■ C







『....っ、はぁっ、.......、』



門を出て右に曲がって少し進んだところで私は思わず立ち止まった。



『......っ、!!!』



今まさに探していた人物がこちらに向かって歩いて来ていたからだ。









『......流川くんっ、.........』


ゼーゼーする息を整えながら名前を呼べば「なまえセンパイ」と呼び返される。


『あのね、.....話したいことがあってさ.......』


私の言葉に流川くんはこくんと頷いた。場所を変えずとも早く伝えてしまいたかった。呼吸を整えて決心をして、口を開く。

















『本当にごめん......!』












思いっきり頭を下げた私の頭上から流川くんの声が聞こえてくる。















「なまえセンパイ、顔上げて」

『.......上げられない。今から言うことがあまりにも酷すぎて........本当にごめん.......。あのね.........私....』














『自分にとって一番大切な人は誰なのか....いや、大切にしなきゃいけないのは誰なのか.....やっと気付いたの.......。』



それが流川くんではないんだと、本当に申し訳ないけれど、と再び頭を下げようとしたらそれは彼によって阻止されたのだ。








「センパイ、わかってた」

『........な、にを........。』

「なまえセンパイがほんとは誰を好きなのか」









ほんとは、って......。そんなことないよ!そんなことは....ない。だって流川くんのことだってすごく好きだったし、大切に思っていたんだけど、だけど..........。


まとまらない考えをどうにかして口に出して彼に伝えたくて迷っていると流川くんは笑った。


綺麗な顔で優しく穏やかに笑った。








「センパイが笑ってる先に必ずあの人がいた」

『......えっ?........』

「はじめからわかってた。けど.........」





「それでもいいから欲しいと思った」

『流川くん.........、』






目の奥が少しだけ揺れている。















「人のもの欲しがったから、俺の負け」

















流川くんは私が知る限りとっても負けず嫌いだったはずだ。確か仙道くんとの試合の時も、山王と戦った時に沢北くんと当たった時も.......彼は負けることを嫌い意地になって張り合ってたはずだった。


それなのに.......










『流川くん.........』

「なまえセンパイ、すげー好き」

『へっ.......』

「だからやっぱり、あの人の隣で笑ってて」







流川くんはそう言うと私に背を向けて歩き出した。



『流川くん.......、』



私が名前を呼べば彼は立ち止まりこちらへと振り返る。



「....なまえセンパイ」

『.....えっ.......なに......?』











「卒業おめでとう」








彼は笑った。やっぱり信じられないくらいに綺麗に笑った。


『流川くん!!ありがとう......!!』


私の思いを全て込めた「ありがとう」に彼はこちらを見ずにまっすぐ歩いたまま右手を上げた。
















『紳一.....!!』


学校へと戻り相変わらずみんなとおしゃべりしている彼の名前を呼べば隣で清田が「あ、帰ってきた」なんてびっくりしている。


「どうしたんだ、そんなに慌てて....」
『ごめん...話したくて..........』


私の様子に紳一は驚きながらもみんなの輪から出て人目のつかないところへと移動してくれる。その後ろ姿を見て溢れ出そうな涙を堪えるのに必死だった。


「なんか、あったのか.....泣きそうじゃないか....」


私の顔を見るなり紳一はそう言って私の頬に手を伸ばした。あったかい紳一の手が私の頬に触れた瞬間、彼に対する「好き」が溢れ出てくる。






知らなかった.........こんなにも彼のことを大切に思っていたなんて..........


自分でも当たり前すぎて気付いていなかった.....。






「流川のところには行かないのか?...もう行ってきたのか、その様子だと.......。」


紳一は何やら黙って考え始め何か勘違いしたのか「行きづらいのなら一緒に謝りに行くぞ?」なんて顔を覗き込んでくる。


そうじゃないよ、そうじゃない......






『もう行ってきた。流川くんのところ。別に喧嘩なんてしてない。』
「....じゃあ何故そんなにも泣きそうな顔を....」

『別れた。』



私の言葉に紳一はハッと目を見開いて固まった。



「驚いたな.......なまえみたいな子を振るヤツがこの世の中に存在したとは.......。」



そんなこと言いながら何か神妙な面持ちで下を向く紳一。全く全部が違いすぎて話にならない。だけれどこの人はそういう人なんだと思うと彼らしさ全開で涙よりも笑いがこみ上げてくる。



『振られたようなものだけど、でも違うの。』
「..........?」
『今更ながら、やっと気付いた.....。』








『私にとって一番大切な人は....紳一だなって。』

「.............なまえ今、何て...........」



紳一が見たことないくらい驚いた顔でその場に固まっている。



『だからって付き合うとかそういうことじゃなくって。告白されたからって別れてすぐ付き合うとかそういうことはしたくないんだけど.....でも言わなきゃって.....』


私の言葉に紳一はハッと我に帰り「なんだよそれ...」と呟いた。


『なんだよって...どういう意味...?』

「あ、いや。なんか信じられなくて...だな...。」


色黒な彼だが目に見えてわかるくらい顔が赤くなっている。紳一は一歩私に近付き彼と目が合う。


「抱きしめても....いいのか....?」
『......うん、いいよ.......。』


私が頷いた途端に紳一が近づいて来てあっという間に彼の腕の中に収まった。ふわっと香る紳一の匂い...。


「なまえ.......ありがとう.........」
『ずっと、気が付かなくって本当にごめん。』
「いいんだ。隣にいられるのならそれだけでよかったんだ。でも.........」


そっと離れた紳一と私の視線が交わる。


「夢みたいだ....こんなの....」


あまりにも柔らかくて優しい表情で私の頬に手を伸ばしてくる。また触れられた頬は途端に熱を持ち既に熱い体が余計に熱を持つのがわかった。


「好きだなまえ。俺はいつまででも待つ。なまえがいつか何かを伝えてくる日まで。」

『.....ありがと、紳一...........』



再び包まれる彼の腕の中。

今はまだ、好きとは言わない。
でもいつかそれを伝える日が来たら...その時はまたこうやって紳一が嬉しそうに笑ってくれたらいいな。
















これからも永遠にあなたの隣。


(牧さんなまえさんっ!神さんと俺と4人でカラオケ行きましょうよ!)
(いいね〜行こう行こう〜!!)
(清田、お前歌上手いのか?)
(ひどいや牧さん!俺をバカにするなんて!)

(......世話が焼けるなぁ、牧さんもなまえさんも。)




立花様リクエスト。ありがとうございました!!

リクエスト頂いた時にこれは1話では描ききれない!と真剣に連載を考えるくらいでした。4話でおさめてしまったのも本当によかったのかなって思っているくらいです。。なんだか描きたいと思うイメージになかなか近づけられなかった気がして自分自身が情けないです。素敵なリクエストを頂いたのにご期待に添えず申し訳ありません...たくさん待っていただいたのに...


最後二人をくっつけるには展開が早すぎるんじゃ...と思い今後も隣で歩んでいくという形でまとめさせてもらいました....。よかったのかな.....( ;_; )( ;_; )


最後までお付き合い頂きありがとうございました。そして立花様本当に素敵なリクエストを私の元でして頂いてありがとうございました!!!





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