後編







「好きっす。なまえさんのこと.....。」

『えっ......?!』

「俺と付き合ってもらえませんか?」


知らなかった。花道がバスケ部に入ったきっかけが私だったとは。確かに言った。「背が高いね、バスケ部なんかどう?」なんて。なんの気なしに言ったそれをまさか鵜呑みにして入ってくれたなんて思いもしなかった。


いつからか私にとっても特別な人であった。何をするにもまっすぐで絶対諦めない。強い根性とタフな精神力、そして信じられない身体能力。今でもBリーグの最前線で活躍できるだけのことはある。


南さんに話をしてから数日、そんな昔の花道の告白を思い出していた私に悲劇が起きた。













「みょうじ、ちょっと来て。」

『はい........。』


部長に呼ばれて、それがまた神妙な顔で。なんだろう、何かしただろうか、なんて思っている間にたどり着いたのは会社の玄関で。


「そこに、君に会いたいと言ってる人がいる。」


指をさしたのは玄関の外。外で立ってるという。


『あの......?』

「今日は午後休にしておく。そのまま帰りなさい。」


部長はポンと私の肩を叩くといつのまにか私の荷物を持っていたらしく手渡しで渡してくる。理解が追いつかないまま受け取って恐る恐る外へと出てみる。誰だろう.....。いや、そんなわけないよな、まさか.....。














「...なまえ。」


........南さんの馬鹿、裏切り者!

私の脳内はやけに冷静で一番最初に思ったのはそれだった。あんのエースキラーめ...どさくさに紛れて抱こうとした上約束も破るなんて最低の極み...!


『花道.........、』

「......やっと会えた.......」


いつのまにか超有名人になってしまった君が、何ひとつ変装もせずに普通に会社の前に立っているなんて、これはもう何かの夢なのかもしれない。


『わっ........、』


でも、たとえ夢でも、懐かしい君の腕の中に閉じ込められて悪い気はしないのはなんでだろう。この間久しぶりに男の人に抱きしめられた南さんの腕の中も随分と落ち着いたけれど...、やっぱり花道は特別なんだなって思い知らされる。


「....急に来てごめん。本当にごめん。」


「探さないで欲しかった」とか「忘れて欲しかった」とか「どうしてあんなこと言ったの?」とかそんな疑問が次々喉のところまで出かける。けれども口からスッと出てきたのは紛れもない本心なのだった。


『......花道、ごめんね......本当は、会いたかった.....』

「なまえ........、ゆっくり話そう。」















ひとり暮らしのマンションは快適な広さのはずなのに、花道ひとり来るだけでやけに狭くなるだなんて知らなかった。キョロキョロして落ち着かない様子でソファに腰掛ける花道がなんだかやけに可愛く思えて仕方ない。


私は彼と出会い付き合うまでの過程を思い出し懐かしさに浸りながら全てを話した。


『花道のお父さん、中学生の頃に亡くなってるって言ったじゃん?』

「あぁ、親父ね。それが.....どうかしたのか?」


今でも鮮明に蘇るあの頃の記憶。付き合い始めて毎日が幸せで、教室でも部活でも花道の良きパートナーとして努力を重ねてたんだ。卒業間近になり「アメリカ留学」という単語が花道や流川の周りをチラつき始めた頃、私は花道を自分の家へと連れて行った。


『花道のこと無理矢理家に連れてったことあったでしょ?両親に紹介したくて......。』

「あ、あぁ。あったな、そんなこと。」


「でも途中で帰らされたよな、あの時」。花道の言葉に私は頷いた。アメリカ留学を考える彼についていきたい、もしくは待っているにしても、私ひとりじゃ抱えるには大きすぎて、両親にも知っておいて欲しかったのだ。こんなすごい人と付き合っているんだと、将来を真剣に考えてしまうくらい大切な相手なのだと。


連れて行った我が家で事件は起きた。


『うち、三個上にお兄ちゃんがいるんだけどね...連れて行った花道を見た瞬間、青ざめた顔で部屋に逃げてったの。』

「えっ......?」


あまりの顔面蒼白ぶりに何事かと、花道が両親に挨拶している間、私は兄の元へと向かった。自室で震えながら布団を被り、私の問いに「ごめんなさい」と繰り返す兄。何があったのか、どうしたのか、としつこく問いただせば彼は言った。


『花道のお父さんが倒れた時さ、不良達に囲まれて.....病院に連れて行けなかったんだよね?』

「なんで、それを.......」

『その中にいたの。私の......お兄ちゃん。』

「はっ.........?」


典型的な不良であった赤髪の桜木花道を初めからちっとも恐れずに接することができたのは、私の家族である三つ上の兄が「不良」だったからだ。身近に喧嘩に明け暮れる似たような存在がいることによって私には花道は怖い人ではなくそこらへんの男子生徒と同じに見えた。


いつか、私がまだ中学生だった頃。高校生だった兄がいつものように喧嘩ばっかりして帰ってきたんだけれど、やけに様子がおかしくて気が狂ったのかな...なんて心配になるくらい変な時があった。母が理由を聞けば「年下を大人数でシメた」と答えたらしいが理由はそれだけじゃないんじゃないか、と母は考えていたようだった。きっとあの時、兄が言ったその「年下」は花道のことで、それがきっかけで彼のお父さんが命を落としたこともわかっていたのだろう。自分が犯罪者にでもなったかのような落ち込みぶりだったから辻褄が合う。


『花道見た瞬間部屋に引きこもって「ごめんなさい」「ごめんなさい」って繰り返してさ...。理由聞けばそう答えるから...。』

「......だから、離れていったのか.......?」

『だって......無理でしょ。知ってしまった以上は逃げられない。』


見て見ぬ振りも、自分に関係のないことだからと無視することも出来ない。そんな重大な事件に私の兄が関与していただなんて、大勢いるうちのひとりに過ぎなくても許してはいけないことだった。


それ以来私はあからさまに花道と距離を置いた。部活は夏で引退していたから冬まで残っていた花道の帰りを受験勉強をしながら待っていたりしていたけどそれもなくなった。いつの日かそんな私を呼び止め話しかけることすらしなくなった花道とは結局なんの会話もないまま卒業して、それ以来十年の月日が流れたのだった。


『ちゃんと話せばよかった。話して離れればよかった。でも自分でしっかりと受け止めるまでに時間がかかった。』

「なんだよそれ......」


花道の怒りに触れて、やっぱりそばにいるべき存在じゃなかっただろうと、君が「会いたい」と思うに値しない人物だろうと、言いかけてやめる。続いた花道の言葉があまりにも想定外だったから。


「......そんなこと、どうだっていいのに。」

『えっ.......?』


そう言って花道は私の頭を撫でた。懐かしい温かさに不意に涙目になってしまう。


「なまえにとっては大事なことだったんだよな、気にしてくれてありがとう。でも、そんなことで離れないで欲しかった。」

『そ...そんなことって...だって、花道、........』


言いかけてやめる。花道の顔があまりにも優しくて、私の頭を撫でるその手があまりにも柔らかくて、目に溜まった涙がこぼれ落ちてきて、「もういいんだよ」と許してもらえてるような気がして...。


「俺にとってはどうってことない。なまえがいなくなることが一番悲しかった。」


続けて花道は「でも、理由がわかってよかった」と心底安心したように呟いて私を抱きしめた。


『ごめん......花道.........っ、』

「もういいよ。つらかったな、ごめんな。」


しばらく泣き続けた私は花道に体重を預けるような格好で温かさに包まれて落ち着きを取り戻した。ずっと頭を撫で続けてくれたその優しさが心に染みる。


「なまえ...俺やっぱり十年経ったってなまえが好きだよ。」

『花道........』

「会社から出てきたなまえがあまりにも綺麗だったから、想像以上過ぎてビックリした。」


やり直せないかな...と呟く花道に色々な意味を込めてギュッと抱きついた。「おっ...」なんて驚いたような声が聞こえてくる。


『私でいいなら.......お願いします........。』

「......なまえ、ありがとう。」


「それと...」と続けた花道の話を聞こうと顔をあげる。至近距離で目が合った彼は随分と顔が真っ赤で。ずっと寄り掛かっていたからそんなに重たかったのかと離れれば瞬時にまた引き寄せられた。


「離れんな。......ずっとなまえがくっついてたから、その......。」


ごもごもと口籠る彼は顔が真っ赤で体は随分と熱を帯びていた。


『暑かった?ごめん...なんか飲み物を...』

「そ、そうじゃなくって...。」


「俺本当に彼女とかいなかったから...」と続けた花道の言いたいことがようやくわかり、それに気付いた瞬間全身がものすごく熱くなる。顔を真っ赤にして私の腕を掴んで離さない彼の瞳の奥がゆらゆらと揺れていて、それは私を求めているのだと、気付いてしまった。


『........ベッド、行こう........?』

「え.....い、いいの?」


コクリと頷けば軽々持ち上げられて運ばれる。すっかり「男」の顔つきになった花道に狂ったように求められて気がつけば辺りは真っ暗になっていた。














君以外は考えられない


(...ところで誰から聞いたの?あの会社にいること)
(なんかわかんねーけどジイから連絡きた)
(...牧さん?!)
(ジイにはホケツくんから連絡が来たらしい)
(...藤真さん?!なんで...南さんと仲良いのかな?)






南、藤真は色々なことを乗り換えて連絡を取り合う仲になったという設定でした(笑)南→藤真→牧→花道。伝言ゲームみたいに「大阪の○○企業にいるらしい」的な。いい仕事したよ、カリメロ〜〜!!


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Modoru Susumu
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