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「うわぁ〜…すげぇ人…」

『健司くん…健司くん…』


まだ開園前だというのに既にゲートには凄い人。まだ記憶にも残っていないくらい小さい頃に家族と共に来て以来のこの夢の国、俺はこの人の多さに震えていたのだけれど…


「どうした?」

『すごい……すごい、楽しい……!』


もう一度言っておく。まだ今、俺たちはゲートにもたどり着いていない。駅で電車を降り歩いている途中だ。見えてきた人の列になまえは興奮を抑えきれないような顔をして、俺とはまた別の意味で震えていた。こんな幸せそうな顔を見られるならたとえ苦手な人混みでも…!そうだ、それでこそ男だ。


「よかった、早起きした甲斐があったな。」

『…健司くんのせいで、眠たいですけどね!』

「あれ、何の話かな。」


とぼける俺にベシッと叩いてくるなまえ。なんやかんやで日付が変わる前まで四度にわたり抱き、移動時間も考え今日は五時頃起きる約束をしていた俺たち。朝起きるなりやれ腰が痛いだの、やれキスマークが隠れないだの色々騒がれたのだけれどなんやかんやで開園前にたどり着くことができた。そんなこと言ったら俺だってめちゃくちゃ眠いですよ。お前が隣に寝てるなんて考えただけで目ん玉パッチリだわ。第五回戦に勝手に突入しようかって何度も葛藤したわ。寝てても可愛いこの天使め。


『これこれ、これをつける!異論は認めない!』

「すげぇ必死…」


入場ゲートをくぐるなりワゴンに置かれたカチューシャのようなものを俺に押し付けて早々金を払ってるなまえ。なんだこれ…とよく見てみればそこにはあの有名なネズミ…いや、この夢の国の主人公にあたるキャラクターの耳がついていて。あぁそうか、なまえのにはリボンがついてるから、俺があのネズミでなまえがネズミの恋人ね。


「…って、これずっとつけて歩くのか?」

『そうだよー!もしかして、嫌だ?』

「あ、いや…違くて…」


なまえ、可愛すぎるんですけど…


待って?こんな可愛いネズミ、存在しちゃっていいの?俺だけのマウスちゃんでいてほしいのであまり見せびらかすような真似はしたくないんですけど…


『…健司くん、すごいね…』


ぼやぼやと葛藤しているうちに隣からはそんな声がして。何が?と聞き返す前に周りからの視線に気付いてしまった。ありとあらゆるところから女に見られていてどいつもこいつもその表情で言わんとしていることがわかってしまう。


『カチューシャつけただけでこの視線…確かに信じられないくらいかっこいいけど…』

「…大したことねぇよ、行くぞ。」


やっぱり似合うと思ったんだよね、と微笑まれてなまえが笑ってくれるんならなんだってつけてやるってそんなことを唱える俺。彼女が念入りに立てていたプランを崩すわけにはいかねぇと、張り切ってアトラクションに並びに行く。開園直後ということもあり普段ならすげぇ人が並んでいそうなものも案外スムーズに乗れたりして、思っていたよりもずっと楽しい…なんて、そんなことを思う自分もいた。


それはもちろん、彼女といられるのならどこへ行こうが最高なんだけどな…


『はい、これ。』

「おう…」

『それと、これも。』

「お、おう…」


通りすがりのワゴンや店。その度に増えていく俺の装備。気付いた時には首からポップコーンが入ったデカめのバズなんちゃらイヤーと、同じ映画に出てくる髭の生えたキャラクターのポーチをぶら下げていた。なんだったかな…ポテトフライ?ミスターとミセスがいるってなまえが説明してたような。


『う〜ん、すごい楽しい…!』


何気ない移動時間にもそんなことを呟いては笑っているなまえ。受験が終わったということもあり我慢していたものが一気に弾けたんだろうけど、にしたって可愛いが過ぎるし、何より俺の隣でそんなことを言ってくれるんだから、やっぱり好きが止まんねぇんだよなぁ…


「うおっ、すげぇ…なにこれ…宇宙船?」

『そうだよ、宇宙旅行に出発だよ!』














可愛いだの食べるのもったいないだの散々騒いでカメラに収めまくってやっとのことで昼食を終えたなまえ。早々食べ終えた俺はその様子を頬杖つきなから見つめていた。にしたって、他の女にやられたらめんどくせぇ…食うのか食わねーのかどっちかにしろと確実にブチ切れる案件でも、なまえがやれば永遠に見てられるんだから「好き」ってのはすげぇもんだなと改めて思う。


「ひとつ乗ったら次パレードだろ?」

『そうそう!すごい楽しみ!』


この笑顔を永遠に見つめ続けていたい。ふとそんなことを思って笑顔になる自分がいた。この子の隣で、これからもずっと…


『よし、行こう!』

「おう。」











「思ってた何倍もはしゃいだ気がする…」

『楽しんでくれて良かった!また来ようね。』


帰りの電車の時刻もあり、夕方に差し掛かる頃俺らは彼女が計画した全てのスケジュールを達成しゲートへと向かっていた。「また来よう」その約束を必ず果たそうと心に決めながら…。


「…待って、」


立ち止まる。見上げればシンデレラ城が見えた。


『…?』


特に何かを予定していたわけじゃない。ただこの場の雰囲気が、夢の国という響きが、楽しいと笑うその笑みが、俺をこんな風にさせるんだ。


「…なまえ。」


向かい合い、名前を呼ぶ。このカチューシャをつけた時も、バズなんちゃらイヤーとミスターポテトなんちゃらを首に下げた時も、いや…もはやそれ以外でも、周りから視線を感じていた自覚はある。「かっこいい」だのなんだの、言われ慣れたそれを今更かと思いながら聞き流していた。


今もなお、視線を感じる。そりゃそうだ、シンデレラ城の前で向かい合う男女なんて、この先の展開を予想したくなる案件に決まってるから。


それでももう、俺にはなまえしか見えない。


「…いつか、何年先になるかわかんねぇけど…ここでなまえにプロポーズする。」

『…えっ……?』


この場でこんなことを言うなんて、普段の俺なら気持ち悪いって顔をしかめる出来事だ。


「絶対に幸せにするって、ここで誓う。」

『……』

「だからその時が来るまで…飽きられない男でいられるように、なまえに相応しい男でいられるように…これからも頑張ります。」


なんだこれ、って冷静な自分がそう思った。告白でもプロポーズでもねぇ、既に恋人関係にありながら決意を誓うって…なんか一番ダサくねぇかな。これって…言われた側はなんて答えるんだ…?


「ずっと、隣にいさせてください。」


それでも俺のそんな勢いに任せてしまった故の不安をなまえという天使が一蹴してくれる。


『…健司くん!』


ガバッと抱きついてきた彼女を慌てて受け止めれば周りからは拍手が起こった。


『もう…!大好きだよ!』

「…おう、俺も。」

『こちらこそ、よろしくお願いします。』


プロポーズ、楽しみにしてるね


彼女はそう言って俺に口付けるんだ。俺はそんななまえが愛おしくてたまらねぇってまた笑うんだ。


いつまでも、そんな関係でいられたら…永遠に。













『…えっ?!』

「ちょ、おい…どうした…?」


帰りの電車を降り、駅のホームに立ったところでなまえが大きな声を出した。周りの人が何人かこちらに振り向くほどの声量で慌てて俺が何事かと問う。彼女は「これ…」と言いながら携帯の画面を俺に差し出した。


「…シンデレラ城の前で…王子様が、仮プロポーズ…?」


携帯のニュース。載っていた見出しを読むなり「まさか…」と思う自分がいた。


『シンデレラは照れたような顔で飛びつきそのまま王子様にキスを……って!これ、やっぱり…?!』

「いやいや、頭に耳につけて首からポップコーンぶら下げた王子なんて存在しねぇだろ…」

『そうだよね…何かの間違いだよね…うん、そうだよね。』

「…そこはポップコーン下げてても健司くんは王子様だよって言ってくれねぇの?」

『…王子様ならぐったりしたシンデレラを四度も抱いたりしません。』

「根に持つタイプね…」











You mean so much to me!


(…そろそろ許してください…)
(…ぷいっ)
(シンデレラ…ほんとにごめん。見える位置にキスマークつけたり四度にわたって抱いたり…)
(ちょっと!大きい声で言わないで!やっぱり全然王子様じゃないよ!)






三石様

この度はリクエストをいただき本当にありがとうございました!遅くなりまして申し訳ありませんでした。随分と前に書いた作品でしたが、こうしてまた蘇らせてくださり本当に感謝いたします!永遠に仲良しでいてもらいたい二人だなと、書いていて改めてそう思いました。リクエストありがとうございました。今後とも当サイトをよろしくお願い致します(^^)







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