛い目見たいわけ?」
『あ、ごめん...ありがとう』
ピョン吉お気の毒に〜と思ってたらどうやらチクッてたらしくてピョン吉の話を聞いた生活指導の先生が少し先を歩く大ちゃん(諸星)を捕まえに行ってた。あーあ...かわいそうに大ちゃん...ピョン吉なんて悪質なの!そんなこと考えてたらどうやら柱に直撃しそうになったらしくて宗ちゃんがグッと腕を引っ張ってくれた。
「ったく...まぁちょうどいいかもね柱にぶつけたら少しはマシになるかもよ」
『な、何がマシになるの?』
「そのボーッとした頭」
こちらを1度も見ずにノールックでそう言う宗ちゃん。私が何も言わずにジッと見つめていたらパッとこっちを見て目をジトッと細めた。なに?睨まれてる?!
「冗談じゃん。真に受けるとかどうしたよ」
やっぱりおかしいよって言われたんだけど別に真に受けてたわけじゃない。私は思った。宗ちゃんは本当は根は優しくて本当に困った時に助けてくれる紳士なんだって。ただ少し意地悪なだけ。私がボーッとしてるのは本当のことだしね、でも、私、思ったよ...
宗ちゃんのその態度、なんとかしてやるんだから...!私と顔を合わせたらそんな態度とれないようにしてやるんだから...!いつもいつも言われてばかりで(まぁ別に慣れてるからいいんだけど)こっちが何言われても平気だと思うなよ?!一応乙女だから!私も!
少しだけでいい、少しだけでいいから...ビビらせてやりたい!!そしていつも優しくしてほしい...
「おいなまえ?どうした細胞の数減った?」
『...なんでいつもそんなこと言うの?』
「え?」
『宗ちゃんひどいよ...嫌いなら嫌いってハッキリ言ってよ!』
...我ながらいい演技だと思った。きっと睨めば宗ちゃんは少し動揺したような顔で私をジッと見ている。いけ、今だ、涙よ!出てこい!
「...なまえ、」
『...ひどいよ...ッ...』
泣こう泣こうと思ったら本当に涙で目がうるうるしてくる私かなりの女優気質じゃない?ヤバいんだけど...宗ちゃんを見やればさすがに涙まで出てきたので驚いたのか目をまん丸くして固まっている。
「...なまえちゃん?どうした?」
そんな時、場所も考えずこんなことしてる私に話しかけてきた人物がいた。想定外の事態に私自身がワタワタ慌ててしまう。えぇ?!ここで誰かが乱入してくるって...待ってよ、私はただ少し宗ちゃんに優しくしてもらいたくてごめんって言ってもらおうと思っただけなのに...それで実は演技だったよって言って...いやいやいや!待てよ私、ネタバラシなんかしたらしばかれるじゃん間違いない。
いやでもこんな姿見られたら...まるで宗ちゃんが私を泣かせてるみたいじゃないか!!!
「えっ...大丈夫?どうした?」
『...せ、仙道くん...』
「まさか神に泣かされたの?」
よりによって仙道くんだった...何も言わない私にキッと宗ちゃんを睨む仙道くん。宗ちゃんはただただ固まって動かない。フリーズしてる場合かよ宗ちゃん!!
「何したんだよお前...」
「...仙道に関係ないだろ」
「関係ない?なまえちゃん泣かせておいてなんだよその態度は!」
仙道くんが思いの外大きな声をあげるから周りもなんだなんだと注目し始めて、仙道くんの背中に隠された泣いてる私と向かい合う仙道くんと宗ちゃん。待ってヤバいよ何この状況!これじゃあ宗ちゃんが悪者じゃん!待ってそんなつもりじゃ...あぁ、本当に涙が出てきた...
「朝っぱらから何してるピョン」
「え...泣かせたんかお前、なぁ!」
何事かと駆けつけてきたのはよりにもよってピョン吉と南さん...ヒィィィ!関西弁で宗ちゃんに詰め寄ってる。うわぁ、どうしたらいいの、別に私は...あの!誰かなんとかしてよ!私が悪かったよ!
「何とか言えやお前」
「おい落ち着けや南、こんなとこで大声出すなや」
「なまえどうした?神に何かされたのか?とりあえず保健室行こうか」
生活指導の先生に捕まってたはずの大ちゃんとその前に捕まっていたらしい岸本さんも駆け寄ってきて3年生達に囲まれた宗ちゃんと大ちゃんによって保健室へ連れて行かれようとしている私。ヤダ!ちょっと待って!この場に宗ちゃんを置いていくわけには...!
『や、やめてください...』
「なまえ、いいんだよ無理しなくて」
『私が勝手に泣いたので...やめて、南さん』
大ちゃんになだめられながら、とうとう宗ちゃんの胸倉を掴んだ南さんに声をかけた。静かにその手を離すとゆっくり私の方を向く。涙を流す私がよほど珍しいのか目が合うと南さんはフリーズした。
ずっと下を向いて泣いていたので目がチカチカするけれどよくよく周りを見渡せばみんな揃って私を向いている。順番にみんなと目が合うとみんなして何も言わずにフリーズするからなんだか変な空気になった。隣にいる大ちゃんも目を見開いてフリーズしてるし胸倉掴まれてたはずの宗ちゃんすら私を見つめて固まっている。いや、誰か何か言ってよ。
『お騒がせしてすみませんでしたッ...少し口喧嘩になっただけ、なので...』
私が涙声でそう言ってもみんなはその場から動かない。何だか怖くなってきて余計に涙が溢れそうになった。じわじわ視界がボヤける。その瞬間1番奥にいた宗ちゃんがこっちに向かって歩き出してくるのがわかった。
「ごめん。俺が悪かったよ」
『そ、宗ちゃっ...』
その瞬間むぎゅっと抱きしめられてみんなの前で宗ちゃんの腕の中におさまった。うえぇ?!どんな状況?!
「だから泣かないで」
耳元でそんな声が聞こえて蒸発しそうなくらい体温が上がるのがわかってワタワタ慌てていたらワンテンポ置いてから周りがワアー!と騒ぎ出してビックリした。何、今度は急に騒ぎ出してどうしたよ?!
「離れろ!何抱きしめてんだよお前!」
「やめろや神!なまえに触るな!」
無理矢理剥がされそうになって色々なところから手が出てくる。どうしたらいいかわからないからとりあえず抵抗もせずに宗ちゃんの胸の中に静かに収まっていたら宗ちゃんがいきなり盛大な舌打ちをした。
「チッ...」
『宗ちゃ...?』
「俺以外にそんな顔見せるんじゃねーよなまえのバカ」
途端に宗ちゃんから私に向かってそんな暴言が飛んできて言葉を失った。何?!今の...本当に宗ちゃん?顔真っ赤だったしなんだか見たことないような表情だったけれど...?
『宗ちゃん?...』
「1度でも見れたんだからありがたいと思ってくださいね」
周りでワーワー騒ぐ先輩たちと仙道くんにそう言い捨てると私の腕をとって宗ちゃんは走り出した。追いかけてくる怒った先輩たちをよそに全速力で廊下を走り回る。たまたま空いていた空き教室に放り込まれると若干黒板に肩をぶつけたけどまぁ気にしないでおこう。内側からシュッと鍵をかけて宗ちゃんは私に向かってシーと人差し指を口に当てていた。
廊下からどこ行きやがったーなんて声が聞こえてくる。宗ちゃんはしばらく黙っていたけれど声が聞こえなくなると私の方を向いてごめんと呟いた。
「悪かったよ、泣かせるつもりなくて」
『...私の方こそごめんね』
「...もう2度と誰かの前で泣かないで」
その言葉の意味がよくわからなかったけれど多分泣かせた犯人だと散々いびられたから嫌だったんだろう。わかったと頷けば俺の前ならいいよ、と付け加えられた。
『宗ちゃんの前でなら泣いてもいいの?』
「2人の時ならね」
『どうして?』
「あー...あれだよ、なまえの泣き顔ブサイクだからみんなかわいそうでしょそんなの見せられたら」
見慣れてる俺なら大丈夫って結局いつもの低体温宗ちゃんに戻ったけれど、ほんの少し優しい宗ちゃんになった気もする。私が笑えば宗ちゃんも同じようにニコニコ笑ってくれた。
「笑ってる方がいいよ、まだマシ」
『何それ!宗ちゃんの前では泣きも笑いもしないから』
「無ってこと?それは1番ブサイクだよ自覚しな?」
『...(前言撤回、全然変わってない...)』
待ってよ、泣き顔が可愛すぎて焦ったんだけど?!(泣かせてしまったことよりも泣き顔の破壊力が...)
(あの場にいた全員の記憶からなまえの泣き顔が消えますように)