01
「休憩ー」
マジでやばい今日はハードだ............
そんなこと思いながらドリンクを飲む俺の隣で涼しそうな顔してどこか一点を見つめる仙道。ったくコイツは本気でやってねーな?なんでそんな余裕そうな顔で.....
「おい、お前どうしたんだよ...?」
俺の問いに仙道は「んー」と曖昧な返事を漏らす。
陵南の体育館は広くもなく狭くもなく。普段の部活は必ずと言っていいほど半面ずつ使うよう決まっていて仕切られたネットの向こう側には今日もまた女子バレー部が練習に励んでいた。
そちらの方向を見たまま視線は動かさずに適当にドリンクを飲む仙道。聞いてもないのに「おー...んー...」なんて声を漏らしている。
「.........もしかしてお前、なまえちゃん見てんの?」
俺の声に仙道はゆっくり俺に視線を向けて「あの子なまえちゃんって言うんだ」と言ってくる。
「あの背の高い子だろ?」
「あぁ....。越野が女の子をちゃん付けで呼ぶなんて珍しいな?」
うっ......。確かにそうだ。言い返せなくなり言葉に詰まってしまう俺に仙道は「仲良いの?」と聞いてくる。
「あ、まぁ....今年同じクラスになったんだよ。」
仙道の言うなまえちゃんは女子バレー部のエースで今年同じクラスになりよく喋る方である。周りが男女関係なく彼女を「なまえちゃん」と呼ぶし去年同じクラスだったらしい植草も同じようにちゃん付けで呼んでいたのを知っていた俺はどさくさに紛れて周りと同じようになまえちゃんと呼び始めたのだ。照れ臭さも初めだけで、何より彼女は背が高くスタイルも良く凛とした雰囲気から、名字や名前で呼び捨てにしてはいけないような、そんなオーラすら感じさせる子であった。
ちなみに彼女は俺のことを「越野」と呼ぶ。
「越野のクラスなんだ...へぇ....」
「何だよ、仙道...興味あるのか?」
やけに様子のおかしい仙道にそう問えば「まぁ...」なんて相変わらず曖昧だけれど聞き捨てならない返事が返ってくる。だってコイツどんだけモテたって彼女作ったりしないのに。マジでムカツクくらい女が寄ってたかってるし特に年上の女どもが本当にうるせーのに...一緒に帰ってると「仙道くーん」なんて香水の匂いプンプンした奴らが駆け寄ってくるくらいだぞ.....
「珍しいな...まぁでもいくらお前でもなまえちゃんは無理かもな。」
「...何で?」
「お前みたいに部活推薦で来た子だからな。とにかくバレー以外興味ないらしいよ。」
去年植草も言っていたけれどなまえちゃんは信じられねーくらいモテる。それは同じクラスになって身をもって知ったことでもあるし尽くフラれる男たちを見てきたのだけれどなまえちゃん本人に聞けばとにかくバレーを頑張りたいんだと、それ以外どうでもいいんだと言っていたから。
「...なるほどな...どうりで目が合わないわけだ」
仙道がボソッと呟いたそれに俺はゾッとした。確かにさっきから見続けているけれど休憩になった女子バレー部の中でもなまえちゃんだけはこちらに見向きもしない。他の部員は仙道の視線に気付きキョロキョロしたり落ち着かない様子を見せているけれど...ってかお前何者なんだよ!マジで気持ち悪いくらいモテるな...本当に信じらんねー...
「確かに誰よりも上手かったもんな...ふぅん...」
そう言うと仙道は自分を見続けてくる女バレの部員にニコッと笑いかけてどこかへといってしまった。にわかに「キャーッ!」と沸く女バレ。本当にムカツクわ...
「よ、なまえちゃん」
ある日俺は目の当たりにした。
『........?』
部活前、体育館で馴れ馴れしく話しかける仙道と怪訝そうな顔で仙道を見つめるなまえちゃんを。
「ハハッ、そんな嫌そうな顔しないでよ。傷つくじゃん。」
ヘラヘラッと笑いながらそう言う仙道になまえちゃんは「部活始まるから」とだけ言ってさっさとネットをくぐって行った。
「...フラれたな、お前。」
「なんだよ越野。勝負はまだ始まったばかりだぞ」
は?と思い顔をあげればなまえちゃんの後ろ姿を見たまま笑っている仙道がいる。なんだよコイツ...と思っていれば仙道は「そうこなくっちゃよ...」と呟いて上機嫌に植草の元へと歩いていった。
仙道という男はのんびりそうに見えて相当な負けず嫌いだ。そして自分に自信がありどんな状況だろうと必ずなんとか出来ると思っているし実際何度もなんとかしてきた姿を見てきたのだけれど。
「なまえちゃん今日は何時に終わるの?」
『.....バスケ部よりは早い』
「でも残って自主練してくんだろ?」
それ以来仙道はなまえちゃんに何度も何度も話しかけ相変わらず面倒そうな顔されてた。それでもコイツの中の血が騒ぐのか余計に落としてやるみたいなそんな雰囲気が漂っていて、なまえちゃんに冷たくあしらわれればあしらわれるほど仙道は楽しそうだった。
『別に...』
「遅くならないうちに帰れよ、何かあったら危ねぇし」
『................』
仙道にそんなこと言われたら他の子なら一撃なんだけどなぁ...。なまえちゃんはというと無表情でそして無言でバレー部の方へと向かっていく。けれども立ち止まり振り向いて何故だか俺と目を合わせると仙道の隣にいる俺に向かって口を開いた。
『越野、先生がプリント出してないって言ってた』
「.......あ、あぁ!そうだ、忘れてた....ありがとう...」
意表を突かれながらもお礼を言えばなまえちゃんは「いいよ」と少しだけ笑ってくれた。それを見ていた仙道は隣から「なまえちゃん」と声をかける。
「部活頑張れよ、見てるから」
『.........集中しなよ』
それが明らか俺に対抗しているように思えて「お前...」と呟けば「越野は名前呼んでもらえていいよな」となまえちゃんを見つめたまま言ってくる。そりゃ俺は同じクラスだし...と思ったけれど言わずにおいたのは仙道がなまえちゃんを見つめる眼差しが少しだけ切なそうだったからだ。
「やっぱり上手いんだよなぁ....うお、すげー....」
休憩中なまえちゃんのスパイクを見て仙道が呟いた。隣に座った俺も反対側に座っている植草も無言で頷く。やっぱりなまえちゃんは本当にすごい選手なんだと思う。
「かっこいいな...なまえちゃん...」
どこかワクワクしたような顔でなまえちゃんを見つめる仙道に俺も植草も何も口にできなかった。
こんなに楽しそうな仙道は見たことがないかもしれない(...本当にすごい子だな...)
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