番外編




** もし学園祭に陵南勢が来ていたら








『1年10組でカフェやってま〜す!』


暑い…暑いけど客引きは大事…!看板片手にウロウロとしてみるも先ほどから視線が痛い。睨みをきかせてきた流川くんが他校の女子に囲まれているうちに抜け出してきたはいいけれど…やっぱりこの格好だと周囲の視線がなぁ…


にやにやにやにや…気持ち悪いほどそんな目で見られてなんかもう感覚が麻痺してきた…


「カフェっすか?案内してもらっても?」

『あ、えぇっと、そこの階段を上がってー…』

「どこ?いやわかんないから来てくださいよ!」


突如囲まれたと思ったら「どこ?どこ?」なんて言いながら腕を引っ張られる。三人組に囲まれて「かわいい服だね」なんて至近距離で微笑まれたらゾッと寒気がするもんですよ…なに、どこに連れて行く気?まさか体育館裏とか…


『ちょっ、私仕事中なのでー…!』

「そうかたいこと言わないでさぁ?」

「これも仕事のうちでしょう?」


やめて、やめて!


段々と恐怖に襲われ周囲に視線をやってみる。まさかあの多忙な流川くんがたまたま外に出てくるわけ…ないよな…って、なんでこのタイミングで流川くんが頭の中に…うわぁぁ!別に深い意味は…!って、それどころじゃない、まずい!


誰かー誰かー…


『…!』


ウロウロと視線を周囲にやっているとパッチリと目が合う人物がいた。随分と背が高い…流川くんくらいありそうなお兄さん…凄い髪型だ…お、お兄さん!助けて!


『……』


目で合図を出せばお兄さんはポカンとした顔でこちらを見つめたまま固まった。しばらくしてズリズリ引きずられる私の視界から彼が消えたところで「あの」と後ろから声がする。


「すみませんけど、俺の彼女に何か用です?」


なに、それ…!ドラマ…?!と勢いよく振り返ればにっこりと笑ってこちらを見下ろす男の人…あぁ!さっきのお兄さん!いやでも、ポカン顔とのギャップが凄いな…めちゃくちゃ微笑んでるのに目の奥が笑ってない…


「…彼女、?」

「うん、そう。俺の彼女。」


グイッと引き寄せられ大きな体に飛び込む形となった。この人…私のSOSを受け取って正常に判断したくれたわけだよね…?なんという優しいお方…


ここはご好意に甘えさせていただきましょう…


『もう、来るの遅いって!』

「ハハッ、ごめんごめん。」

『なんかこの人たちに連れて行かれそうになってー…』


ギュッと腕を回し体にしがみついてそう言えば三人組はぶつぶつ何か呟きながら人混みへと消えて行く。演技とはいえご丁寧に抱きしめ返してくれていたお兄さん…あれ、もういなくなったんだけど…


『あ、あの…』

「うん?」

『ありがとうございました…もういなくなったので…』

「…あぁ、ごめんね。」


笑いながらパッと解放されようやく体同士が離れた。随分と見上げなければ顔が見えない…首が痛いほど顔を上げれば随分と高い位置で「モテる子は大変だね」と微笑まれた。


『あ、いや…助けてくださりありがとうございます。』

「最初わからなくて。遅くなってごめんね。」

『いえ、本当に助かりました。』


どうしよう…何かお礼を…とボソボソ呟く私にお兄さんは「お礼なら充分もらったよ」と微笑む。


『えっ…?』

「こんな可愛い子に抱きつかれるなんて…あ、これじゃあ今の奴らと変わらないか…ごめん。」


ハハッと手を頭の後ろにやり笑うお兄さんに悪気はなさそうで。「ドキドキさせてもらったから充分です」とそう言われた。よく考えてみれば…私こんな格好で初対面の人に抱きついたのか…仕方なかったとはいえ…それはちょっとまずかった気が…


『す、すみません…そういえばいきなり抱きつくなんて失礼なことを…!』

「え?俺は嬉しかったって言ってるんだけど…」

『そんなっ、気を遣っていただかなくても…!なにかごちそうさせてください!』


一方的にSOSを出し、見事にそれを受け取ってもらい、彼氏のふりまでしてもらい、挙句の果てには抱きついた…ぐぅぅ、このままこの方を帰すわけには…いかない…!


「そうだなぁ…じゃあ…一緒にまわらない?」

『えっ…?』

「仕事中だったか…」

『あ、いえ…!ぜひお供します!』

「ハハッ、お供かぁ…」


いいねいいねと楽しそうに笑うお兄さん。そういえばまだ名前も聞いてなかった…


『あ、あの…私1年10組のみょうじなまえと申します…!お兄さんのお名前をお伺いしても…?』

「あぁ、陵南高校の仙道です。」

『せ、仙道…さん…三年生ですか?』

「ううん、二年です。」


陵南高校の仙道…なんかどこかで聞いたことがあるような響き…?せんどう…あれ、なんだっけ…?


「俺、なまえちゃんのカフェ、行きたいかも。」

『あ、本当ですか?じゃあご案内を…』


並んで歩く道のり。どう考えても歩幅が違うのに私に合わせてくれている仙道さん。ニコニコと愛想がいいしそのツンツン頭も特徴的でなんか魅力たっぷり…極めつけに流川くんに匹敵しそうなほど…


イケメン…


やばい、なんかドキドキしてきた…私さっきこんなかっこいい人に抱きついたのか…この身の程知らずめ…最近はなんだか…流川くんに守ると言われたり…人生まだ長いのに運を使い果たした気がするなぁ。


「こういうの憧れてたんだ。彼女と文化祭まわる…みたいな。」

『かっ、かのっ…でも、仙道さん凄く格好良いですし…彼女さんいないんですか…?』

「いないよ。何かと面倒でしょ。」


あっけらかんと笑ってみせるけれど…なるほどなぁ。これはわりと経験豊富とみた。黙ってても女が寄ってたかってくる流川くんタイプの人間だ…


「だから嬉しいなーなまえちゃんみたいな可愛い子とまわれてさ。」

『褒めたって何も出ませんよ!』

「その照れた顔が見れるだけで充分幸せなんだけどな。」


くぅ〜〜…なんか何枚もうわてなんだけど…!侮っていた…このイケメン…


「…って、おい!仙道!」

「仙道ー!こんなところに!」

「…んぁっ、おぉ、越野、植草。」


女たらしというか…人たらし?だなんて失礼なことを考えるうちにゾロゾロと二人組がやってきて。キャンキャン吠える犬のように「勝手に離れんな!」「どこ行きやがった!」「フラフラすんな!」と怒る男の子と「やっぱり逸れたねー」と笑う男の子…


「って…こ、この子は?」

「さっきナンパから助けたなまえちゃん。」

『あ、どうも…仙道さんのお友達ですか?』


そうっす…とぺこり、頭を下げてくる顔が整った人…今一瞬チラッと胸を見ましたよね…見ましたよね。私見てましたよ。うん、そんなにあからさまに頬を染められるとこっちまで照れるんだけど…


「仙道が助けたんだね?やるじゃん。無事でよかったです。」


もう一人の坊主頭の人は穏やかな口調でそう言った。何やら三人で遊びに来たのに仙道さんがひとりフラフラと逸れたらしく探していたとのこと。名は越野さんと植草さんというらしい。なんなら三人まとめて我がクラスへどうぞと半ば強引に連れて行けばちょうどタイミングよく一席だけ空いていた。あの流川くん目当ての大行列をちゃんと彼が捌いたと思うと…流川くんには相当な労いをせねばならないかも…


『どうぞ、座ってください。代金は頂きませんのでお好きなものをお好きなだけー…』

「そんなの悪いですよ、ちゃんと払いますから。」

『いえ!助けていただいたのでこれくらいさせてください!』


ニコニコと笑う仙道さん、プイッとそっぽを向く越野さん。しっかり者の植草さんは最後まで代金を払うと言って聞かなかった。これじゃお礼の意味がない。


「ねぇ、なまえちゃんも一緒に座ってよ。」

『えっ…でも、私は店側の人間なので…』

「いいじゃん、そうかたいこと言わないでよ。」


俺らの仲でしょ


そう言って微笑む仙道さんはなんかもう…絶対この人、人たらしだ…!こうやって無意識のうちにたくさんの女の子を手玉に取りそして泣かせてきたのか…勝手ながらこんな妄想をしてしまう私…どうなんだ…


じゃあとりあえず…と一つあいた椅子に手をかけた瞬間、どこからかバタバタと慌ただしく走る音が聞こえ勢いよく私の腕が掴まれた。


『…っ、?!』

「どあほう…」

『…流川くん?!』


どあほうって、私…?!なんで流川くんが…?!とパニックになる私の前で「よう、流川」と笑う仙道さん。あれ…?知り合い?


「流川のクラスだったんだね。おぉ、似合うじゃん。」

「…るせー。なんでセンドーがいる…」

「俺?だってなまえちゃんの彼氏だし。」


ねぇ?とウィンクされ確かに先ほどフリをしてもらいましたね…と無言で微笑み返す。流川くんは私を睨みつけ軽く舌打ちすると「手ぇ出すな」と仙道さんに向かって言い放った。


「なんで?流川、なまえちゃんのこと好きなの?」

「…オメェには関係ねぇ。いいからなまえに触んじゃねぇ。」

「…へぇ、珍しい一面があるもんだ。」


余裕といった表情で笑う仙道さん。流川くんは私に「下がってろ」と言いグイグイ押してくる。ちょっ…、なに…なんだこれ…?


『あのっ、るかわ、くん…?!』

「なんでセンドーといた…」

『助けてもらったの、外で客引きしてたらしつこく声かけられて…』

「…勝手に出るんじゃねぇ、どあほう。」


痛っ…長い指から弾かれたデコピンは相当な威力を持つものだ…って、なんなんだよ、もう…!さっきから流川くんのせいでドキドキが止まらないんだけどどうしてくれるんだ…!


「いーからここにいろ、出てくんなよ。」

『でも、ちゃんとお礼しなきゃ!』

「礼なら俺が言っとく。いーからここにいろ。」


あの態度でどうやってお礼を言うつもりなんだ…と再び三人の元へ近づこうとすればガシッと両肩を掴まれた。


「行くなって。」

『だってー…!』

「オメェは俺だけ見てりゃいいんだよ。」


くるっと体を回転させスタスタと歩いて行く流川くん。


えっ…ちょっと…


『な、なに、今の…』


ぼわっと熱くなる、体全身が…ずるい、ずるい、ずるいよ…なにそれ…


『流川くんこそ、どあほうでしょ…!』


私の決死の呟きもガミガミ仙道さんに噛み付く流川くんには届くはずもない。









誰であれ叩き潰すのみ!

(帰れ、そもそもなんで来た)
(越野が行こうって言ったからだよ)
(…ジー)
(ちょっ、なんだよ!睨むなよ!俺のせいかよ!悪かったよ!)





番外編でした〜〜(^^)







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