後編






「美味かったなー、腹が膨れた。」

『うん、っていうかご馳走さま…ありがとう。』

「誘ったの俺だからね。どういたしまして。」


なんだかんだお会計までスムーズに進み気付けば外へと出ていたわけだ。洋平の変わらぬスマートさには毎度のことながら驚愕するしいつまで経っても慣れないなぁと改めてそう思う。ドキドキする対象であることすらおかしいとは思うんだけど…どうにもこうにもなぁ…


「なぁ、仕事どうなの?」

『うーん…慣れるまではまだかかりそうだけど…やり甲斐は感じてるよ。』

「そっか…よく頑張ってるんだな。」


よく頑張ってる…


その言葉がスッと胸に入り込みジーンと響き渡る。今日の自分はよく頑張ったと自分で自分を褒め称えることは多々あるけれど、やっぱりそれを誰かに言われるとなると話は別だった。そもそも誰にも言われないからこそ自分で言ってあげてるような感じだし…


『…あ、ごめっ…』

「おっ…ほら、これ使え。」


「頑張ってる証拠だ」とそんな言葉と共に受け取った洋平のハンカチ。溢れ出そうな言葉や声をぐっと堪えて素直に目元に当ててみる。不意に出てきた涙を拭きながら、洋平の匂いがする…なんてそんなことを考えた。


『ありがと…』

「偉い。でも息抜きは必要だからな。」


前を向き片手でハンドルを握る洋平がノールックでポンポンと頭を撫でてくる。もう…これ以上泣きたくない…とそう思いながらも目から溢れ出るそれは止まることを知らないみたいだ。


『ほんと、ありがとう…何から何までごめんね…』

「何言ってんだよ、少しは頼れ。」


涙が止まるまで時間がかかった。洋平の言葉が何度も何度も頭の中で繰り返されて、それが余計に私を泣かせてくるのだ。ようやく落ち着き、メイクが崩れた…なんて肩を落とす頃には既に夕暮れの海辺へと辿り着いていたわけだ。


「っし、降りようぜ。」


砂浜へと足を入れれば不安定な足元に体が傾く。それを当たり前のように支えてくれる洋平に手を引かれ波打ち際まで近づいてみた。遠い向こう側に人影は見えるけれど近辺には私達以外に人はいない。


「すげぇ…綺麗だよな、海…」


近くにあるのにあまり来る機会がない。昔から海というのは身近すぎて頻繁に来ることがなかった。私と違って洋平は高校生の頃海の家でアルバイトしてたり、そんな経験があるようだったけど。


「どこまでもずっと、続いてんのな。」


遥か彼方、青い海を見つめ洋平はそう呟いた。行ったり来たりを繰り返す波。実に穏やかだ。


『…うん、そうだね。』


静かで穏やか…何より心が落ち着き、居心地が良い。その理由はなんなのか…わかってはいる。


「なまえ…」

『…うん。』

「俺はいつでもなまえの隣にいる。」


そっと繋がれた右手。見上げれば真っ直ぐ前を向いたままの洋平。その横顔、その瞳は言葉では言い表せられないほどに美しく、とっても綺麗で、そんな瞳で海を見つめる洋平につられて私も真っ直ぐ前を向いた。穏やかな波が行ったり来たりを永遠に繰り返している。夕焼けが照らすそこはあまりにも輝いていて。まるで日常の全てから解放されると、そう感じてしまうほどだ。


『ありがとう、洋平…』

「…お前、俺がどんな意味で言ってるかわかってる?」

『…洋平こそ、私の気持ち…わかってるの…?』


わかった上で言ってるんでしょ


私がそう問えば彼は前を向いたまま笑う。その横顔にさらに高鳴る胸。あぁ、もう…ずるいよ…ずるい…


「負け試合はしないタイプでね。」

『うわぁ…』

「なんだよ、笑うな。」


トンッとおでこを押され右を見れば悪戯っ子のように笑っている洋平がいる。


『…好き。』

「ハハッ、肝心なとこ先越されたな…」


余裕そうに笑うから、笑うとこじゃないと文句を言おうと彼を見れば一瞬にして目の前が暗くなる。フワッと香るハンカチと同じ匂い。洋平の香り…


「お前以外は考えらんねぇわ…」


そこが洋平の腕の中だと改めて再確認すれば余計に鼓動が速くなる。そして感じる彼の温もり…与えられた言葉の威力に胸がキュッと苦しくなった。私だって洋平以外は考えられないよ…あ、あれ、なんか…


『洋平…ドキドキしてる…?』

「…ったりめぇだろ、馬鹿…」


余裕そうに見えた彼の心臓から、あまりにも早い心音が聞こえてくる。密着すればするほどに体で感じ体から体に伝わるそれ。余裕のなさそうな洋平の声に余計にドキドキが加速してもうなんだかおかしくなりそうだ。


『これからもずっと…一緒にいてくれる…?』

「もちろん。なまえ…、愛してる。」


海を前に私達は愛を誓った。この広い海に負けないほどの愛を君に捧ぐ…と。














『ただいま…』


今日もまた戦い抜いた一日だった…玄関を開ければ明かりが灯っており中からは良い匂いが。


「おう、おかえり。お疲れ様。」

『ただいま…洋平…』

「おぉ、今日も随分とまた頑張ってきたな。」


私の様子を一目見るなり鞄を持ってくれる洋平は靴を脱ぐ私の頭をポンポンと撫でてくれた。出迎えられるこの幸せ…なんだろう…本当に…


一人じゃないんだなぁ…


「飯できてるよ。一緒に食おうぜ。」

『いつもありがとう…洋平もお仕事お疲れ様。』

「おう、ありがとう。」


あれから私達は同棲を始めた。どんなに疲れて帰っても洋平がいてくれるから私はまた立ち上がれたし心が折れることもなかった。この先もずっと、彼にはお世話になりながら…互いに必要としながら…生きていけたら良いなって、心の底からそう思う。


「ほら、なまえの大好物。」

『うわぁ…、ありがとう…洋平大好き…』

「あぁもう、泣くなって!」








いつだって隣には俺がいる


(風呂沸いてるよ)
(ありがとう…至れり尽くせり…)
(ほら、行くぞ)
(…えぇっ、一緒に?!)






ゆゆ様

ゆゆちゃん、リクエスト企画に参加してくださりありがとうございました( ; ; )本当に本当に時間ばっかりかかっちゃってごめんなさい( ; ; )ゆゆちゃんの大好きな洋平くん、どんな形で書こうかすごく悩んでこんな感じに…ドライブデートの中で告白までさせちゃって…少しでも良いなと思ってもらえたら嬉しいです( ; ; )いつも本当にありがとうございます!たくさん幸せをもらってるしたくさん遊びに行ってます!これからも仲良くしてもらえると嬉しいです( ; ; )













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