中編






『おはよう!』

「おー、おはようなまえちゃん。」


神奈川県立湘北高校…今日もまたみょうじなまえと水戸洋平は門のあたりで挨拶を交わす。それもそのはず、互いに「この時間なら会える…」と知らぬうちに共通の認識を持ち合わせていたからだ。


「おっ、なんだか髪型が…」

『あっ…そうなの、早起きしたから…少しだけ…』

「おぉ、いいじゃん。似合ってる。」


に、似合って…似合ってる…だと…?!


『あ、ありがとう…』


ポッと顔が赤くなるのが自分でもわかる。あぁもう、朝から心臓に悪すぎる…まさか、言えるわけがない。洋平くんに少しでも可愛いと思ってもらいたくて色々な髪型を試してる…だとか…


今日もばっちりリーゼントがきまった洋平くん…かっこいいしなんだかもう光りが…眩しい…なにこれ、オーラ?


「今日テストあるんだって?大楠に聞いたよ。」

『あぁそうなの…あんまり自信がなくて…』

「なまえちゃんなら大丈夫だろ、自信持って頑張れよ。」


ぐぅぅ…どんなものより効果がある…なんかもう光りすぎてピカーッて、洋平くん本体が見えなくなるくらいなんだけど…もうやめて…せめて顔を見せて…


和光中の卒業式まで…いや、なんなら湘北の入学式まで私の進路がここだということは内緒にするつもりだったけど…まぁさすがに試験会場でバレてしまった。それでもあの時「みょうじさんなら絶対受かる」「同じ高校に行く為に頑張るよ」と驚きながらも微笑んでくれた洋平くんの顔は絶対に忘れない。おかげで入学試験の成績は全生徒の中でトップだったよ…


変わったのは「みょうじさん」「水戸くん」の呼び方が互いに下の名になったくらいだ。それでもいい、むしろそれでいい…他になにも望まないです、だからこれからも永遠に洋平くんと話せる毎日が訪れますように…













「大楠ー…」

「んぁっ、洋平。」


その声にガタッと反応する。休み時間、徐に席を立った私は用もないのに廊下へと顔を出してみた。反対側の入り口で立ち話をしている洋平くんと大楠くん。うわぁ…まざりたい…でも割って入るのもなぁ…


「そんじゃ、また後で。」

「おう。」


あぁっ…行ってしまう…洋平くんが…


っと、危ない。行かないで…って自然と手を伸ばしてしまうところだった。掴めやしないのに後ろ姿に向かって手を伸ばすとか怪しすぎるでしょ…しっかりしろ、私…


『お、大楠くん…洋平くんは一体何の話を…!』

「あぁ、次の教科書貸しただけ。普通に話しかければいいだろー、そんなに縮こまってないで。」

『い、いいの。朝話しただけで幸せだからっ…!』


そうだ、いいんだ。しかも借りたってことは返しにもくるよ…そうだよ、もしかしたらその時に話すチャンスが生まれるかもしれないじゃないか…!


『希望はあるわ…大丈夫…!』

「ほんっと…さっさと結ばれろよ…」















「…返す時だ、まだチャンスはある。」


そうだ、だから落ち込むなよ俺…確かに今なまえちゃんは反対側の入り口付近にいて顔は見れなかったけどだからって落ち込むな。朝だって話せたし、返しにいく時もチャンスはある…いやでも、今朝は髪型褒めたりいつもより多く喋れたし…欲張りは良くないよなぁ。


にしたってあのフワッフワしたポニーテールはなんなんだ?可愛いの大渋滞だろ…いやもはや通行止めだわ…全然頭がついていかねぇよ…理解不能…ただいま通れません…


ナチュラルに話そう…あんまり意識してっとおかしいし、挙動不審になりかねない。なまえちゃんが関連すると自分でも自分がわからずにおかしな行動をしてしまう可能性があるからな…要注意だ。


「大楠ー…」

「お、来た。洋平。」


なんだかあっという間に授業が終わっちまったんだけど…あれ、こんなに早いもんだったか?なまえちゃんに会ったら何を話そうとかそんなことばっかり考えてしまった…教科書借りる必要もなかったくらい授業は頭に入ってない。いや、チャンスを生み出す面からしてこの教科書の役割は大きいぞ…ありがとう、大楠の教科書…


「サンキュ、助かった。」

「おー、そういやみょうじがお前に話があるらしいよ。」

「えっ…な、何の話だよ…?」


それは本人に聞けばーと楽しそうにニヤつく大楠。ハァ?!と内心パニックだけれどいつもと変わらぬ雰囲気を装う俺はもしかしたら俳優に向いてるんじゃないか?…いや、それは言い過ぎか…


「おぉ、どうした?」

『あ、いや…よ、用があったわけではないんだけど…その…』










不思議そうに首を傾げる洋平くん。ちょっと…何なのこれは…!別に用事があったわけじゃないのに何故だか大楠くんに呼ばれてしまって…しかも私が洋平くんに用があるなんて嘘を…そりゃ話したいっていう用事ならあるけど結局この一時間何を話そうか考えたところでちっとも思い浮かばなかったんだよ?どうしよう…あぁ、悲しい…勉強なら得意なのにちっとも役に立たないよ…


『あ、その…』


何を、何を話したらいい?っていうか、いつもどんな風に話してたっけ?私、洋平くんとよく話すよね?毎日友達として朝はおはようって言い合って…今朝は髪型褒められたし…そうだよ、その自然な感じで話せばいいんだよ…!


で、でもなんでだろう…改まって意識してるから…?全然言葉が出てこない…洋平くんも私が口を開くまで黙り込んでるみたいだし…えぇっと…


気まずい…!


「ねぇ、なまえと水戸くんってやっぱり付き合ってる?」

『…えっ…ちょっ、えぇっ?!』


汗がダラダラと流れてくるこの状況で何やら楽しそうに間に入ってきたのは私の友達だった。日頃から私の片思いだと何度も説明しているのに付き合ってるように見えるだとか何とか、そう言っては聞かない友達がまるで追い討ちをかけ確認するかのように「そうなんでしょ?」と問う。ど、どうしよう…違うって言ってるのに…!


よ、洋平くん…目を見開いて固まってる…!


『だ、だから…そういうのじゃ、ないって…!』

「まだ否定するの?いい加減話してくれてもいいじゃん、友達なんだし…ねぇ、水戸くん。」

「…あ、なに…?」

「なまえと付き合ってる?本当に違うの?」


嫌だよね、嫌だよね…私なんかと付き合ってるなんて勘違いされたら…もしかしたら今後もう話しかけてもらえることはないかもしれない…あぁもう…!!














「あ…えぇっと…付き合っては、ない…」

「そうなの?じゃあ本当なんだ。私てっきり二人はそういう関係なのかと。」


付き合っては、ない…よな…うん、そうだろ…俺は正しいことを言った…よな…?


『だ、だから言ったでしょ。もう、変な誤解はやめてよね。』

「あまりにも仲が良さそうでさ、二人。中学も同じだって言うし、水戸くんあんまりなまえ以外の女子と話さないでしょ?」


だからごめんね、勘違いして


なまえちゃんの友達はそう言ってヒラヒラと手を振りながら去っていく。


『ご、ごめん…嫌な思いさせたよね…』


嫌な思い…この空気をぎこちない笑みで破ったなまえちゃん。困ったように笑い「えぇっと…」と何か会話を探しているようだ。用があると大楠から聞いて立ち止まってみたはいいけれど…どことなく流れるこの気まずい空気…


「そういうのじゃない」とハッキリと位置付けられた俺たちの関係。あんなにもすぐさま否定されると当たり前のことを言ったとしても…なんだか傷付くなぁ…俺はなにを期待してたんだ…?付き合ってないんだから当たり前だろ…なんだ?彼女が少しでもモゴモゴとどもったら俺は満足だったのか…?あぁもう…!


「嫌じゃない。俺、行くね。」

『あっ、……』


どうしてあんな風に、困った顔をするんだ…?


俺は正直君との関係を聞かれたら「彼女」だと周りに紹介したい。付き合ってるのかと問われたらすぐさま「そうだ」と認めたい。


わかってはいても、幸せも多い反面…片想いのつらさは心に突き刺さるもんだな…


















すれ違う想い


(ふぁぁ…洋平くん嫌がってただろうな…)
(…マジで俺なまえちゃんが好きすぎておかしい…)















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