K






「……ん、っ……」


あれ、ここは…


「…俺の、部屋…」


時計を見る。午前6時。えっと今日は…水曜日…。ということは普通に学校があって…


「あれ、俺…昨日何してたんだったか…」


ぼやぼやとした頭で考えてみる。俺は昨日何をしてたんだっけ。きちんと寝巻きを着てるあたりちゃんとしていたみたいだし…


あれ、つーかそもそもなんで、昨日のことなんて気にして…


「…昨日の記憶が、ねぇな…?」


俺、昨日どこで何してたっけ…?なんかおかしくねぇか…?昨日は火曜日ってことだよな?それなら確実に学校はあったはずだし授業や部活だって…


何一つ思い出せねぇってそんなの…ある…?


「…でも、普通に過ごしてたってことだよな。」


朝から頭を使うのだけはごめんだ。ただでさえぼうっとするってのにこれ以上酷使したくねぇ。やめだやめ。どうせ大したことしてねぇんだ、大体そんなオチだろ。







「じゃ、行ってくる。」

「いってらっしゃい、気をつけてね。」


いつものように見送る母。いつも通りの道。いつも通りの風景。


「おはようございます、三井さん。」

「おー、宮城。」


いつも通りの見慣れた顔。やっぱり何もかも普段と変わらない、俺の日常だ。


「どうでした?昨日…。これ、聞いても大丈夫なやつっすか?」

「…は?」


隣を並んで歩くなり宮城はいつも通りの気持ち悪いほどの笑みを見せつけては俺の肩をバシバシと叩いた。「あー、ダメならダメでそれ以上は聞かないっす」だなんて楽しそうに笑って頭をかいている。


昨日…?


「何言ってんだ、オメェは。」

「痛っ…えっ、ちょ、機嫌悪いの?!」


あぁ、そういうことね!朝からすんません!だなんてそんな叫び声がするなり宮城は俺から離れていく。何?何の話?お前一体何の話してんの?


「昨日…?」


何かあった…の、か…?














その一日はいたっていつも通りだった。見慣れた授業、見慣れた顔、当たり前のように鞄を手に取り部室に向かう放課後…


何もかもがいたって正常。


「あれ、三井さん早いっすね。」

「あぁ、なんだか落ち着かなくてな…」

「…まぁ、人生いろいろありますからね。」


宮城は笑った。俺に向かって笑いかけ、そのまま手に持っていたボールをリンクへと放った。綺麗に床へと落ちたそれは想像以上にしなやかで、なんだか儚げに思えた。変な感情だ。


「失恋の痛みには新しい恋って言いますから。」

「失恋…?」

「いやいや、別にそんなすぐにって進めてるわけじゃないんですよ。でも切り替えは大事ですからね。」

「…お前、さっきから何の話…してんの?」

「…まぁた、照れちゃって!俺には隠さなくてもいいっすよ。」


宮城はそう言って俺の肩をバシバシと叩く。変な奴だな、意味わかんねぇし…


「さ、気分転換しましょうね。練習練習〜!」

「…は?何なんだよ、あいつ…」

















練習を終え自主練を終え、家へと帰る。いつも通りの日常のはずが何故か何かが物足りない気がして心がモヤモヤした。今日の俺は一体どうしちまったんだろう。あぁもう…


「おかえり。早かったわね。」

「…そうか、?」


家へと入るなり母親はそう俺を出迎えた。早かった…?いつも通りに帰ってきたはずだよな…?それに自主練までしてきたんだから少なくとも早いってことはないはず…


「なんなんだよ、まじで…」












珍しく練習が午前だけだった。土曜日。体育館の点検やらなんやらでせっかくだから休養に充てると先生がそう言った。桜木や流川なんかは残る気満々だったけれどいいから休めと彩子にハリセンを食らっていた。気持ちはわからなくもないがやっぱ馬鹿な奴らだ。


「んまぁ確かに、いきなり休みになってもやることねぇな…」


帰路、ぼうっと空を見上げる。青い空が俺を見下ろして笑ってるような気がした。なんだろう、なんなんだ…


「…空、?」


…なんだ?なんかここらへんがモヤッとして…苦しい。


空?空のせいか…?この青空に見覚えがあるような…


「…痛ぇ、なんだこれ…」


胸が苦しい上に頭も痛み出す。なんなんだこれ、わけわかんねぇ。だけどなんか…この間もこんなことがあったような気がして…


「…は、?なんだよ…っ、痛ぇんだけど…」


頭が…、頭が…


「…っ、はぁ、…はぁっ…」


その時だった。ふと脳裏に浮かんだとある人物の顔。その顔は靄がかかっていてはっきりとは見えないんだけれど…でも、俺、なんか…


この人を、知ってる…?


「…っはぁ、誰…、だれ、だよ…」


お前は、誰…?


“ 三井くん “


「…うっ、…あぁ、頭が…っ、!」











知ってる。その声、知ってる。その顔、知ってる。


ソイツを、知ってる。


「…っ、はぁっ、はぁ…」


わかんねぇ。わかんねぇけど…


心が、叫んでる。


ソイツを覚えてるって、忘れたくねぇって…


「ここは…病院…か、?」


体が勝手に動いた。無意識のうちに向かっていた。たどり着いた先は見覚えのある病院だった。


「そうだ、俺が怪我した時に…」


しばらく入院してかなり世話になった病院だ。でもなんでここに…?


「…あれ、三井くんじゃないか?」

「えっ…、」

「三井くんだよね?おぉ、久しぶりだね。」


白衣を着た長身の男。眼鏡をかけていてニコニコと人あたりの良さそうな優しい笑み。


「花形、先生…?」

「そうそう!よく覚えていたね。元気そうで良かった。」


その様子じゃもう喧嘩はしてないみたいだね?


先生はそう言って笑った。懐かしい顔に心がキュッとなる。自暴自棄で喧嘩に明け暮れ荒れていた頃の自分を思い出す。とても恥ずかしかった。


「あの時は世話になりました…。」

「おやおや、立派になって。…もしかして、またバスケットを?」

「…先生、何で俺がバスケしてること…」


それは純粋な疑問であった。あの頃の俺は確かに先生に世話になっていたけれどただの不良生徒であってバスケットのことなど口にするはずもなかった。元々俺がバスケでそこそこの成績を残してたから知ってた…とか?花形って…そういやどこかで聞いたことある名前…のような…


「知ってるよ。凄く有名な選手だったよね。」

「………」

「君のファンだって女の子がいてね。武石中の三井寿は僕にとってもスターなんだ。」


先生はハハッと笑った。その笑顔はとても綺麗だった。青空、病院、眩しいほどに綺麗な笑顔…


「…なまえ、」

「…ん?何か言った?」

「…〜〜っ、先生、お、おれ…行かねぇと…!」

「あっ、ちょっ…三井くん?!」


脳裏にハッキリと浮かんだ綺麗な笑顔。左頬にガーゼを纏いゆっくりと歩くあいつの、なまえの…


「なんっで…、俺はあんな大事な奴のこと、忘れてたんだよ!」











** 花形先生は翔陽の花形くんのお兄さんという設定です。





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