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三井はほとんど学校へは行っていなかった。親がいる手前制服を着て家を出ることは多くても実際に湘北の門を潜ることはごく稀でありほとんどを鉄男や竜たちとつるんで過ごしていたのだ。


「どうした、三井。」

「あ、いや…」


バイクの後ろに跨り街中を駆け抜ける。ふと下校中の女子生徒が目に止まり三井は反応を見せた。


同じ制服…


二人並んで歩く女子生徒が着ている可愛らしい制服には見覚えがあった。なまえと同じ…と三井は頭の中でそんなことを思っては胸を高鳴らせた。まさかアイツ?なんてそんな淡い期待は一瞬で崩れ落ちる。どう見たって違うだろ…と自分自身に落胆した。


しかしあの制服…どこのなんだ?


三井は懸命に考えたが当然わかるはずもなかった。鉄男に聞いたところで結果は見えているし、それは竜も同じであろう。なまえに会えた時に聞いてみればいいものを、最近の自分はアイツの顔を見るだけで頭がおかしくなりそうだとそんなことすら思ってしまう。


「あの子と同じ学校じゃねぇか。」

「…ま、まぁ…そうだな…」


鉄男にまんまと図星を突かれ三井は苦笑いする。そんな様子をからかうように鉄男が二カッと笑うもんだから三井は心の中で舌打ちをするのだった。


「残念だったな、三井。」

「うるせーよ、放っとけ。」


先日「好き」と認めてから、三井の中でのなまえへの想いはどんどん膨らんでいった。それはそれは心の中では抑え切れないほどまで膨らみ、会えない時間がつまらなく、そしてどこか寂しく感じるほどだった。自分の過去、そして変わり果てた今を見せ、これでもかというほど弱い姿をさらけ出してきた。それでもなまえはいつだって自分のことを「三井くん」とあの柔らかく優しい声で呼んでくれる。いつだって自分を受け入れてくれる…そんな寛大さとどんなハンデを背負ったとしても負けじと前向きに生きる逞しさ、そしてあの美貌だ。もはや惚れる以外に選択肢はない。


同じ制服…通りすがりに見えたそれ。ただそれだけで三井の心は痛んでいた。それはあの二人組のどちらかがなまえではなかったということではない。


「………」


制服を着た可愛らしい女子高生。なまえの隣に並ぶのが自分だと想像するだけで三井は胸の奥が苦しくなった。所謂「普通」の女子高生であるなまえ。制服を着て学校に行って授業を受けて…等身大の十七歳である彼女と、学校にも行かず喧嘩に明け暮れ長髪で不良に属する自分とじゃあまりにも釣り合わないとそう思ったのだ。


アイツは自分に見合った男と結ばれて…放課後待ち合わせなんかしてデートとか一緒に勉強とか…


そっちの方が断然幸せになれるんだろうな…


「…っ、おい…なんで急に止ま…っ、」


ぼうっと考えを巡らせ勝手に胸が苦しくなっていた三井。突然乗っていたバイクが止まり何事かと鉄男に話しかける。すると前に乗っていた大きな体が自分へと振り向き「降りろ」と一言。


「…は?」

「早くしろ。」


なんでこんな場所で俺だけ…?と納得はいかずとも言うことは聞く三井がバイクから降りる。すると鉄男は顎を動かし何かをさした。その方向へと視線をやるとそこにはひとりの女子高生が歩いている後ろ姿があったのだ。


「見つけたぜ、お前よりも先に。」


二カッと笑う鉄男の声を聞き、三井は自然と「サンキュ…」と礼を呟いていた。そして迷うことなくその後ろ姿に近づいていく。相変わらずゆっくり、ゆっくりと慎重に歩く華奢で可憐な体だ。


「…つかまれば。」

『へっ…』


ビクッと肩を上げて自分の方を見上げる綺麗な瞳。目が合うなりその顔はパッと表情を変え「三井くん…」といつもの優しい声で名前を呼んでくる。先ほどまでどんよりとしていた心は瞬く間に温まり、枯れ果てていた花壇に一気に満開の花が咲いたかのようだった。


『ありがとう…今日は少し調子が悪くて…』

「…そういう日も…あんだな。」

『…うん、何もかも予定通りにならない…人間らしくていいでしょ?』


なまえはそう言って可愛らしい笑みを見せた。そしてそっと三井の腕に触れる。腕を絡めるようにして並んで歩く二人。三井は自然となまえのペースに合わせゆっくりゆっくりと道のりを歩く。


「人間らしさ…か。」

『うん、生きてるなぁって感じがする。』

「…お前はどこまでポジティブなんだよ。」


不思議な奴だな…と呆れながらも笑う三井になまえも一緒になって笑顔を見せた。そんなに密着されると…と焦る気持ちもあるが今は無視しておくことに決めたのだった。せっかく会えたんだから平常心…平常心…


『三井くんにたくさん会えて嬉しいな。』

「…は、?」

『だって、よく会うでしょ?約束も無しに。』


あっけらかんとそう言うなまえに平常心を決め込んでいた三井の心は簡単にぐらっと揺れた。なんだ、なんなんだよお前は…と赤くなる顔を隠そうとそっぽを向く。


お前に似合うのは俺じゃねぇのに。


少なくとも「今の」俺じゃねぇってのに…


「…あのよ、」

『うん?』

「……っ、」


“ 好き “


そう出かけて飲み込んだ。


「な…なんでもねぇよっ、」

『えぇ…?』













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