01
「なんでスカート?ズボンにしなよ」
『.......だって、履きたいんだもん.......!』
「いいから早く着替えてこい!」
昔は俺の言葉にもなまえなりに抵抗していたんだと思う。「だって」とか「でも」とかそんなのがよく言葉の先頭にくっついてきてたから。
「...生脚?は?やめておきな?下にジャージ」
『あ、うん.....すぐ履いてくる.....』
今となっては俺の言うことならなんだって聞くお利口な女の子になっちゃったなまえ。数分で中学校のダサいジャージを下に履いて出てきたなまえは無言で歩く俺の後ろを必死になってついてくる。
「もっと早く歩いてくれない?」
『あ、ごめん........』
幼馴染として隣の家に生まれたからにはなまえという名の天使を守るのは確実に俺の役目であった。むしろその為に同じ年に生まれてきたんだと思うくらいだ。あまりにも可愛くてお人形みたいななまえを守るのが使命なのだけれどついつい口からは辛辣な言葉が出てきていつのまにか俺の隣で縮こまって生活するようになったなまえとどんな理由であれ隣にいるのが自分だという現状に大満足な俺。
「進路の紙は?」
『机の中にある...』
「着いたら俺のとこ持ってきて」
『うん......』
程なくして学校に着きなまえは言われた通り白紙の進路希望調査の紙切れを俺に差し出した。適当にペンをとりそこに「海南大附属」と書けばなまえは目を丸くして紙を見つめていた。
「何?早く戻んなよ」
『....そ、宗ちゃんと同じ高校...?』
「......は?文句あるなら言ってみて」
椅子から立ち上がった俺に一歩後退りしたなまえは「いや...」と言って自分のクラスへと戻っていった。今更離れ離れになる気もないし手離してやる気もない。これからもアイツの隣にいるのは俺。それでいいんだよ。
ある日の昼休み、いつも通りなまえの教室へといけばそこにアイツの姿はなくて。ハァ?と思いながら探しに行けばたどり着いた裏庭から聞き捨てならない言葉が聞こえてくる。
「みょうじさんさぁ、いっつも下ばっか向いてどうしたのー?お金でも探してんのー?」
「あぁー家貧乏とか?それで優しい神くんに助けてもらってるんだー?」
数人の女に囲まれたなまえは長いスカートの裾を握りしめ下を向いている。突然ひとつに束ねた髪がひとりの女によって引っ張られ「痛っ...」となまえの口から漏れた。
「目障りなの。消えてくれない?神くんに幸薄いの移っちゃう。」
なまえは頭の上からバシャッと水をかけられずぶ濡れになった。何も言わずにやっぱり下を向いている。スカートの裾を力強く握りしめたまま。
「明日から学校来ないでね。」
声高らかに笑いながらその場を去る女たち。なまえは濡れたまま校舎へと戻り俺が問えばなんて答えるんだろうと教室の前で待ち伏せしていれば俺の元へたどり着く前に数人の男に囲まれていた。
「みょうじさんどうした?!大丈夫?!」
「これよかったら使って!」
差し出されたタオルを受け取り「ありがとう...」となまえが言えば男たちは途端に頬を緩ませて「何があったの?」なんて話かけている。
俺のものだっていうのに昔からその顔の良さや笑った顔の破壊力からなまえはモテる。中学に入ってからは俺のおかげで自分に自信がなくなったのか下ばっか向いて歩いてるからなまえの顔をまともに正面から見たことないなんて奴も多いだろうが。それでもやっぱり人気は高くてそのことが最高に俺を苛立たせる。
「......なまえは俺のものだってば。」
「早く起きろ。遅刻になるつもり?」
『......はい。』
昨日のことがあってか中々降りてこないなまえを部屋まで迎えにいけばベッドの中で丸くなって縮こまっていた。俺の言葉に涙目になりながら支度を始める。んな顔しなくたって平気だよ。
教室に入るなり数人欠席がいてそれは全員昨日中庭にいた女たちで。隣のクラスもまた同じのようで仲良くつるんでた数人のグループがそろって欠席するもんだからホームルームの時間は先生たちが慌てていた。
休み時間になり昨日貸してもらったであろうタオルを手に廊下へと出てくるなまえ。男たちに近づけば奴らはビクッと肩を上げて警戒するようになまえを見た。
『これ、返しにきたの。昨日はどうもありがとう。』
「あ、いえ........」
男たちはタオルを受け取ると素早く教室の中へと戻っていった。どいつもこいつも最高に顔が青ざめていてとても気分がいい。
なまえが廊下を歩けば自然と道ができ周りの生徒は避けるようにしてなまえから距離を取った。下を向きながらもそんなおかしな雰囲気を感じ取っているらしいなまえ。廊下で立っていた俺の前に来るとゆっくり顔をあげた。
『そ、宗ちゃん...私...何かしたのかな...』
「は?何が?」
『みんな、離れていくの...』
とても不安そうな顔が最高に可愛くてでもそんなこと素直に口にできるほど俺の性格は真っ直ぐじゃなくて。
「知らないよ。早く教室戻れば?」
『う、うん.......』
泣きそうな顔で戻っていくなまえ。
当たり前だろ。なまえに関わるのは俺だけで十分なんだから。
何かしたのはお前じゃなくて、この俺なんだよなまえ。
それからなまえが嫌がらせを受けることも男から告白されることもすっかり無くなった。気が付けばなまえに話しかける奴は男女問わず一人もいなくて。アイツの周りには確実に俺以外誰もいなくなった。
俺さえいればそれでいいの(ほら帰るから。早く来てくれない?)
(...う、うん...)
高校編 →