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『ごめんね、遅くなっちゃった…』

「ううん、お疲れ様。」


せっかく神くんの部活が休みだというのに私には選択授業の補習があって。駐輪場で柱に寄りかかりながら待っていてくれていた神くん。ただそれだけで絵になりすぎてどうしたらいいのかとドキドキしてしまう。それにしたってこの貴重なオフ…一秒たりとも無駄には出来ないぞ…


「どこか寄って帰ろうか?」

『えっ……』

「ほら、この間言ってたでしょ。」


雑誌を見ながら…と笑う神くん。ハッと思い出す私。そういえばこの間ファッション誌に載っていた新しく出来たお洒落なカフェに行ってみたいんだと彼にぽろっと伝えたような気が…


『お、覚えてたの…?』

「そりゃね、なまえとの会話なら何一つ忘れないよ。」

『そんな…』


サラッと微笑みながら言うもんだからバクバクと心臓がうるさくなる。もう、かっこよすぎてどうしたらいいんだ…!一緒に行きたいっていう意味で言ったわけではなくて、もちろん共に行けたらいいなとは思うけど、ただ美味しそうだなって思ってただけで…それに…


『ううん、寄るなら公園にする。』

「いいの?」

『うん、いいの。』


せっかくの休みに人混みに連れて行くのはなんだか気が引けるんだよね。神くんの隣でゆっくりとのんびり歩きたい。ガヤガヤしたところには近寄らない。


この人と穏やかな時間を過ごしたい。


「なまえのクラスは今日テストだったんでしょ?」

『あぁ…日本史ね…』

「そんな顔するけどクラス順位一位だったらしいじゃん。」


なんでそんなこと知ってるの…他クラスなのに…と顔をあげれば自転車を押しゆっくりと歩く神くんは「なまえのことならなんでもわかるよ」と笑うんだ。あぁもう、ずるい…


『…一応、神宗一郎さんの彼女…なので。』

「…俺は勉強出来なくたってなまえを手離したりしないけど、モチベーションになるんならそれはそれでいいよ。」


そうやって甘やかす…もう…と思いながらも頬は緩みっぱなしだ。こんなに幸せでバチが当たらないだろうか…


去年、二年生の頃に行った修学旅行先で神くんの方から告白され付き合うことになった。あれから約一年、順調に交際を続けている。彼の隣に並んで歩くことは未だに慣れるなんてことはなくて、毎度毎度ドキドキと心をときめかせながら、そして彼のことを少しずつ少しずつ知るたびにどんどん心は奪われていく。


「でもあんまり頑張りすぎないでね。」

『…受験生だし、ある程度は頑張らないと。』

「なまえは頑張り屋さんだから倒れないか心配だよ。」


フワフワと頭を撫でられる。その度にまた彼を好きになっていく私。神くんがバスケ部のキャプテンとして部員のみんなに慕われ懐かれ尊敬される意味が充分に、わかり過ぎるほどにわかる。こんなキャプテンならついていきたいと思っちゃうよなぁ。


『神くんも、あんまり頑張りすぎないで。』

「俺は大丈夫だよ、なまえがいてくれるならそれだけで幸せだから。」


なんだって乗り越えられちゃうんだよなぁ〜…と間延びした穏やかな声。自転車を押す神くんはそう言うと「いつもありがとう」なんて私に笑いかけてくる。


『こちらこそ…本当に幸せをたくさんもらってて…』

「俺の方がね。」


話しながら幸せを感じながら歩みを進めているうちに見慣れた公園へとたどり着く。神くんと共に何度か来たことのあるここ。自転車を止めゆっくりと園内の散歩道を歩いてみる。そっと繋がれた手が温かくて、自転車を押す彼の隣を歩くのも、こうやって手と手を繋ぎ歩くのも、何もかもが幸せだなぁ…とそんなことを思いながら。


「なまえ。」

『…うん…?』

「俺らあと半年で卒業するじゃん。」

『そう、だね…』


フワッと風が吹く。夏が終わり秋の訪れを感じさせるひんやりとした涼しい風だ。


「大学生になっても社会人になってもこうして手を繋いで二人で歩こう。」

『………』


うんともわかったともよろしくとも言えなかった。聞きようによってはもっと深い意味にも思えたから。神くんの心のうちが読めなくてそっと顔をあげる。


「返事、くれないの?」

『あ、えぇっと…』


ニコッと微笑むその顔に「本気」だと書いてあるように見えた。これはその…


「遠回しじゃ伝わらないか。」

『…神くん、』

「どうした?」

『け、結婚…しようか。』


自分で口にして自分が一番驚くとは何事だと呆れてしまう。ポロッと出たにしてはあまりにも大きな事を言いすぎた。けれども神くんの言ったそれはそんな意味に思えたし、もうわからないなら白黒はっきりしようとそう自分に言い訳する。


「…うん、しようか。」


神くんはそう言って「なまえの方がよっぽど男前だな」と困ったように笑った。


「…おわっ、?」

『神くん、大好きだよ。』


勢いよく彼に向かって飛び込んだ。驚きながらも受け止めてくれるたくましい体。この先もずっとこの人といられたら…私は永遠に笑って過ごせるんだろうなとそう思った。


「…俺も、大好きだよ。なまえ。」






君と共に歩む誓い


(俺ん家、来てくれる?)
(うっ、うん…お邪魔します…)
(そんな顔赤くして何想像したの?俺の裸?)
(なっ…!)




付き合う前のふたり →











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