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「それじゃ、三井くん。もうこんな大怪我はしないようにね。」

「…っす。」

「とか言って、すぐやり返しに行くんでしょう?わかってるんだからね。」


先生はカルテでコツンと俺の頭を叩いた。


「…っ、」

「せっかく綺麗な顔なんだから…傷、増やさないこと。」

「…なんだよ、綺麗って…」

「元気でね、学校頑張って!」


ポンッと背中を押された。ゆらゆらと手を振ってくる先生。名前はなんだったか…花形?結局うまく覚えられなかった。


なんやかんやで長期間入院したような気がする。今日が何日なのかもうどうだっていい。


あの日からなまえは俺の病室に姿を現さなかった。意味がわかんねぇ…と悪態をついたところで、だ。しかし不思議なことに約束どおり毎日花瓶の水はかえられていたようで。俺がリハビリや治療の為に部屋を出たタイミングでこっそり水をかえてんのかと思うと毎日腹が立った。けど今日も来てくれたんだ…と顔は見えなくともアイツの行動に安心してる自分もいたりして…あぁ、めんどくせぇ感情だよ…


「キミのファンだって女の子を知ってるんだ、三井くん…」


とある医師の呟きは空に向かって消えていった。小さくなった後ろ姿、投げかけた相手である三井に届くはずもない。
















「…ふざけんなよ、アイツ…」


いつになったら会えるのだろうか。三井の頭の中はそんなことでいっぱいであった。あの野郎…結局花持ってきた日以来顔合わせてねぇじゃねぇか…


そして一番腹が立つのは今になってもどこの高校に通ってるのか、家はどこなのか…大事な事を何も知らない自分自身だ。


ムシャクシャしたら喧嘩する。もう怪我はしないでほしいだなんて医師からの言葉はとっくの昔に頭から消えていた。三井は退院するなり再び宮城と顔を合わせた。桜木というよくわからない得体の知れない一年に邪魔をされ結局のところうやむやになってしまったのだが…


「許さんぞ、あいつら…絶対許さねぇ…」


打倒宮城に加えてなんだかんだ目立つ厄介な奴らが全員バスケ部だということもあり三井はバスケ部に乗り込みすべてを潰してやるんだと勝手に計画を立てたのであった。













「目立ち過ぎだ、鉄男…」


計画通り来たかと三井は笑った。既に放課後の校内は鉄男たちの登場により騒がしくなっていた。地面には既に倒れた男も転がっている。結局体育館の場所を教えなかったらしい、変な男だと三井はそう思った。


さぁ、全部ぶっ潰してやる…


体育館へ向かう途中、三井は笑った。自分の心に残る何もかもを今日今からこの場所で全てぶっ壊してやる。そう思うと自然と笑みが溢れたのだった。


宮城も桜木もバスケ部の奴ら全員…もう二度とバスケができねぇようにしてやる…


いつかの俺、みたいに…


『…待って、三井くん。』

「…は、?」


あと数メートルで体育館、そんな時だった。スッと耳に届いた声。先頭を歩く三井は思わずその場に立ち止まった。


「あ…お前…!」

『何、しにいくの…』


それは聞き違えるはずもない。息を切らし制服を着たなまえであった。会いたいとずっと願っていた張本人。どうして他校であるここに、そんな慌てて…と三井の頭の中はやけに冷静であった。しかしなまえの真剣かつ不安げな顔に三井は下唇を噛んだ。


コイツ、今から俺がすることを知って…それで、止めに…?


「…何もかも、終わりにしてやんだよ。」


俺を止めに来たのか…?


『ダメだよ、三井くん…そんなことしたって…、』

「うるせーよ!黙れ!」


三井は声を上げた。そして必死に止めようとしていたなまえの前を通り過ぎ体育館へと向かったのだった。


わかってんだよ、お前が考えてることくらい…そんなことしたって何にもなんねぇって、俺がバスケ部に戻れるわけじゃねぇって、またあの時みたいに…


輝けるわけじゃねぇって、何の意味もねぇって言いたいんだろ…?


でも今更そんな言葉で立ち止まるわけにいかねぇんだ、俺は。


『三井くんっ…!』


ほっとけよ、ずっと顔見せなかったくせに…何だよ今更何しに来たんだよ、このクソ野郎が…


「オレたちもまぜてくれよ、宮城。」


全部、ぶっ潰す。必ず、何もかも…















「…どのツラ下げて行けばいいんだよ、俺のクソ野郎…」


あんなに怒鳴っておいて、引き止めるアイツを無視しておいて、今更「バスケ部に戻ることになりました」だなんてカッコ悪いにも程があってどうしたらいいのかわかんねぇ…会いたい、アイツに、会いたい…でも…


「合わす顔がねぇ…」


安西先生を見た瞬間俺の全ては崩れ落ちた。意味がわからないほどに涙が溢れて今まで押し込んでいた全てが余すことなく隅から隅まで溢れ出た。この野郎…と自分を憎んでもしてしまったことに変わりはなかったし、結局のところ俺にできることってバスケ部を強くすること以外に見当たらなかった。


だからこそ、今日もやる。体力がねぇんだから基礎練だって重要だし、一試合に打てるシュートの数だって今の体力からしたらそうそう多くないはずだ。だからこそ成功率をあげて一本でも多く収めるようにしないといけない。


会いたい…謝りたい…だけどそんな時間もねぇ…


今まで偶然会っていた通り道も、その時間には部活をしているため通ることもなくなったし、なんとなくで繋がっていた部分が俺が復帰したことによって全て無くなってしまった。


今この状況でアイツに会う策を真剣に考えるとしたら…


「わかってんのは制服…だけ、か。」


絵に描いてあのマネージャーにでも聞いてみようか?でも俺の絵で伝わんのか?いやでも制服なんて結構わかるもんだろ、同じ女なら。


「っし…あとであのマネージャーに聞いてみるか。」


行動しなきゃ始まらねぇしな…!











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