後編







「まって、めちゃくちゃイケメン!」

「やばいよね、誰待ちなの?」

『なんか、騒がしいな…?』


とある日の放課後、やけに正門が騒がしかった。人だかりが出来ていて通るに通れなそうな勢いだ。ごくたまにドラマの撮影なんかで学校が使われることもあるためそんな感じかと巻き込まれないよう回避すべく裏門へと向かい始めた時だ。


バタバタと音が聞こえギュッと腕を掴まれた。それも物凄い勢いだ。慌ててハッと後ろを振り向く。


「…アンタ、どこ行く…」

『えっ……あ、あぁ!流川さん…?!』


そこには少しだけ怒っているような顔の流川さんがいた。なぜここに…と思い後ろの女子たちの視線を感じて気付く。もしかして今囲まれてたのって…流川さん…?!


「…とりあえず、来い。」

『おわっ?!』














連れて来られたのは前回の公園だった。なんとか女子を振り切った流川さんはベンチに座るなり私にも座るよう隣を雑に叩く。つい先ほどまで掴まれていた腕。解放された今もやけに熱く熱を帯びていた。


相変わらずの整った容姿にどぎまぎしながらも隣に腰掛ける。流川さんは「これ」と何かを差し出してきた。リボンがついた可愛い袋だった。


『これは……?』

「お礼、この間の。」

『えっ…い、いや!いいですよ!そんな大したことしてないし…!』


ただただ声をかけただけだ。迷ったけど緊張したけど、肩を貸しただけだ。それなのに畏ってお礼なんかされたら…


「…助かった、貰って。」

『…る、流川さんは…律義なんですね…』

「?なんで、さん?」


流川さんはそう言って首を傾げた。なんでと言われても流川さんは流川さんだ。あれ、待った…そういえば、何年生だった?


『えぇっと…何年生か、聞いてなかった…』

「一年。湘北の一年っす。」

『…い、いちねん?!』


まさか、年下?!と慌てる私に「うす」と答える流川さん…いや、流川くん。だから適当に呼んでいいと言われるも悩む。適当ってなんだ…男友達の感覚がないからサッパリわからない…


『る、流川くん一年生かぁ…この間まで中学生…には見えないなぁ…』

「アンタは高二に見える。」

『ちょいちょい、どういう意味!』


年相応ってことでいいの?と念を押す私にコクッと頷く流川くん。いや、ちょっと待てよ…なんか今、サラッとツッコミをかましたような…ハッと顔をあげれば流川くんはほんの少しだけ穏やかな表情で私を見ていた。


「そのまんまの意味、」

『そ、そのまんまって…』

「…名前は?」

『えっ…?』


そういえば、名前教えてなかった…?と考えながら「みょうじなまえです…」と名乗る。流川くんは興味あるんだかないんだかわからない顔で一度コクッと頷いた。同じように頭を下げて「よろしく…」と言えば彼は「うす」と返事をしてくれた。


視線を落とせば自分の手には先ほど流川くんがくれた包みがある。焼き菓子の詰め合わせらしく赤いリボンがとても可愛い。クールでカッコいい彼からこんなに可愛いものを渡されたと思うとなんだか微笑ましくて頬が緩む。視線を感じてふと顔を上げればジッとこちらを見ている流川くんと目が合った。


『えっ…と…?』

「みょうじさん、なんかいい匂い、する…」

『…?!』


クンクンと匂いを嗅ぐ流川くんが近づいてくる。びっくりしてピシャッと固まる私の肩あたりをクンクンしては「いい匂い…」と呟いた。一瞬の出来事なのに途端にソワソワと落ち着かなくなって慌ててその場に立ち上がる。隣から「どした?」と不思議そうな声がした。


『あ、あの…っ、ちゃんとお礼を…言ってなくて…』

「?」

『わざわざ学校にまで来てくれて、本当にありがとう…』

「…別に。」


このままは危険だ。なんだかわからないけど、流川くんの隣は…ダメだ…!鞄を持って「それじゃあ…」と立ち上がる。流川くんからの返事はなかった。足早に公園を出て家への道のりを早歩きで歩く。流川くんはもう隣にいないのにバクバクとうるさい心臓はそのままで本当に変な感じだ。流川くんのせいだ。あんなに綺麗な顔をしておきながらあんなに近い距離で匂いを嗅がれて……変な匂いしなかったかな…肩あたりを嗅ぐも汗臭くはなくてひとまず安心した。


『ほんとに、おかしくなりそう…』















「なまえ〜、今ちょうど友達が来たから迎えに行ってくるね!」

『わかったー、客引きしておくねー!』

「うん、よろしく!すぐ戻ってくる!」


女子校の学園祭はその名の通り女子ばかり…と思いきや、意外にも他校の男子生徒がたくさん遊びに来てくれるのだ。皆友達を招待したりしていて私も小学校時代の友達に何人か声をかけたものの生憎みんな女の子だ。そして案外この学園祭は普段女子だらけの学校生活を送る私たちにとって「出会いの場」になるらしく…学園祭をきっかけに他校の男子と付き合い始めたなんて子も少なくはない。


『みんな、気合い入ってるな…』


どこもかしこもメイクバッチリ、髪型バッチリの子たちばかりだ。そんな自分もいつもより意識して朝早く起きたりしたのだけれど。まぁ私に限ってこの学園祭を機に彼氏が出来るなんてことは無いだろうけどね…


「お待たせー、なまえ。小学校時代の友達!」

『あぁー、初めま……っ、えっ……』


友達が連れてきた女の子。挨拶の途中でその子の隣に立つ背の高い男の子に目がいく。だって…えぇっ…?


『る、るかわ、くん……?!』

「…あらっ、アンタ知り合いがいたのね?」

「…うす。」

「どうりで、ついてくるなんて珍しいと思ったのよ。」


やっぱりどこからどう見てもその子は流川くんで。心なしか廊下中の視線が彼へと向けられている。友達が紹介してくれたことにより流川くんの隣に立つ女の子は湘北でバスケ部のマネージャーをしていることを知り、流川くんとは中学時代から同じ学校に通っていることも教えてくれた。


「…どうも。」

『どっ、どうも…まさか、流川くんが来るなんて…』

「みょうじさんいるんなら、行こうかと思った。」

『…!』


深い意味がないことはわかってる。仲の良い先輩の付き添いであり、たまたま私の名前を思い出してくれたっていう、それだけのことだと思う。それなのに一瞬でボワッと体が熱くなって彼から目を逸らしてしまう自分がいる。なんなんだよ、もう……そもそも今日はいつもよりメイクも濃いし、髪型もくるくる巻きすぎているし、スカートも丈が…


私、変じゃない…かな…?


「何やんの、クラス。」

『あっ、あぁ…か、カフェを…』

「…ふぅん、」


周りの視線がグサグサと突き刺さる。恥ずかしさもあって爆発しそうだ。でもそんなものを一切気にしない様子の流川くんは「彩子のこと案内してくるね」といなくなった友達とその彩子ちゃんについていかずこの場に留まったのだ。ど、どうすればいいの…?私も彼を…案内、すべき…?


『な、なんか…食べたいもの、ある…?』

「…無い。」

『じゃっ、じゃあ…適当に…案内する、ね…?』

「うす。」


どうせ客引きの係だし…とふらふら歩き始めれば流川くんは黙って私の後をついてくる。なんだか本当に変な感じだし誰が予想したんだ?こんなの…誰も予想してないよ!流川くんがうちの学園祭に来るなんて…来るなんてっ…!!


さすがに何も買ってあげないのはまずいと適当に食べ物をチョイスしては彼に渡していく。歩きながらジュースを飲む流川くんは信じられないほど絵になっていて前を歩きつつコッソリと五回は盗み見した。イケメンは何してもかっこいいんだなぁ…


「あ、あの!湘北の流川くんですよね?!」

「……す。」

「写真一緒に撮ってもいいですか?」


キャーッと興奮した様子の女子生徒が寄ってきてあっという間に流川くんは輪の中に…無表情で何も言わない流川くんはジッと私を見つめるもどうしたらいいかわからずにコクッと頷けば心なしか呆れたようにため息を吐いて写真撮影に応じていた。あっという間に行列ができ、しばらく帰ってこないだろう彼を思うと悪いことをしたのかな…とそんな気にもなる。


近くで見守るのもおかしいかと本来の業務を全うするため客引きに戻り「2Bのカフェいかがですか〜」なんて声を出せば「ねぇねぇ!」と楽しそうな声がした。


『…はい?』

「うわ、めっちゃ可愛いね。2Bってことは二年?」

『…?』

「俺ら近くの男子校に通ってるんだけどさ…!」


も、もしやこれは…みんなが期待していた…「出会い」というものではないのか…?!ナンパ…?!いや、ナンパっていうか、普通に学園祭に来てくれただけじゃ…いや、でも、私に「可愛いねっ」って…!


浮かれる自分がいながらも顔を上げて男の子三人と目が合うなりハッとする。なんだか…距離感がおかしい…すぐ目の前にいる男の子たちに囲まれるようにして立たれ、その中のひとりがぼうっとする私の腕をギュッと掴むと「あっちで話そうよ」と連れて行かれそうになった。瞬時にその場に立ち止まり腕を振り離そうとする自分がいるも力が強くて振り解けなかった。


「いいじゃん、話そうって!」

『い、いや…客引きの、係だし…』

「俺ら、客でしょ?話そうよ、ねぇ?」


嫌だ…なんか、怖い…私、流川くんと話すときはこんな思いしないのに…なんで?同じ男の人なのに…同じ高校生なのに…なんでこんなに…っ、


「…触んな、どあほう。」

『…っ、あ……、る、流川くん……』


勢いよく振り解かれた手。どこからか現れたのは流川くんで私が彼を確認するなりサッと背中に隠された。先ほどの男の子たちは見えなくなり背中に隠されながらも流川くんの右腕は後ろに伸びていて、それは私の腰あたりを触れたまま動かなかった。


これは、一体…


触れられたそこが熱くて、それでもひどく安心する。同じように触られているっていうのに、どうして流川くんなら安心するんだろう…?


「この人は、ダメだ。」

「なんだよ、オメェは…関係ねぇだろ!」

「…ダメだって、言ってんだろ。」


ザワザワと周りが騒がしくなる。「何ー?」「キャーッ!」など、その視線は全て流川くんに注がれていた。彼の背中からひょこっと顔を出すと、そんな好奇の的になってしまったことで居辛くなったのか、男の子たちは舌打ちしながら「行こうぜ」と三人揃って去っていった。


流川くんはゆっくりと私の方を向いた。彼がこちらを向いたことがわかると途端に下を向いてしまう。緊張しすぎておかしくなりそうだ。流川くんに心臓の音がバレてないか考えれば考えるほどに大きくなる気がして余計に焦る。一人勝手に慌てる私に頭上から「みょうじさん…」と声がかかる。


『はっ、はいっ……』

「わかんねーけど…アンタのこと、気になる。」

『…へっ、?!』


素っ頓狂な声が出て自分でも驚く。自分自身にも、流川くんにも…気になるというのは、そのっ…?!


「他の男のとこ、行くな。」

『……!』

「俺の隣に、いてください…」


目が合うとそこには吸い込まれそうな切れ長の瞳があった。あまりの美貌に口がパクパクと動き魚みたいになってしまう。相変わらず気を失いそうなほど心拍数が速くて…だって、俺の隣に…?


俺の、隣に…?!


「返事は…」

『は、はいっ……!』


「います…」ともはや本能で返事をすれば流川くんは満足そうに「うす」と言った。きっとうるさいだろう周りの声も耳には入ってこない。これは…その…一体…


ひとつだけ、ハッキリとわかることがあった。


「案内、して。」

『あっ、あぁ、うん…途中だったよね…』

「うす。」


私は…私は…


流川くんのこと、気になるなんてレベルじゃない…きっとこれは…これは……


















気付けば君のことばかり


(これはー…絶対に…恋だ…!)
(?何変な顔してる)
(うわっ、きゅ、急に覗き込まないで!!)
(…?熱でもあんのか?)
(うわぁぁあ!触る時は触るって言って!!)







匿名様


この度はリクエストありがとうございました!女子校に通うヒロインちゃんは初めてでドキドキしながら書きました(^^)ちょうど職場に女子校出身の先輩がいて、大学に入るなり共学で男子を意識し過ぎて頭がおかしくなりそうな四年間だったという話を思い出しました(笑)私自身はずっと共学だったので「こんなこともあったのかな…」と思いながら色々と想像を膨らませて書くのが楽しかったです(^^)素敵なリクエストをありがとうございました!意に沿わない話でしたら申し訳ありません( ; ; )一応補足なんですが、ヒロインちゃんがバスケをしてる流川くんを見かけたシーンでちゃんと挨拶せずに帰っちゃったんですよね。その時流川くんはてっきりまだいて待っててくれるもんだと思ってたんですね(^^)なのに「あれ、いねぇな…」ってなって、それが予想外だったので今度は流川くんから会いに行く(それが学園祭)という流れになっております!流川くんにとっては絶妙な距離感(ヒロインちゃんは男性に面識がないだけ)が良かったという、解説がないとわからない設定がありました…(笑)細かくてすみません( ; ; )

今後とも当サイトをよろしくお願いします!










Modoru Main Susumu
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