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『可愛いお店知ってるじゃん。』

「ったりまえだろ?なまえとのデートに抜かりはねぇよ、俺は。」


自信満々に笑う栄治をベシッと叩けば「俺に触れるの好きだね」とかなんとか調子良く笑われてしまう。久しぶりに共に外へと出たのはいいが最近の栄治は押しが強くて強くてどうしたものかと…「ここ入ろうぜ!」と私を引っ張り入った先はとてもお洒落な外観のカフェで、もし彼の言うことが本当なんだとしたら…と余計なことを考えては変な気分になる自分がいた。


「クリスマス近ぇしなー…予定は?何すんの?」

『…何もないけど。』


何もないのではなく、何かあればいいというのが本心で、その「何か」のアクションを起こしてくれる人物はひとりしかいない。しかし、彼女がいる人物がクリスマスという聖なる日に私の元に来てくれるのだろうかと考えると…頭が痛くなる案件だ。出来ることならクリスマスなんて無くなってしまえばいい…と私のわがままな心がそう叫ぶ。


「寂しいなー、ま、そうだと思った。俺が相手してあげるよ。」

『いいよ、独り身の友達とパァッと飲むし…栄治は遊んでる場合じゃないでしょ。』

「クリスマスは遊ぶとかそういうことじゃねぇんだよ、ロマンがねぇなぁ…なまえは…」


ぶつぶつと呟きながら運ばれてきたコーヒーに口をつける栄治。それでもここで約束を交わすわけにはいかず、微かでも可能性がある限り私はクリスマスだろうがお正月だろうがとにかく家で待機していたいなと思った。


『んまぁ、それなりに楽しく過ごすから。』

「えー…じゃあ、正月は?家帰るんだろ?」

『うーん…三が日くらいは…』


とにかくキラキラとした目で見つめられ絶対に折れない姿勢を見せる栄治に根負けし、年末に迎えに来るから共に実家へと帰る約束をしてしまったのだった。それでもさすがに年末年始に私の待ち人の我が家への訪問はクリスマスほどは望めなくて、まぁいいか…と承諾してしまう結果となった。


「いっぱい雑煮食おうぜ、あとみかん。」

『お年玉はあげないからね。』

「なんだよー…アルバイトしてんだから恵んでくれよ。可愛い可愛い栄治にお小遣い。」

『自分で言うな、ちっとも可愛くないよ。』


可愛い子はベッドの上で盛りませんとはさすがにカフェでは言えなくて心のうちにしまっておいた。ここが外だったら肩を叩きながらそうつっこんでやるところだったのに…落ち着いた洋楽が流れる洒落た店内で良かったと思いやがれ、栄治め…


「っしゃ、そうと決まれば買い物して行こうぜ。」

『どういう流れなの…』

「いーからいーから、行くぞ!」


グイグイと手を引っ張られそのうち自然と恋人繋ぎになった。瞬時に脳裏に浮かぶひとりの男がいて、こういう類のことをしたい相手は栄治じゃないんだけどな…とそう思った。けれども栄治とのこの手を解く正式な理由は今の私には「無い」んだと思うと途端に悲しくなる。「二番手」なんて所詮そんなものか…いくら体を重ねても、一番にはなれないんだから…


「んあっ!映画見て行こうぜ!上映時間間に合う!」

『またそんな突然…』

「あのアクション映画俺見たかったやつ!奢るから付き合ってよ、なまえ!」

『いやぁ…そこまで言うんなら…じゃあ仕方ないなぁ…』

「…ちょろい、」


笑うな、と肩を叩けば「そんなことする奴には金払わねぇぞ」と言われてしまう。本当にくだらない茶番なのに心の底から笑ってしまう自分がいて、こういう何気ない会話、何気ない笑いを、南と一緒にしてみたいなぁ…なんて、一番叶いそうもないことを願っては悲しくなった。











クリスマスを前日に控え、講義を終えアルバイトを終え、夜もすっかり暗くなった頃…寝る前に歯を磨いていた私の部屋のインターホンが鳴った。その音に瞬時に胸が高鳴りドキドキと音を立てる。歯ブラシを咥えたまま扉を開ければそこに立っていたのはやはり私の想像通りの人物だった。


「…おう、入れて。」

『うん…どうぞどうぞ…』


着ているコートのポケットに手を入れてマフラーに鼻まで埋めた南だった。洗面所に向かう私をよそに南は慣れたように部屋へと入りコートを脱いでハンガーに掛けている。ついでにマフラーも綺麗に畳まれ同じハンガーに掛かるとそれは所定の位置に引っ掛けられるのだった。私の部屋に南の私物がある。そう思うだけで景色がガラッと変わり部屋に潤いが生まれたような気がした。


『ごめん、寝ようかと思ってたから…』

「ちょうどいい、来い。」


南の口数があまり多くないのはいつものことなのに何故だか様子がおかしい気がした。寝巻きを着た私が手招きした南の方へと歩いていくなりそのまま腕を掴まれ引き寄せられた。真正面に座らされたと思いきやそのままカーペットの上へと押し倒される。


『…みな、み…?』


いつもベッドの上で私に跨がる南とはまるで別人のような怖い顔つきだった。何をしてしまったんだ私は…と隅々まで考えを巡らせるも思い当たる節がない。そもそも今まで南を怒らせたことなど一度もなかったから。


「…なまえ、」

『…なに、みなみ…』

「俺のもんや…」


そう囁かれギュッと指を絡ませてくる。自分の顔の横に繋がれた南との手が置かれて一切の抵抗が出来ない状態へと陥った。日頃から行為の際に手を繋ぐなんてことはあるものの、こうやって指一本一本まで丁寧に絡み合い力を込めて握られるのは初めて、大きな手のひらから伝わる骨の感じや南の体温にそれだけで充分すぎるほどに心が満たされた。


『どうしたの…?』

「…どうも、してへん。」


なんだか様子がおかしく見えるものの、それでも南はいつもと変わらずゆっくりと私にキスを落とす。それはだんだんと深いものに変わっていき次第に彼の手はモゾモゾと私の服の中に侵入してくるのだが…


『ちょっ、……みなみ、?』


深いキスの後に南の顔が私の首元へと移動したと思えばチクッと首筋に痛みが走った。日頃から感じる痛みではあるものの首筋といえばハッキリと見える位置であり、そんなところにつけられた記憶はないのだ。なんとか声に出してみるものの手は強く繋がれたままで南は私の声に聞く耳も持たずその痛みは場所を変えて増えていく一方だった。


『南…、どうしたのっ…痛い…』

「…俺のもんや、誰にも渡さへん…」


パッと顔を上げた南とバッチリ目が合い、その見たこともない不安げな表情に心底驚く。南…どうしたの…?と声をあげようとするも再び唇が迫ってきたことにより黙らされる。普段よりもスピーディーかつ少し乱暴に抱かれ、それはまるで私に有無を言わさないものだった。朝を迎えず帰っていくはずの南の姿が、小鳥の囀りが聞こえる外から明かりが差し込む時間帯に目を覚ました私の隣にあるものだから、やっぱり何かおかしいと思いながらもその美しい寝顔に感じたこともないくらい心が満たされるのだった。








キミは俺だけ見てればいい


(…みなみ、おはよう…)
(ん……朝……?)













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