■ Attention Please!






今日も今日とて藤真健司くんは最高にかっこいい。朝練があるバスケ部に所属しているのに、本当に練習してきたのか疑問な程に爽やかで近くを通ればいい匂いすら香ってくる。

そんな彼と三年間同じクラスで、叶いもしない片想いをする私と、そんな私眼中にない藤真くん。初めの頃こそ何とか彼の視界に入ろうと努力してみたりしたけれどそんなのはただの「時間の無駄」だと気付いたのは結構早い段階だったと思う。


「藤真〜、これ今日の練習メニューだって。」
「あぁ。どれどれ。...伊藤の奴、まだまだ甘いな。」
「卓ちゃんに返してくる?私行こうか?」
「いい。俺が直接行くよ。ありがとうな。」


ズカズカと私の教室へ入ってきたと思えば、一目散に向かう藤真くんの所。周りの女子が「お似合い」やら「ラブラブ」やらと騒ぎ立てる。バスケ部には超がつくほどの美人で人気のあるマネージャーさんがいるのだ。あの子の存在を知ってから、私は幾度となくあの子になりたいと願った。翔陽の王子様と称される藤真くんに対し、あの子は「翔陽の姫」なんて呼ばれて、何かと藤真くんとセットで扱われる。

それどころか二人が付き合っている、所謂恋人同士なんだと噂が広まり、あの美人マネさんは私だけじゃない、大勢の女子が望む「藤真健司くんの彼女」という憧れの座まで射止めたのだ。



そんな子が近くにいて、私なんかに目を向けるはずもない。美術部に所属し、これといって見た目もパッとせず、秀でるような特技もない。そんな私はせめてもの悪あがきとして今年のコンクールの作品に、体育館から見た夕焼けを描いた。今はもうとっくに禁止されてしまったが、藤真くんが新入生としてバスケ部に入ったばかりの頃、まだ誰でも体育館へバスケ部の練習を覗きに行くことが可能だったのだ。

その女子人気の高さから、5月には既に女子は閉め出され、扉を閉めて練習するのが決まりとなってしまったけれど、私だってあの群の中に紛れて彼のバスケを見に行ったんだ。日が暮れるまで夢中になって見入った。あの時、たまたま見た体育館からの夕焼けがあまりにも綺麗で、藤真くんを見に行った体育館で見た景色を題材に描いてみたら、見事コンクールでは賞をもらうことができたのだった。


「マジで花形の野郎...!」
「やめときなよ藤真、一志が困るでしょ。」


2人に視線を移せば先程までは真剣に部活の話をしていたようだったけどもうすっかり砕けた笑いが起きて盛り上がっている。どこからどう見てもお似合いの2人。移動教室でしか通らないような場所に飾られた私のコンクール入賞作品。そこにどれだけの想いを込めたって、彼に届くことはないんだ。







『すっかり遅くなった...。』


独り言が出るくらい帰りが遅くなってしまった。職員室に呼ばれたと思えば無駄な手伝いをさせられた。ついてない。玄関から門の方へと歩こうと思えば、少し前の方であの美人なマネージャーさんが、とてつもない笑顔で走っていく。どこへ行くのかと視線をやれば少し先に待ち構えていた背の高い人へとそのままダイブ。慣れたように受け止められそのまま2人は軽く口付けした...。え?!


『...(ふ、藤真くんの彼女なのに?!)...』


軽くパニックになる私の頭には「浮気」の文字が浮かび、こんなとこで大胆な...とひとり勝手に慌て始めてしまう。そんなところになぜかタイミングよく、一番来てはいけない人が来てしまったわけで...。


「...ハァ、疲れたわ...。」
『(ふ、藤真くん来た...!!!)』


上履きからローファーに履き替える藤真くんは私と目が合うとなぜかハッとした表情になりしばらく見つめ合う時間が続いた。なんて声をかければいいかわからない。まだそこにはあの美人マネと背の高いツンツン頭の他校の制服の男の子がイチャイチャしているであろう。ここを通したら...藤真くんは...。そう思うと簡単に通すわけにはいかなかった。


「...みょうじさん、今帰り?」
『へっ?!』


第一声を何にしようか。そもそもまともに話したこともない私が何かを言ったところで「お前誰?」と思われるのがオチだと考えを巡らせていたらまさかの藤真くんが口を開き、しかも私の名前を呼んだから信じられないほどに驚いて変な声が出てしまった。


『あ、...うん、そうなの...。』
「そっか。俺も今帰るところなんだ。みょうじさんひとり?」


藤真くんは話しながらもどんどんと歩みを進め、不意に名前を呼ばれた私は簡単にここを通してしまいそうになりハッと気がつく。チラッと外を見ればまだ門の前でゆっくりと歩いているあの2人。いやいや歩くの遅いよ!!


『あ、あの、藤真くん...あの、待って!』
「...ど、どうした?!」


私の大きな声に驚いたのか目を丸くしてこちらを見る藤真くん。それでも外の2人を見つけるのは簡単な位置まで来てしまい、どう中に戻そうか考えていると、そんな私の努力も虚しく、藤真くんはあの2人を見つけてしまったようだった。


「あ、あの2人...。」
『藤真くん!あ、あの、み、見ない方がいいよ...!』


強引に肩を押して下駄箱の方へと押しやれば藤真くんはあまりにも不思議な顔で私を見つめていた。


「えっ、と...、どうした?なんかあった?」
『何かって...だって、藤真くんあの2人、見ちゃダメだよ!何かの間違いだよ、きっと...。』
「えーっと...。あぁ、わかった。...間違いは多分みょうじさんの方だと思うけどな。」


藤真くんは勝手に納得したような顔で笑いながら私にそう言った。


『間違い...?』
「もしかして、俺とマネージャーが付き合ってると思ってた?だから浮気現場を俺に見せないようにってしてくれたんじゃない?」
『ち、違うの...?!』
「アイツの彼氏はあのツンツン頭の奴だよ。陵南の仙道っていうバスケ界では天才なんて呼ばれてるすごい奴なんだ。」


だから違うよ。なんて笑って言うもんだから、私は一気に全身の力が抜けその場に座り込んだ。なんだぁ...。それは私が失恋をしなくて済んだとかそういうことじゃなくて、とにかく藤真くんが傷付かなくてよかったと、その安心感だった。


「ど、どうした?!大丈夫?立てる?」
『ご、ごめんなさい。てっきり2人は恋人同士だと...』
「いや、ありがとう。俺が傷付かないようにって配慮してくれたんでしょ?」


爽やかな笑顔で立たせてくれる藤真くん。遠慮せずに藤真くんの手に自分の手を重ねてしまったけれど、こんなことが起こるなんて想像もしてなかったから、途端に顔が熱くなるのがわかる。藤真くんの手に触れてしまった...。それは思いの外しっかりとした男の人の手で、それでも細長くて綺麗で...。


「優しいな。みょうじさんは。」
『そんなことないっ...余計なことしてごめん。』
「嬉しかったけどな。俺の為にしてくれたってのが。」


恐る恐る顔を上げれば、藤真くんは優しい瞳で私を見ていた。思いもしない展開の連続に心がついていかない。このままここにいては爆発してしまいそうでそそくさと退散しようとローファー片手に先を急げば、私の腕は藤真くんによって強く握られたのだった。


『...えっ、?!』
「コンクールの作品見たよ。」
『...えぇっ?...あ...そ、そっか...。』


腕を掴まれたまま、藤真くんは下を向いたまま、そう呟いた。


「あの景色、見たことあるなと思ったんだ。」
『......。』
「体育館から見る夕焼けだよな?」
『...う、うん...。』


見てもらえたことも気付いてもらえたことも、こうなったらいいと願ったことは何度もあったけれど、実際に起こってみるとどう反応したらいいかわからなかった。だってこれじゃあ、私のせめてものアプローチに藤真くんが気付いたってことじゃん!


「あの夕焼けを見れるまで体育館にいるのはバスケ部だけだ。」
『......(バレた...?)』
「今は閉めて練習するから見れたのはきっと俺が入部してすぐの頃だけ。」


下を向いたまま淡々と話す藤真くん。なんだか全てを見破られてるようで怖くなってくる。


「俺のことを見に来てくれた時に見た夕焼けだったらいいなって、思ったんだ。」
『...なんで、そんなこと言うの...?』
「...ダメだった?」


そんなこと言われたら、、私は期待してしまう。ありもしないことを望んで傷付いてしまう。いやだよ、そんなの。なんでそんなこと言うの、藤真くん...。


『...私馬鹿だから、そんなこと言われたら期待しちゃうよ。やめてよ。傷付きたくない。』
「期待しろよ。俺だって、期待したんだから。」
『...え?』
「みょうじさんの絵を見た時、嬉しかったんだから。これが俺を思っての絵だったらいいなって。そっちこそ簡単に期待させるなよ。俺、ずっと好きだったんだから。」


みょうじさんのこと。好きだったんだから。


『...や、やめて...そんなこと、あるわけないっ...。』
「誰が決めるだよそんなこと。俺が好きだって言ってるんだから、それだけで十分だろ。」


嘘だ。これは絶対、何かの間違いだ...。そう思えば思うほど、目の前の藤真くんが真剣な顔して私を見てくるから吸い込まれそうになってしまう。もうどこにも逃げられない。掴まれた腕も、見つめてくるその瞳も、全部が熱っぽくて、私は完全にやられてしまった。


『...わ、私、ずっと...藤真くんが好きで...あの絵も、藤真くんに届いたらいいと思って、描いて...。1年の時に藤真くんを見に行った体育館で見た夕焼けで...』
「......抱きしめてもいい?」


私の決死の告白にそんな質問で返されて、一気に頭の中が沸騰してしまった。返答に困っていたら有無を言わせないような少し強引な形で引き寄せられ、藤真くんの腕の中に収まってしまった。バスケ部の皆といると随分小さく見える藤真くんもやっぱりちゃんと男の人だ。腕は硬いし胸板も厚い。余計にドキドキが止まらない...。


『ふ、藤真くんっ...!』
「離さないよ。もう絶対にね。」
『誰か、通るかもしれないし...!』
「嫌だ。見せておけばいい。早めに知らせておかないと。」
『そんなっ...。』
「いつどうやって話しかけようか悩んでたら、こんなに時間が経っちゃったんだから...。」
『ふ、藤真くんはいつから、私のことを...?』
「あー、入学式だよ。人の良さそうな雰囲気に一目惚れだった。」
『えぇっ?!』


信じられないと思い視線を上へと上げれば至近距離で目が合い、藤真くんは少し口角を上へとあげた後、ゆっくりと私に近付いてきた。色々なことが重なり緊張がピークに達するものの受け入れるように目を閉じれば、あの日の夕焼けをバックに私達の唇は重なったのだ。





サヨウナラ、片想い。

(なまえって、呼んでもいい?)
(わ、私も健司くんって、呼びたい...!)
(...何それ無理可愛すぎる...ニヤけ止まんねえ...)




月影様リクエスト(^o^)v
リクエストありがとうございました(^o^)v!手直しなどなんでも受け付けますので一言もらえると助かります!!





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