■ 眩む程のアニバーサリー







とある土曜日。珍しく昼過ぎに練習が終わった陵南バスケ部の部室にて、越野は珍しく慌てて帰り支度をしていた。


「越野どうしたんだ?そんなに慌てて.....」


不思議に思った仙道が練習着を脱ぎながらそう声をかければ越野の代わりに隣にいた植草が「あれ?仙道知らないの?」と返事をした。


「知らないのって、何を?」

「越野、今日彼女と付き合って半年なんだって。」

「へぇ、もう半年.........で?それが?」


時が経つのは早いもんだ...としみじみ時の流れの速さに感心している仙道がそう聞き返せば植草と越野はぴったり同じタイミングで「「は?」」と声をそろえた。


「....だから、会うんだって。今から。」

「....それ、半年経ったことと関係あるの?」


普通の顔して聞いた仙道に今まで無視していた越野が「ハァ?!お前それでも彼女持ちかよ?!」と声を上げた。


「記念日だよ。祝ったりしねーの?お前なまえさんと付き合って長ぇじゃん!」

「記念日........そんな概念俺には無かった.........」


なるほど、恋人同士という二人の間には「記念日」という特別な日にちが存在するのか。仙道は勉強になったなぁ...なんて妙に納得している。そんな様子を見た越野は既に着替え終えた上に制汗剤の匂いで甘く包まれており仙道に向かって怪訝そうな目を向ける。


「......よくそんなんで長く続いてるよな......これだから顔がいい奴はムカつくんだよ。」

「顔がいいのと長く続くのは関係ないんじゃない?」

「....うるせー。お前彼女いねーだろ。」


植草のもっともな意見に舌打ちしながらそう返した越野は「じゃあな」と乱暴に扉を開けて部室を出て行った。彦一の「ほな、楽しんでくださいね〜」なんて間延びした甲高い声が部屋中に響く。


「仙道、本当に祝ったことないの?」


付き合ってそろそろ二年になるんじゃない?と何故だか他人の恋愛に詳しい植草が着替えながらそう問えば仙道は「そうかな...」と今までのことを振り返ってみる。


「俺がこっちに来てすぐだったから.......」


現在高校三年生の仙道が東京から神奈川へとやってきたタイミングは三個上のなまえという彼の幼馴染が高校を卒業し大学進学の為に神奈川で一人暮らしを始めたのと同時であった。二人は幼少期からの幼馴染にして高校進学と大学進学の進学先を共通の「神奈川」にそろえたほどの仲でありながらも交際には発展していなかったのだった。


三個という近くもあり遠くもある微妙な年齢差のせいで二人は幼馴染であり親友でもあり、そして微妙に感じる歳の差にひどく距離を感じて過ごしてきたのだった。高校に入学するなり「天才」と称され彼なりにプレッシャーを感じていた頃、そんな仙道の心の内が手にとるようにわかるなまえが告白したことから交際に発展したわけだが、かれこれ二年前の出来事を振り返り仙道は植草に口を開いた。


「....誕生日は祝うよ。なまえちゃんは嫌がるけど。」

「なんで?」

「歳とるの嫌いなんだって。」


仙道の返答に植草が「なんか可愛いね」と返す。仙道は自分の彼女が褒められたことに嬉しさを感じながらも心の内はスッキリとせずモヤモヤしていたのだった。


「ねぇ植草、記念日って普通祝うもんなの?」


それは越野の慌てようが物語っていた。普段練習後は茂一の話や練習内容の話などおしゃべりが止まらない越野があんなにマッハで着替えてしまいには制汗剤のいい匂いをプンプン漂わせてダッシュで出て行くのだから。普段から越野が彼女を大切に思っているのは知っているけれど、それでも.....


「そりゃね。俺彼女いたことないからわからないけど、節目節目で互いに感謝し合うことってどんな世界でも大切じゃない?」


「それに男と女だよ?分かり合えないこともある中で長く付き合えるっていうのは凄いことだよ」植草はそう言ってワイシャツに腕を通し始めた。彼女がいないとはいえとても心に刺さる正論に仙道はなまえに対して申し訳なさでいっぱいになってしまう。


「.....俺そんなの気にしたことなかった.....」


仙道となまえは長いこと幼馴染という時間を経て恋人になったこともあり、お互いに居心地の良さを感じてしまい新鮮みに欠けていたのだ。常に隣にいるのが当たり前だと思い込んでしまい一々細かいことを気にするような関係でもなかった。しかし仙道は知ってしまった以上気になって仕方なかった。自分の「好き」という気持ちは出来る限り伝えているつもりではあったが、植草の言う通り、日々の生活の中で彼女の存在に感謝し、それをお祝いするという形で表現し、二人で二人のことを祝うという素晴らしいイベントをやらないでいたことがなまえに申し訳なくて仕方なかったのだ。


「なまえさん大人だもんね。何か思ったとしても仙道に合わせてるかもよ?」


植草の言う通りなまえは昔から大人であった。それは実年齢もそうなのだが、主に「心」がそうであった。とても落ち着いていて自分のことをよく理解してくれてなんでも受け入れてくれて喧嘩したこともなければ怒られたこともない。何をしても何を言っても「いいよ」と自分を許してくれる、そんな優しい存在なのだ。


そして何より、自分がやりたいことやしたいこと、願望なんかをあまり伝えられたことがない。何をするにも自分を受け入れて自分を優先してくれるなまえ。その彼女の「余裕」が今の仙道には面白くなかった。


記念日か......なまえちゃんは興味ないのかな......


「植草.....俺、彼氏失格.....?」

「それは俺じゃなくて、なまえさんが決めることだと思うけど。」


聞いてみたら?と植草に笑いながら言われた仙道は苦笑いを返した。










「ただいま。」

『おかえり。お疲れ様。』


仙道のマンションとなまえのマンションは程よく近い場所にあり付き合い始めてからは頻繁に互いの部屋を出入りしている。部屋に帰ればそこにはエプロンをつけて夕飯の支度をしているなまえがいた。特に約束はしていなかった。


「ただいま、なまえちゃん。」


仙道が料理中のなまえに後ろから抱きつけば「危ないよ」と可愛い返事が返ってくる。


『.....何かあったの?』


どこまでも察しのよいなまえがそう問えば仙道は「ううん」と首を横に振った。なまえはそんな彼の心の内もお見通しのようで「大丈夫だよ」と笑う。


「.....大丈夫じゃないよ、なまえちゃん。」

『.....でも、いつも大体大丈夫でしょ、彰くんなら。』


何に落ち込んでいるのかは知らないがなまえはそう言って仙道に笑いかける。理由はわからなくとも何かあったことくらいすぐわかる。そんなどこまでも優しく察しのいいなまえに仙道は素直に口を開いた。


「....俺ら付き合ってそろそろ二年....?」


カレンダーを見たって具体的な日付なんてわからない。仙道が不安げにそう問えばなまえは不思議そうな顔で彼を見つめていた。


『.....どうしたの?』

「ちゃんと祝いたいって思ったんだけど.....」

『.....はは〜ん、越野くんに影響されたな?』


なまえが笑ってそう言えば仙道は素直に頷く。


「俺、そういうの疎くてさ....なまえちゃんいつも俺に合わせてくれるから....」


いつも我慢してくれる。いつも俺に合わせて俺を最優先にしてくれる。甘える場を作ってくれる。「年上」というだけで、ただ三年早く生まれたというだけで、なまえはその余裕で仙道を包み込んでくれるのだ。


『そんなの気にしてどうしたの?私にとっては毎日記念日だよ。』


なまえはあっけらかんとそう言うと仙道にニコッと笑いかけた。


「....敵わないなぁ、なまえちゃんには....」


仙道はそう呟くと彼女には敵わないと眉を下げて笑った。


『....ちなみに明後日です。付き合って二年。』


仙道は誓った。明後日の練習が終わった後すぐ帰ってこようと。今日の越野みたいに慌てて着替えてなまえちゃんの為に走って帰ってこよう、と。


「我儘言ってよ。どこか連れてって、とかさ。たまには甘えてよ。俺餓鬼だけどなまえちゃんの為なら頑張るよ。」

『じゃあ....ケーキ焼いて待ってようかな。』


「早く帰って来てくれる...?」そう控えめに聞いてくるなまえがあまりにも可愛くて仙道の中の何かがプツッと切れたのであった。













帰るのは君の元だけ


(これからも俺と一緒にいてくれる?)
(...............)
(.....えっ、なんで黙るの.........)
(ごめん!嘘!ちょっと意地悪したくなっただけ!)
(彰くん!ごめんって!そんな落ち込まないで!)









真琴様リクエスト (^ω^)

余裕のある年上彼女っていうのがすご〜〜く心に刺さったんですが全然うまく書けなかった.....ごめんなさい( ; ; )!仙道くんの短編は越野や植草をガヤとして出したくなります.....お待たせして申し訳ありませんでした!!




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