06






『それでね、体育の時に......』


楽しそうな声がする。すぐ隣から聞こえているはずなのに、とても遠く感じるのはなんでだろうか。


なまえの声なのに、なまえが俺に向けて話しているはずなのに、俺の大好きな君の声なのに。


それなのに、とっても悲しくて、切なくて、苦しくて.......


『...信長?聞いてる?』

「えっ......?」


あぁ、悪い...だなんて謝る俺になまえは困ったような顔をする。あぁもう、こんな空気耐えらんねぇよ...。こんなんならいっそのこと.......


『最近全然話聞いてくれないね、信長......』

「......なんでヘアゴム変えたんだ?」

『......ごめん。』


ごめんだけじゃわかんねーっての......。

勇気を出して聞いた俺の質問になまえは黙り込む。出てきたのは「ごめん」のみでその後も会話は続かない。


やっぱりこの子はあのヘアゴムを無くしたんだ。どこかで無くした。俺は見た。神さんのベッドの上に落ちていた。あれはきっと...なまえのもので.......


「...なんで失くすかな...。」

『...ごめん、信長...。』


呆れたように出た俺の言葉になまえは珍しく肩をびくつかせて再び「ごめん」を連呼する。


「...どこで失くしたんだよ?」

『...わかんない。絶対見つける。』


もう...なんかわかんねーや...。これといった確信もないのに信じてしまう自分自身も、「ごめん」しか言わないなまえのその言葉の意味も...


「...マジでムカツク。」






















「なまえちゃん、今帰り?」

『あ、はい...。神さんは今から部活ですか?』


そうだよ、と答えた神さんの声が耳に届き俺は何故だか走ってその場を離れた。なまえと会話を断ってからどのくらいの月日が流れたのだろう。それすらももうわからない。部活に向かう途中、渡り廊下の前でなまえとなまえに声をかける神さんを目撃した。


あれ以来、俺とは一切会話を交わさないくせに、なまえはやたらと神さんと一緒にいるようだった。よく二人が並んで歩いているのを見るし、あぁやっぱり二人は俺が思っている以上の仲だったんだな、なんて悲しくなったりもする。


ヘアゴムは戻らないままだけど。


どうして神さんはあのヘアゴムをなまえに返さないのだろう。......あ、そうか。俺があげたものだから没収したってことか。そりゃ前付き合ってた男からもらった物なんて、身につけていて欲しくないよな。そうだ、そうだよ.......


「...清田?どうした?」

「えっ......あ、牧さん.......こんにちは........」

「何かあったのか?そんなに泣きそうな顔して...」


俺、泣きそうだったのか......。心配してくれる大先輩に「なんでもないです」と笑顔を見せて部室へと急いだ。もういいんだ、自分から解決しないまま手離したのだから。


二人がどうなろうと、あのヘアゴムがどこにあろうと...俺にはもう関係ない...。

















「なまえー、あったー?」

『ない.....やっぱり無いかぁ.....』


いつかの昼休みだった。部室に忘れ物を取りに行くため体育館の前を通った時。なまえとその友達が下を向いては歩き回って「ない」だの「どこ」だの騒いでいる。その後ろ姿に何故だか反応して影に隠れてしまう俺は一体何をしたいのか...。


「違うところなんじゃ無い?こんなに何日も探してるのに......」

『でも体育の時に外したの。いつも汗臭くなるのが嫌で違うゴムにかえてるから.....。』

「それは知ってるけど........。」


何やら話し込んでなまえは体育で着替える為の更衣室の前をウロウロと歩いている。ゴム......引っかかる単語。


「大体何でそのこと清田くんに話さないの?体育の時に失くしたって言えばいのに。」

『信じてもらえないよきっと...言い訳だって思われるの嫌なの。自力で探す。』

「そんなこと言ったって、仲直り出来てないままなんでしょ?」

『そりゃプレゼントしたもの失くされたら誰でも怒るよ...。』


だから言い訳せずに、ちゃんと自分で探すの。


なまえはそう言って再び地面を這うようにして辺りを探し始めた。


.......どういうことだよ、馬鹿野郎め.......。


なまえはこの場所で失くしたってこと?でもじゃあなんで神さんの家に.....もしかして、神さんが拾って持って帰ったってこと?え、でもなんで...?神さんがどうしてなまえのヘアゴムを持って帰って.........


もしや、俺が家に行った時にわざとあそこに置いておいたとか.....?!でも何のため?


俺をはめる為?驚かす為?神さんが?あの神さんが俺を試したってこと?反応見て楽しんだってこと?


わざと家に呼んだとか......?まさか..........まさかそんなわけないよな。だって神さんだもん。いつも優しくて頼りになる神さんだもん。そんなわけないよ、でも........


「みょうじ?何してるんだ?」

『あ、高頭先生......あの、ここらへんにヘアゴム落ちてなかったですかね?落としたの結構前なんですけど...』

「落とし物を預かってる場所で聞いてみたらどうだ?職員室の奥の方のだな.......」


...どうしよう、何が何だかわかんねーよ...怖い、本当は悪くない人を勘違いで責めてしまうのが怖い...。悪く思い込んでしまう自分が怖い。違うかもしれないのに...


神さんがとっても怖い。

















誰か俺を助けて


(なまえが失くすからだよ、大馬鹿者......)









Modoru Susumu
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