02






親衛隊にイライラした流川くんの「人間らしさ」を知ってなんだか安心したのも束の間。相変わらず流川くんは1日の大半を寝て過ごし英語の授業すらもうとうとしている回数が増えた。


「なまえさんこのキツネ野郎と隣の席なんすかぁ?!」
『わっ、桜木くん!声大きいよ、しーっ!』


休み時間にどこからともなく現れた桜木くんが大きな声で騒ぐから慌てて口を閉じさせる。流川くんはというとやっぱりぐっすりと眠っていて騒がしいせいで起こしてしまうことはなかった。ふぅ、よかった...。


「なまえさんこんな奴無視しておくのが一番すからね、優しいなまえさんのことっすから、勉強を教えたりだなんて...!」
『してないよ...。桜木くんこそ今回のテスト平気なの?』


範囲結構広いよね、と告げれば桜木くんは途端に顔が青ざめて「時間があれば教えてください...」と肩を落としている。去年もよく共に勉強したし絶対赤点は逃れよう!と頑張ったのを思い出す。


「それはそうと、今日見に来てくださいよ、部活!」
『え...あ、うん、そういえば最近見に行ってなかったね...。』
「そうっすよ!洋平にも声かけたんで一緒に来てくださいね!」


桜木くんはそう言うと約束ですよ〜と言いながら教室を出て行った。隣を見やれば流川くんはまだ爆睡している。











「なまえちゃん行こうぜ〜」
「おーい洋平!来たぞー!」


放課後、久しぶりに見た高宮くんたちが迎えに来てくれて一緒に体育館へと向かう。道中やっぱり桜木くんの話になりみんなして桜木くんのテストの点数や友達関係を心配していた。いや、君たちもテストは頑張ろうよ......。


「花道の奴、クラスで一人だからって相当寂しがってるよな〜」
「そうそう。みんなで練習見に来いだなんて誘ってくるあたりがな〜」


そっか。桜木くん寂しいのかぁ。わざわざ誘ってくれるからなんとなく不思議には思っていたけれど、、そういうことだったんだなぁ、とやっぱりみんなは誰よりも桜木くんのこと理解してるんだなぁ...なんて微笑ましくなる。


「あら、なまえちゃーん!久しぶりー!」


体育館の外へと閉め出された親衛隊をよそに私達は彩子さんにこっそり入れてもらえた。晴子ちゃんが両手を上げてフリフリと振ってくる。


『晴子ちゃん、久しぶり〜!』
「元気だった〜?テスト終わったら遊びに行こうね!」


行こうね〜と返せば相変わらず仲良いな、なんて水戸くんが笑っている。どれもこれも、私がお節介にも桜木くんに勉強を教え始めたのがきっかけだから、自分の世話焼き具合もたまには役に立つなぁ、なんて嬉しくなったりする。晴子ちゃん今日も可愛いなぁ。ほんっと桜木くんが惚れる理由がわかるよ。


そんなこんなで楽しく練習を見守っているとついつい目で追ってしまう流川くんの存在。圧倒的なバスケセンスと高い能力でこの中の誰よりも輝いている。そんなに見たらダメだと視線を逸らしても、数分後にはやっぱり彼に目が行く自分がいる。うわぁ...かっこいいなぁ、やっぱりすごい...。晴子ちゃんがあれだけ騒ぐのもわかる気がするなぁ、なんて思いながら晴子ちゃんを見やればやっぱり流川くんに釘付けで、それを見た桜木くんはやるせない顔でヤキモキしていた。うわぁ、苦労するなぁ.....。


「そういやテスト勉やってる?俺不安しかねーんだけど。」
『大楠くん何苦手だっけ?私で良ければ教えよっか?』
「マジ?!なまえちゃん本当女神だわ。」


桜木軍団みんなが揃いも揃ってテストが不安だと言い始めたので私たちは練習見学を中断し2年6組へと向かった。この中では成績が一番マシな水戸くんですら「意味わかんねー」を連呼する始末。順番に見ていけば高宮くんは食べかすがノートに散らばってるし大楠くんは理解の仕方が少し独特だし野間くんは寝てるし...。


「あ、これがこうってこと?」
『そうそう!さすが水戸くん、天才〜!』
「ハハッ、俺は花道みたいに簡単に乗せられねーぜ?」
『もうなんでもいいのよ、わかってくれさえすれば。』


半ば諦め気味にそう呟けば通りがかった学年副主任の先生にみんな揃って呼ばれてしまった。どうやら4人揃ってサボった補習のプリントを渡すついでにお説教も待っているみたい。


「えぇ〜また今度じゃだめなの〜せっかくなまえちゃんが勉強を...」
『とか言って大楠くん集中してなかったでしょ。』
「そんなことないよ〜なまえちゃん...あぁ〜もう〜!」
「行くぞ大楠、なまえちゃんちょっと待っててね。」


水戸くんにそう言われて手を振れば超余裕そうな水戸くんが手を振り返してくれた。静かになった教室でひとりテスト範囲の要点だけを大雑把にまとめていたら教室の後方に誰かが入ってくる気配がした。


『.......?』


ゆっくりと振り向けばそこには私と目が合った瞬間ほんの少しだけ歩みの速度を落とした流川くんがいて、いつかの時みたいに「あ」と漏らした私にペコッと頭を下げて元のスピードで近づいて来る。何を隠そう流川くんは私の隣の席なので近付くのは当然なのに、その端正な顔立ちと距離が縮まるにつれてやたらとドキドキしてしまう自分がいた。いやでもこれは女なら当然の反応だと思う。うん。


『...ご、ごめんね、勉強してたから...。』


別に流川くんの机は使っていなかったけど(恐れ多くて使えなかったけど)、少しだけ列が乱れた机の並びに謝罪すれば「別に」なんて声が聞こえてきた。


「...バスケ好きなのか」
『えっ...?!』
「さっき、いたろ」


...これは...さっき体育館で練習を見ていた私に気付いてたってことで、あってるんだよね...?いや待ってそりゃ嫌でも気付くよ、晴子ちゃんと大きな声で話してたし、水戸くんの隣にいたわけだからさ...。何を自意識過剰っぽいこと思ってんだか私は......


『あ...うん、そう。バスケも好きだし、桜木くんを見に、ね...。』
「...どあほうと仲良いの、」
「仲は良い方だと思う。去年同じクラスでよく一緒に勉強したりしてたから...。」


私がそう答えれば流川くんは「ふーん」とだけ呟いて机の中を漁り始めた。手に取ったのはやっぱり英語の教科書で、もはや英語が好きなのかそれとも超絶苦手でやらなきゃと反射的に授業も真剣に聞いてるのか分からなくなってしまう。でも流川くんにとって英語は何かあるんだなぁ、とぼんやりその姿を眺めていた。


「...英語は、」
『...英語?英語の範囲なら...ーー』


そう言ってテスト範囲の紙を開こうとすれば流川くんは私の机に手を置いて開いていたノートを盗み見てくる。ちょうど開いてたのは英語だった。頭上に流川くんの気配を感じて、とてもじゃないが上を向けない。どこに頭があって、どこに視線を向けてるのか...椅子に座って下を向いたままの私にはわかりかねる。


『あ...あの、......?』
「英語、俺にも ーー」


流川くんが何かを言いかけた瞬間、いきなり前の扉から大きな声が聞こえて何故だか私は反射的に席を立った。その時頭上にあった流川くんとギリギリの距離でなんとかぶつからずに済んで、相当近い距離に流川くんの頭があったのだと脳内がショートしそうになった。


「なまえさん!!流川なんかと何してるんすか!途中でいなくなったと思ったら!!」
『さ、桜木くん...!あ、あの、ご、ごめんね、水戸くん達が勉強やろって言い出したから...!』


私の必死の言い訳も虚しく桜木くんは目をうるうるさせて怒っている。そんなことしているうちに流川くんは舌打ちして教室を出て行った。


「あれー?花道練習終わったのか?一緒に勉強していこーぜ!」
「お前ら〜〜!!なんで途中でいなくなんだよ!!」
「いいだろ別に。ほら、勉強すんぞ赤点野郎め!」















流川くんは英語を頑張りたいみたいです


(その理由は今はまだわかりません)






Modoru Susumu
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