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とある日、信長は午前中のみの練習を終えると急いで電車へと乗り込んだ。向かった先は東京都八王子市。


「信松院...ここだ.....」


信忠の婚約者であった「松姫」の墓がある信松院へとやって来たのだった。理由は無い。とにかく行かなきゃと心がそう叫んだのだ。


道中見つけた花屋にて、紫の花を一輪買った信長は、丁寧にラッピングされた一輪の花を松姫の墓の前でそっと差し出した。


「わかんない...けど...この花を贈りたいと思ったんです...」


どうしてこんなにも胸が苦しくなるのだろうか。信長は一輪の花をそっと置いた。深々と一礼する。


「俺なんかが会いに来たって...嬉しく無いっすよね...」


松姫が会いたいのは織田信忠。後にも先にも信忠以外いないんだから。信長はそう思いながらも墓の前から動けずにいた。


「松姫さん......信忠さんには会えましたか......?」


あなたの恋した男性は、とても勇敢で男らしくてかっこいい人なんですね...。信長は心の中でそう語りかける。無論返事など来ないのだが。


「突然来てごめんなさい。俺、帰りますね......」


手を合わせ顔の前に持ってくる。目を閉じて松姫にお礼を言う。「また来ます」なんて心の中で松姫に語りかけたところで隣に人の気配を感じた。


『私が好きな花、よく知ってましたね。』

「へっ.......?」


信長の隣には女の子が立っており同じように墓の方を向いている。先ほど信長がお供えした一輪の花を手に取るとその女の子は「そうそう、これです」なんて笑っている。


『でもどうして一輪なんですか?』

「え........あ.......お金なくて...........」


とりあえず正直に口にした信長に女の子は「一輪でも十分綺麗ですね」と笑った。相変わらず前を向いており視線は合わない。


「あの......ここのお寺の方ですか.......?」


「私の好きな花」だなんて、ここのお寺の娘さんか、それともお墓の管理人...?信長は首を傾げながら返答を待った。


『いいえ。このお墓、私のなんです。』

「えっ......お墓の管理人さん......?」

『違います。正確には私の先祖が眠ってるんです。』


そう言って女の子はお墓に向かって笑いかけた。


『松姫...信忠様が会いに来てくださいましたよ。』

「えっ......あ、いや、俺は、あのっ........」


どういうつもりなんだと、信長は焦った。自分は信忠ではないし、純愛を貫いた松姫の前でそんな冗談は本気で笑えないと両手をブンブン振った。


『どうしてこの花を持ってきてくれたんですか?』

「えっ...あ、なんとなく...この花を松姫さんに贈りたいと思ったから...」

『どうして松姫に会いに?』

「......それは......」


言葉に詰まった信長の方をゆっくりと見る女の子。その視線に気付き信長もまた女の子を見る。視線が交わった瞬間、信長はその場に凍りついた。


「えっ..........」


名前はもちろんどこの誰なのかもわからない。顔も今初めて見たし知り合いに似てるとかそういうことでもない。それなのに、会ったことあるような、見たことあるような、それでいて「やっと会えた」ような......


そんな不思議な感覚に包まれた信長は自分の意図に反して目には涙が溜まっていく。


『会いに来てくれたんでしょう?会いたいと思ったから。』


信長は頷いた。「会いたい」と思ったからきたんだ。行かなきゃと心が叫んだから。苦しいくらいに叫んだから。


「俺......あなたを知ってる気がして......」


探していたような気がする。この女の子を。会いたいと思っていた相手のような気がする。信長の目からは涙が溢れた。


『私はここに眠る松姫の生まれ変わりです。』

「生まれ変わり...?」

『何度も生まれ変わってるはずなのに、松姫の記憶が残っているのです。』


女の子は言った。松姫として生きた50年余りの記憶が事細かく頭の中に残っているのだと。


『きっと出会えてないからです。未だに信忠様と...』


涙が止まらない信長と向き合った女の子。


『私はみょうじなまえです。あなたは......』

「清田...信長......」

『信長...お父様と同じ名前になったのですね。』


ニコッと笑ったなまえの顔を見て信長はふと思う。もしかして自分は昔、この子と同じ時代を生きていたのではないかと。


「俺......自分の先祖がわからないんだけど......」

『わからないのに会いに来てくれたの...?』

「俺.......俺、織田信忠だった.......?」


わからない、ただの自惚かもしれない、それでも信長はそう思った。もしかしたら自分はずっとずっと松姫を思いながら過ごしてきた武将だったのではないかと。


『はい。信長さんは織田信忠でしたよ。』

「なんで、わかるんですか...?」

『この花は松姫が信忠様にいただいた花です。花菖蒲といって花言葉は「あなたを信じる」...当時は大きな花束になって送られてきたんですよ。』


なまえは言った。墓を構えてもう何百年。松姫に会いに墓参りに来てくれる人は多い。けれどもその中で誰一人として「花菖蒲」を持ってきた人はいなかったと。


『記憶の有無は関係ない。この花を松姫に供えたいと思った時点であなたはきっと信忠様です。』


そうとなれば辻褄が合うような気がした。松姫や信忠を知れば知るほど胸が苦しくなったり、まるで自分のことのように涙が溢れる理由。信忠が自分なんだとしたら...


「......随分と、待たせましたね...なまえさん.......」


心のどこかから溢れた言葉になまえは目を見開いて固まった。


『遅いです、信長さんの馬鹿......』


まるで信長の涙が移ったみたいに、今度はなまえがボロボロと涙を溢した。手にはしっかりと信長がプレゼントした花菖蒲が握られている。













やっと会えましたね、と松姫が笑ってくれた気がした




あとがき

3万ヒットのお礼に歴史物を書こうとしたんですがその前夜祭(?)としてノブちゃんで歴史物をひとつ書こうと思いました。「信長」という名前が強いので、織田家の話を選ぶのは戸惑いがあったのですが、一途に想い続ける話はノブちゃんに似合うなと思って採用しました!まさかの織田信長の息子役がノブちゃんっていうややこしい設定...(笑)最後は織田家についてノブちゃんが日本史の勉強を通して学んでますが、結局のところ織田信忠はノブちゃんという認識であってます。ごちゃごちゃしちゃってごめんなさい( ; ; )織田信長や織田信忠は現実通り「織田」の名前で存在したんだけど、今の牧さんやノブちゃんの先祖だったっていう設定です!@からCまでは「織田信長」を「牧紳一」と書いているしややこしいですよね(笑)

一応設定ですが、「信長が牧さん」「信忠がノブちゃん」「武田信玄が宗ちゃん」「徳川家康が仙道くん」「親王が藤真くん」となっております。。深い意味はありません。ノブちゃんの周りにいる人物を決めようと思ったら必然的に海南メンバーが思いついたっていうだけです(^o^)

ごちゃごちゃっとした話で申し訳なかったのですが、3万のお礼はもっとごちゃごちゃする予定です...先に謝っておきます( ; ; )申し訳ないです( ; ; )基本的には言い伝えられている話通りに書きましたが、自分なりに付け加えた部分もかなりあるので、フィクションだと思ってくださって結構です。歴史にあまり詳しくないのでもっともっと勉強したいと思ってます。知識が足りなさすぎる......

お付き合い頂きありがとうございました!!







Modoru Susumu
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