決着編




「卒業おめでとうー!」


どこからともなく聞こえるそんな声に私はひとりで泣きそうになる。特に部活も何もしていなかったけれど高校生活はとっても楽しくて何より明日からもうこの制服を着ることもなくなると思うと泣かずにいられなかった。


「ついに卒業しちゃったわね」
『ううっ...お母さんありがとう...お弁当美味しかったよ...』


こちらこそ食べてくれてありがとう、とお母さんが言うもんだからあぁもう...と余計に泣けてくる。くそぉ...涙腺が....。


「....あ、藤真くんどうも。卒業おめでとうね。」
「ありがとうございます。あ、なまえさん泣いてるの?」


え?と思い顔を上げればお母さんと藤真くんが普通に仲良く喋ってるし私を見てハンカチを差し出してる。うわ...ブレザーのボタン無いしネクタイもワイシャツのボタンも無い...なんていうかボロボロ.....


『あ、ありがとう....』
「ううん、泣くなんて可愛いな」
『全然...藤真くんは、泣かないんだね...』
「やっと終わったって思いが強くてね。あ、部活の話だから。」


うんうんと頷いて聞いていれば藤真くんは私のお母さんと何やら話した後私の腕を引っ張って体育館の裏へと連れて行かれた。


「なまえさん借りてもいいですか?」
「...ふふっ、どうぞどうぞ。」
「ありがとうございます....!」











藤真くんはあれから何度も私を部活見学に誘った。そして帰りは家まで送ってくれたし何度か楓にバレて相変わらず私を置いて二人で話したりしてた。国体では同じチームで戦ったっていうしなんだかんだ二人は仲が良いのかもしれない。うん。翔陽は選抜予選の決勝で海南大附属に負けた。藤真くんは結局三年になってから全国には行けなかったけれどそれでも「もういいんだ」と笑っていた。その笑顔を見た時「泣いていいのに...」と思うくらいには彼の努力を知ることができたのかもしれない。


「言いたいことがあってさ...」
『うん、』


藤真くんは私に向かい合って立ち視線を合わせてくる。相変わらず綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。


「....なまえさん」
『はい、』












「ずっと前から...なまえさんのこと好きでした。」


藤真くんはそう言うと私の手をそっと取り握ってくる。


『え.......』

「俺と付き合ってください。」

『...........』

「東京の大学に行くんだよな。俺は神奈川に残るから離れるけど遊びに行くし...絶対に寂しい思いさせない。なまえさんのこと幸せにしたいし...何より、俺のそばにいて欲しいんだ。」







こんなの、
......断る理由が見つからないよ......。








『よろしくお願いします...!』

「.....ほんと?」

『うん、お願いします!!』










「「キャーッ!」」

『...?!この声は!!』


ぼけっとして信じられない...といった顔をする藤真くんを見つめていればどこからか聞き慣れた悲鳴が聞こえてくる。まさか!と思って振り向けば二人が拍手しながらこちらへ向かってきている。いやいやいや!お姉ちゃん何してんの!!


『ちょっと!来てたの?!』
「なまえーついに藤真くんと結ばれたのねー...」
「やだぁー泣ける.....藤真くんありがとうね.....」
『ちょっとやだ!鼻水つけないで!!』


いつのまに卒業式に来てたのか!しかも盗み聞きまで...とどこから突っ込めば良いのかわからない私をよそに藤真くんは二人に手を取られて一緒に泣いていた。


「お姉様方...ありがとうございました...やっと俺...彼氏に.....!!!」

「よかったよ藤真くん...なまえのこと頼むね...」
「藤真くん...よくやった...!!!」

『....何これ』












藤真くんはバスケ部のみんなと送別会があるらしく私達は四人で家へと帰った。楓は湘北の先輩たちとの集まりで夜まで帰ってこない。なんて報告しようかと考えているうちに姉たちからプレゼントをもらい楓のことなんてすっかり忘れてしまったのだった。


「なまえ卒業おめでとう!そして藤真くんとのこともおめでとう!」
「やっと結ばれたー!遠距離になっちゃうけど頑張るんだよ!」

『ありがとう二人とも...これからもお世話になります。』




















「あ、ホケツくん」


桜木の言葉に周りにいた湘北メンバーはハッと顔を上げた。某カラオケ店のドリンクバーでの出来事だ。


「お、桜木...」


ホケツくんと呼ばれた藤真は桜木を確認すると後ろのメンバーに目を向けた。その中にお目当ての人物はいない。


「湘北もカラオケか。流川は?」


藤真の問いに三井が「部屋にいるけど」と答えれば藤真は「案内しろ」と図々しく指図する。国体で既に彼の暴君ぶりは承知済みの三井と隣にいた宮城はため息をつきながら部屋へと案内した。


「流川、お客さんだぞー」


三井の声に隅に座って木暮の美声を聞いていた流川は立ち上がる。三井の後ろに見えた栗色の髪の毛に見覚えがあったからだ。


「.........」


廊下へと出ればやっぱりそこにいたのは藤真で自分を見るなり「告った」と言ってくる。


「俺告った。付き合うことになった。」


あまりのストレートぶりに流川は多少呆気にとられたものの正直なところ「やっぱりな...」と思いため息をついた。


最近のなまえはやけに楽しそうで毎日を幸せそうに過ごしていた。その理由がこの藤真健司であることはバスケ以外興味のない流川にすらわかっていたことだったしなまえがそこまで幸せそうならもういいんじゃないかとさえ思っていたのだった。


他の男の隣に並んで歩くなまえを想像するだけでイラつく。けれどもたとえ自分の感情がそうであってもなまえが幸せなら、あの可愛い笑顔で過ごす日が増えるのなら、それに越したことはない。






何よりこの藤真健司がどれほどの男なのか流川はよくわかっていた。国体で同じになった際、同じチームの花形や仲の良さそうだった牧にはかなりの我儘ぶりを披露していたがいざという時の頼りになる的確な指示やどっしりと構えたぶれない心にやっぱり頼りになる人だと思わずにいられなかった。







「...なまえのこと、よろしくお願いします」


流川はペコッと頭を下げた。藤真は意外だったのか一間空けた後「おう」と返事をした。


「こちらこそよろしく。義理の弟。」

「...それはまだちげーだろ」

「いーや?意外とすぐだぞ。」












ライバルから仲間になった春


(泣かせたらぶっ潰す)
(お、言うねぇ。義理とはいえ弟だからな。まずは敬語を教えてやる)
(....めんどくせぇ)





美歌様 (*^o^*)

この度は企画にご参加頂きありがとうございました!いつか続きを描きたいと思っていたこの作品。リクエストして頂けた時すごく嬉しかったです!!本当にありがとうございます!今後とも当サイトをよろしくお願いします(^o^)v












Modoru Main Susumu
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -