■ King’s Pride







「なまえ、一緒に帰ろう」
『あっ...牧!部活終わったの?』
「あぁ」


委員会で遅くなった日の帰り私は玄関の所で声をかけられた。部活帰りの牧は疲れた様子を見せずに「委員会だったのか」と私に言う。


『そうなの。結構遅くなっちゃって...』
「お疲れ。家まで送る。」
『あ、ありがとう...牧もお疲れ様。疲れてるのにごめんね...』


いいんだと笑う牧はやっぱり大人っぽくて高校生には見えないけれど笑った顔は少しだけ幼くなる気がして可愛いなんて思ってしまった。去年から二年連続で同じクラスとなった牧は落ち着いた見た目通りに話しやすくて優しくてやっぱり大人っぽくて、けれどもどこか抜けてて...。気が付けば友達と呼ぶには相応しくないほどに仲良くなっていたわけだ。


「朝晩は冷えるなぁ。そんな短いスカートで風邪引かないのか?」
『平気だよ。慣れてるし。それにもうすぐこの制服も着られなくなるじゃん?だから1日1日を大事に着てるの。』


もうすぐ師走。年が明け春を迎える頃には卒業となる。すっかり受験モードとなった校内は教室にちらほら明かりがついていてそれぞれが進路の為に努力しているんだとお知らせしてくる。門を出たあたりで牧は「ふぅ」と息を吐いた。


「卒業...か。あっという間だな。」


その言葉にはとても深みがあり、三年間バスケ部の怪物として戦ってきた牧だからこそ言葉ひとつに重みがあるんだなぁ、なんて目が離せずにいた。


「...どうした?」
『...あ、いや...もうすぐでしょ、選抜の予選...』


牧や高砂くんたちにとって最後の大会となる冬の選抜。予選はもう後数週間後に始まりこれが終われば牧はバスケ部を引退するわけだ。


「あぁ。...最後の最後も俺が勝つよ。」
『皆最後だから...必死に挑んでくるだろうね...。』


牧のライバルとして思いつくのはやはり翔陽のプリンス、藤真健司であり牧もまたやっぱり双璧と呼ばれた彼を想像したのだろうと思う。


藤真健司というとんでもない美形男子とは中学校が同じであった。ちょうど今の牧みたいに私にとっては親友みたいなポジションで、どれだけ藤真がすごい人であってもやっぱり私にとっては普通の同級生だったのだ。煌びやかな見た目と男らしい中身、気を許した相手には容赦無く毒を吐き自分の意見を貫き通す。彼の人間味溢れる中身を知っていたからこそ藤真を王子と思ったことはなかったし、ひとりの男の子として好意を寄せていたのもまた事実であった。


まぁ伝えることもなく離れてしまったのだけれど...



「相手が誰だろうと絶対負けないさ。」
『さすがは帝王...隙がない...』
「やめてくれ...」






繁華街を通りながら着実に私の家へと近づいて行く。辺りは暗いけれどここの通りはやけに明るくまだ制服を着た学生たちもちらほらいるようだ。


その中に深緑色のブレザーを着た栗色の髪の男がいて。同じブレザーを着た大きな男たちに囲まれるようにして立っているその姿にやっぱり見覚えがあって意識しなくとも口から名前が出てきてしまう。


『......藤真......?』


海南と翔陽はさほど近いわけでもないし同じ中学に通っていたとはいえ家同士も近所ではないからこんな所で会えるなんて奇遇だなぁ、なんて一歩彼に近づいたその時だった。







『......牧?どうしたの?』


私の腕を掴んで離さない牧に「あそこに藤真がいたんだよ」と指をさせば「わかってる」とだけ言い藤真がいる場所とは反対方向へと私を引っ張っていってしまう。


『ま、まき...?!どこ行くの.....?!』










繁華街を抜けて街灯の明かりでしか灯されていないような暗い道路で牧はピタッと止まった。


「...悪い」
『......いや、いいけど.....急にどうしたの.....』


結局藤真に話しかけることも叶わなくて。牧の様子もおかしいし...と思った私はもしかして選抜予選前に藤間には会いたくなかったのかな、なんて思い始めて途端に悪いことしたなぁ...なんて罪悪感でいっぱいになってしまう。


『あ......牧、藤真に会いたくなかった.....?』
「..........」
『だよね、予選近いのに...ごめん。余計なことして...。』


私の言葉に牧は「違う」と一言呟いた。


『......?あれ....違った....?』


何を考えているのかわからない私に牧は「会いたくはなかったけど...」と続ける。


「会いたくは無かったんだが...それは俺じゃなくて」
『....?』

「なまえと藤真が会って話をするのが嫌なんだ」







予想もしていなかった答えに理解不能となり固まる私と真剣に私を見つめる牧。その視線があまりに真っ直ぐでどうにもこうにも目を逸らせない。


「...俺は選抜も藤真には負けない」
『...う、うん...』
「それは海南の為でもあるけれど...男としての勝負でもある。」



『男としての....勝負....』











「あぁ。なまえを賭けた藤真との戦いだ。」
























選抜大会神奈川県予選の決勝。


カードは海南大附属と......翔陽高校。


その会場で私はひとり試合を見つめていた。


競り合う両チームの4番から目が離せなくてどちらかを応援することもできなくて何て説明しても足りないようなそんな不思議な感情で牧と藤真を見ていた。





あの日牧に言われた言葉の意味は恋愛に関してさほど敏感ではない私でもわかった。けれども牧の気持ちは置いておいて、藤真が私を好きなんてことは天と地がひっくり返ったとしても無いのではないかと思ったのだけれど....


でもやっぱりこの戦いを見届ける以外他なくて。















「藤真...最後の戦いだな...」


コート上で牧の呟きを聞いた藤真は「あぁ」と小さく返した。今年の夏は戦うことすら叶わなかった海南との試合に藤真は良い意味で震えていた。やっとこのチャンスを掴んだと思わずにいられない。夏の悲劇を繰り返すまいと試合は初めからスタメンとして出場しているし次期キャプテンの伊藤にベンチの指揮は頼んである。


心置きなく清々牧と対戦できるという純粋な喜び。そして今度こそ勝つという心意気に加えもうひとつ、藤真の心の中にも絶対に負けられないという思いがあったのだ。


「藤真...この試合もなまえも...俺がもらう」


牧の言葉に藤真は顔を上げた。真っ直ぐ前を見たまま「させねーよ」と呟く。それを聞いた牧は「望むところだ」と返した。





















「...なまえ」


白熱した試合が終わり席を立てない私の元に聞き慣れた声が届く。


ゆっくりと後ろを振り向けばユニフォーム姿のまま息を切らした男が立っていた。







『......牧、』

「見にきてくれてありがとう」





額には汗が滲んでいてさっきまでこのコートで白熱した試合をしていた張本人なんだとわかりきったことを再認識させられる。


「.....勝った。」


牧の言葉になまえは静かに頷いた。


海南大附属は翔陽に勝ち選抜大会出場を決めた。牧と藤真の高校最後のマッチアップには会場内が大いに沸きテレビカメラも実況も皆が二人の対決に釘付けであった。


「俺なまえのことが好きだ」


真っ直ぐな瞳に捕らえられてもうどこへも動けない。次第に牧は距離を縮めてきて気が付けば私の目の前にいた。


「...俺の彼女になってくれないか」








私はゆっくりと頷いた。それを見た牧は年相応の可愛い笑顔で笑って私を抱き寄せた。まだ少しだけ熱を帯びている牧の体はやっぱり逞しくてかっこよくて。少しして突然引き剥がされたからビックリして牧を見上げれば「汗臭いよな、ごめん」なんて言葉が降ってくるもんだから可愛くてたまらなくなって自分からキスをした。















やっとたどり着いた運命の人


(...あはは、牧顔真っ赤だよー)
(なまえが突然キスなんか...!)
(嫌だったの?じゃあもうしない。)
(...嫌じゃない。むしろ....。次は俺からする)









立花様リクエスト ☆☆
強引な牧さん...とてもいい...(*^o^*)バスケ以外ではのんびりしてそうな穏やかなイメージですが恋愛においては帝王ぶり発揮してくれてもいいなぁと思います!!牧さんに言い寄られて断る女の子いないと思います。。本当にかっこいい.....

遅くなりすみませんでした( ;_; )



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