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高校に入ってから好きな子が出来た。
『清田くん、おはよう。』
「あ、お、おはよう…!」
そしてありがたいことに席替えで隣の席になった。みょうじさんはいつも俺に朝の挨拶をしてくれる。だから一日に一回は会話が出来ると思っていたけれど、隣の席になったからにはその回数が多少は増えたりして…だなんて下心が大きく出過ぎている。こんなのがバレたら幻滅されかねない。平常心を装うんだ…
ひと目見た瞬間にピキーンと来て「マジでどタイプ…」と思った時にはもう遅かった。一瞬…ほんの一瞬、コンマ何秒で恋に落ちたんだから自分でも驚いた。でも俺が惚れたのは彼女の見た目であって中身を見ずに好きなんて言えるのかと初めての一目惚れに戸惑ったりもしたけれど。
なんてこたぁねぇよ!知れば知るほど好きじゃねぇか、こんチキショー!
『宿題やった?結構難しかったよね…』
「あ、あぁ…みょうじさんなら、出来た…だろ…?」
『自信無いよ、一応やってみたって感じで。』
教えてとか見せてとか言ってみたいけどそんなこと言って嫌な思いにさせないかとかどうしても考えてしまう。でも勇気を出してなんとかしなきゃいけない。なにせみょうじさんは本当に本当に本当に底がないくらいにモテるんだよ…マジでへこむくらいにカッコいい先輩達からも告られてるの見たし…
「もしよかったら、その…」
『清田くん。』
「え、な、なに…?」
『お友達、来てるよ。』
そう言って彼女が指さした方を見れば「清田ー」なんて相変わらず間延びした声で俺を呼ぶ女の子達がいる。あぁ…ありがとう…と項垂れながら礼を言い席を立つ。タイミング考えてくれ…と心で泣きながら廊下へと向かった。
「清田ー、朝会わなかったじゃん。」
「そういう日もあるだろ…で?どうしたんだ?」
「コンビニの新作、ほら。食べなよ。」
「おぉ、いいのか?」
やたらとコンビニが好きな俺によく新作をくれるなかなかいい奴ら。見た目こそ派手だけれど中身は優しく友達思いなのも知っている。もう当分来ないオフを心待ちにしてくれるのはありがたいけどできることならみょうじさんとデートとかしてみてぇな…なんて贅沢なことを願ってみる。うわぁ…絶対無理だろうけど…
「清田どしたー?元気なくない?」
「いや、別に…俺は至って普通だよ。」
「何があったか知らないけどこれ食べて元気だしな?スーパールーキーは悩みも尽きないだろうけどファイトだよ。」
うわぁもう…なんなんだお前らいい奴すぎる…と全力で礼を言って教室へと戻った。隣の席にはみょうじさんが座っていてなんとか話しかけようとした矢先担任が入ってくる。チラチラと横目で彼女を確認するも今日もまた髪の毛がサラサラで、窓から風が入ってくるたびにいい香りがする…とそれしか考えられない自分が嫌になる。にしたってなんなんだ、横顔も美しいとは…
自信があるのはバスケットだ。だからこそそこで勝負してみたい。部活を見に来てと言いたい。レギュラーなんだって言いたい。君の為にいくらでもダンクしてみせるからって、言いたい!!
「〜〜っ、清田!!」
「…は、はいっ、!」
「何度も呼んだぞ、何をぼうっとしてる。高頭監督と牧に言うからな。」
「えっ、ちょっ…ご勘弁を…!」
あちゃ…こんなことがしたかったわけではないし、こんな姿を見せたかったわけじゃ…案の定クラスメイトに紛れてクスクス笑うみょうじさんがいて。あぁもう…本当にかっこ悪い…
廊下を歩いていたらたまたますれ違った。彼女の名前が出てくる前に、「あ、信長の…」という言葉が浮かんだあたり、みょうじさん=信長が俺の頭の中で結びついているらしい。
一方的に君の恋心も、それが一方通行じゃないことも知っているけれど実は話したことはない。信長の想いびとだからと信長の先輩として話しかける必要もないとすれ違おうとした時だ。
『あの…』
「…え、?」
『神さん…ですよね?バスケット部の…』
まさかの彼女からの声に「はい」と何故だか敬語で返事をする俺。それを聞くなりみょうじさんは「良かった」と安心した顔を見せた。あ、なるほど…確かにこりゃ可愛い。
「俺になにか用でも…?」
『はい、一度お話ししたいと思ってまして。』
「…それは、どんな話かな?」
当ててみようか?信長のこと?なんてグイグイいく気にもなれず知らん振りをしてみる。彼女は廊下に誰もいないことを確認するなり「実は…」と小声で切り出した。
『私、バスケット部の…清田くんが…好きで…』
「…信長?」
『あ、はい…仲良いですよね?それで、その…』
みょうじさんは言いづらそうにそう言うと「ハッキリ教えてください」と急に俺の目を見つめて訴えてきた。おぉ、可愛い…確かに可愛い…って、そうじゃない。信長のタイプを聞くとか、かな?
『清田くん、彼女いますか?』
「彼女?」
『あの、隣のクラスの女の子…少し派手な子達と仲がいいみたいで…』
…ふむ、なるほど。よくわかった。どうやら勘違いされているようだ。んまぁ、わからなくもない。
「いないと思うよ、聞いたことない。」
『本当ですか?!神さんにも秘密にしてるなんてことは…』
「あいつ分かりやすいから黙ってても居たらすぐバレると思うよ。」
そっか…よかった…とほっとするみょうじさん。この子もこの子で信長に対して必死なんだなぁと思うとなんだか甘酸っぱくてここらへんがグッとなった。ていうか俺は一体何をしてるんだ…恋のキューピッド役か?似合わない…
『清田くん、あの子達とは楽しそうに話すのに、私が頑張って話しかけてもいつも素っ気なくて。』
素っ気ない…そうか、この生粋のド天然には信長のあの誰がどう見ても好きな子に対する緊張が「素っ気ない」という風に見えてしまうわけか。まぁ確かに、あのギャル達には笑うけどみょうじさんには顔真っ赤にしてどもるだけだもんな…まぁ無理もないか。でも信長の渾身のアピールにも気がつかないのだから、この恋は多分君が一歩踏み出さなきゃ進展がないと思うんだよ。
『私に気が無いのはわかるんです。でもやっぱり好きだからなんとかしたくて…どんな子がタイプですかね…?』
「…みょうじさん、だよね?」
『あ、はい…そうです。』
「信長のタイプはわからない。けど恋愛っていうのは必ずチャンスが回ってくると思う。」
どうしたってくっつけてやりたいと思ってしまうんだからやっぱり俺は信長のことが可愛くて仕方ないらしい。でも最終的に行動を起こすのは君たちの意思だから。俺はその手助けができたらいいよ。
『チャンス…』
「その時に信じられるのは自分だけだ。今だと思ったら精一杯思いを伝えて、もし脈があれば掴みかけた手は絶対に離したらダメだよ。」
『…凄い…心にしみた…』
神さん…恋愛マスターですね!なんて微笑まれて。いや、そうじゃないでしょと心の中でつっこんだ。
「陰ながら応援してるよ。」
『ありがとうございます!お話できてよかったです!』
君の頑張りは信長の幸せにも繋がるんだからね、とそう思いを込めて微笑みその場を後にした。
可愛いアイツの為ならなんだって(さぁ、頑張れ。俺に出来ることはやったからね)
B→