03







女子バレー部の神奈川県予選決勝と既にインターハイを決めたバスケ部の決勝リーグ最終戦は同日同時刻に別々の会場で行われた。


先に陵南の体育館へと戻ってきたのは女子バレー部で1時間遅れで到着したのはバスケ部であった。







バスケ部の主将仙道彰は体育館裏で静かに体育座りをした女の子に駆け寄った。顔を下に向け誰なのか判断する材料は少ないものの一瞬でそれをなまえだと判断した仙道はゆっくりと隣に腰掛ける。


「...........」


何も話さないまま時間だけが流れた。

時折なまえが鼻を啜る音がしてその度に仙道はなまえに向かって笑いかけた。言葉はなく二人だけの空間で仙道は空を見上げた。雲ひとつない綺麗な青空。










どのくらい時間が経ったのだろう。


『....何で、何も言わないの....』


ポツリとなまえが口を開いた。


「..........」


やっぱり仙道は黙ったままだった。


『...頑張ったなとか...お疲れ様とか言ってくれたら...言い返せるのに...。何も言わないから......』


それがわかっていて黙っていた仙道はゆっくりとなまえの頭を撫でた。頑張ったなもお疲れ様もそんな言葉は相応しくない。なまえちゃんには何も言葉をかけなくていいんだと仙道はわかっていた。


ゆっくりと優しく頭を撫でられたなまえの視界は余計にぼやけていき次第に大粒の涙を流し始めた。そんな姿を見て仙道は彼女を愛おしく思い静かに涙を拭ってあげた。


『.......今年も......連れてってあげれなかった....』


女子バレー部は今年もまた後一歩のところで負けてしまった。それとは反対に今日勝ったことで予選リーグ1位での全国大会出場を決めたバスケ部。正反対となったその結果になまえは余計悔しさを感じ、そしてエースとしての責任から涙が止まらなかった。


同じく責任やプレッシャーを背負う立場として彼女の気持ちが痛いほどわかる仙道は「大丈夫だよ」と口を開く。


『何も...大丈夫じゃない......』
「いいや、大丈夫だから」


仙道の言葉になまえは不安そうな顔をした。何が?といった表情の彼女に仙道は真っ直ぐ前を見たまま。


「結果がどうであれ、惜しまない努力の先には笑顔が待ってるんだよ。」

『.......笑顔?』

「そう。最後にはきっと笑えるんだ。だから大丈夫。」



仙道はそう言うと「そういえば」と続けた。



「この前はごめんな。なまえちゃんの言う通りだった。」

『えっ..........?』

「自分の気持ちばかり押し付けないで...ってさ。」



いつかのことを謝ればなまえは黙ったまま仙道を見つめた。


「本当にその通りだったなって反省したんだよ。」


仙道はそう言うとなまえと目を合わせてニッコリと微笑む。その笑顔になまえは少しだけ見惚れてハッと我に返った。



「だから今度はさ、俺の気持ちを押し付けるんじゃなくって...」



仙道がなまえの手をとり優しく握る。














「なまえちゃんの気持ちを俺にも分けてくれないかなって。」


『.............』


「共有したいなと思ったんだ。夢や目標、考えてること全部。俺はバレー部を全国に連れてってやることは出来ない。けどなまえちゃんの想いを背負ってかわりに戦うことならできるから。」



仙道はそう言って優しく笑いかけた。なまえはそんな仙道の言葉に何かが壊れたように泣き崩れた。











「泣かせるつもりじゃ...なかったんだけどなぁ...」




優しく抱きしめればなまえは抵抗せずに大人しく腕の中で泣き続けた。























インターハイを準優勝で終えた陵南高校は戻ってきた矢先、正門でご機嫌の校長に迎えられ職員や夏期講習で学校へ来ていた生徒たちにも拍手で讃えられた。


仙道は田岡から催促された挨拶を終えるとそわそわ落ち着かない様子を見せた。その意味がわかっていた植草と越野は苦笑いしながらも仙道の為にこの堅苦しい場から早く解放されることを願った。


田岡の話が終わると片付けをして解散となり仙道は急いで体育館裏へと走った。



















「......なまえちゃん」


仙道の声にバレーボールを抱えて座っていたなまえは顔を上げた。練習は終わり解散となったのになんとなく帰れずにいたのだ。


『....おかえり、仙道』


呼ばれた名前に仙道はニッコリ笑った。


「優勝じゃなきゃなまえちゃん納得してくれないかなと思ったんだけどさ...」


準優勝だったんだ、ごめんねと続ければなまえは笑って「そんなことない」と言った。その笑顔があまりに可愛くて仙道は咄嗟に彼女を抱きしめた。




『仙道っ....?』

「なまえちゃん...俺も冬まで残るよ。選抜は絶対に一緒に行こう。全国には魔物がたくさんいてさ...なまえちゃんみたいな子が行くべきところだと思ったんだよ。」



仙道はそう言って「すげー楽しかったよ」となまえを余計力強く抱きしめた。そんな仙道になまえはクスッと笑った。




『私の分も戦ってきてくれてありがとう』


その言葉に仙道はたまらなくなってなまえのおでこに口付けた。


「...ごめん、でも今のはなまえちゃんのせいだから。」


わけがわからないなまえは頭の上にハテナを浮かべながらも顔は真っ赤であった。























バスケ部、バレー部共に選抜大会では全国ベスト4の成績を収め仙道となまえの二人は心置きなくこの卒業式を迎えることができた。


「あっという間だったな、三年間...」


越野の言葉に隣にいた仙道と植草は静かに頷く。


仙道の目にはバレー部の輪の中で後輩に囲まれ楽しそうに笑うなまえ。普段なら自分の視線になんて絶対に気が付かないなまえだがその時ばかりは仙道と目を合わせてその場を抜けて走ってくる。


「お.......」


仙道の声に植草と越野もその様子に気が付きそわそわし始めた。


『仙道、越野、植草、三年間ありがとう』


なまえの言葉に越野と植草は「「こちらこそ」」と声が被り仙道は寂しそうな顔で「なまえちゃんもバレー続けるんだよな」と言った。


『うん。海南大でね。』


バスケも強い海南大だが仙道は東京の大学からスカウトを受け地元に戻ることが決まっていた。


「だよな...」


いつからか仙道の考えていることがわかるようになったなまえはその言葉の意味を理解してクスッと笑った。


「俺これからもなまえちゃんのバレー応援...」
『いいよ』


仙道の声に被せるように出たその言葉に仙道のみならず隣にいた植草と越野もとても驚いた。


「えっ....」
『私も仙道が好きだから、いいよ。』


目をパチパチさせて黙る仙道になまえはやっぱりクスッと笑い「違った?」と問う。


「あ、いや、全然違わない....好きだから付き合ってって言いたかったんだけど....やっぱりバレー以外眼中にないのかなって....」


仙道が発した言葉だがその通りだと言わんばかりに植草と越野も頷く。


『私もう仙道がいないとバレー頑張れないんだよ』

「なまえちゃん...」

『これからも一緒に戦ってくれる?』

「.......もちろん」


仙道は植草越野のみならず大勢の人が見ている中でなまえを抱きしめた。たくさんの拍手が沸き起こる中二人は顔を合わせて笑い合ったのだ。




















最後に笑えるのならそれでいい


(...キスしてもいい?)
(ふふっ、それはダメ)
(...じゃこのまま俺ん家直行ね)
(えっ.....仙道......!!待って、止まって...!)








なす様 (^ω^)☆

この度はリクエストしていただきありがとうございました( ;_; )そして素敵なお話をありがとうございました!最初は仙道くんの奮闘日記として笑いを交えて描こうかと思ったのですがこのお話が作られたものではないというところから、どうしても真面目な感じで描き進めたいと思ってしまい私なりに真剣な雰囲気の話にまとめたつもりです。。普段のギャグ話を適当に描いているという意味ではないですよ!!( ;_; )
余裕そうで余裕がない仙道くんを描くのが案外難しくてうまく表現できていないかもしれません...申し訳ないです。。少しでも気に入っていただけたら嬉しいのですが...( ;_; )また機会がありましたらリベンジさせてくださいね!!この度は本当にありがとうございました☆そして今後共よろしくお願いします!




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