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「また同じクラスだ、よろしくな。」
『こちらこそ。水戸くんと同じで心強いよ。』


朝2年6組の教室に入れば笑顔で迎えてくれる水戸くんがいて心底安心した。去年は水戸くんと桜木くんと同じクラスでよく3人でつるんでいたなぁってもう懐かしく感じてしまう。ここに桜木くんの名前はなくて、彼だけ隣のクラスとなってしまった。


「花道の奴相当怒ってたぜ。俺となまえちゃんが同じなのになんで!ってさ。」
『そりゃ無理ないよー...晴子ちゃんは?違う?』
「残念ながら。大楠も高宮もチュウも。」
『エェーッ?!そんなのアリなの?』


あまりにもかわいそうだよ〜と嘆けば水戸くんは半笑いで「そうだなー」と答えた。いや、またおちょくってるでしょその顔。


桜木花道くんとは隣の席になった時、お節介にも私がテスト前にテスト範囲や勉強を教えていたことで仲良くなり次第に水戸くんとも繋がれたわけだ。従兄弟がバスケットをしているから元々私もバスケは好きだし、赤点が多いと練習に出られないなんて聞いたら助ける以外他ない。


「ま、アイツしょっちゅう来るだろうけど相手してやろーよ。」
『そうだね、またご飯も一緒に食べようね!』
「そういやなまえちゃん、昨日のテレビの......」


水戸くんがそう言った時、私の隣の席に誰かが座る気配がして反射的に後ろを振り向いてしまう。完全に水戸くんの方に向けていた体はそのままに首だけで音の主を確認すれば、その人は長い手をポケットに突っ込み、長い脚を存分に伸ばして椅子に座っていた。


『.........あっ、.........』


一年の頃たびたび桜木くんの応援に足を運んだ際、何度も見かけたその人だ。近くで見たことなんてなくていつも遠くから見る程度だからあまりの顔の整い具合と尋常じゃないオーラ、手足の長さに驚いて、ついでに隣の席なの?!と出てしまった私の「あ」はしっかり彼にも届いていた。


何も言わずにジロっとこちらを見てくる。なんて言っていいのかなんてわからなくてとりあえず...と口を開く。


『...あの、みょうじなまえです。よろしく......。』


私のぎこちない挨拶に一瞬間が空いた後、彼はほんの少しだけペコッと頭を下げた。あ、無視されなかった...。


「......流川楓」


聞こえるか聞こえないか微妙な声でそう言った隣の席の流川くんは再び前を向くと今度は目を閉じて一瞬にして船を漕ぎ始めた。うわ...寝太郎とは聞いていたけど寝るの早すぎ...。


冷静になって考えれば、図々しいことに自己紹介なんかしてしまった私はそのうち親衛隊に刺されるのかもしれない。それでも流川くんが挨拶を返してくれたことがあまりにも意外で。しかも自分も名前言ったし。知ってるよそんなこと!って言ってやればよかったかな?あれ、それは違うか。


「花道と離れて流川と同じか〜なんか楽しそうだな。」
『そ、そうかな...?』


コクコクと首を揺らす流川くんを見て水戸くんは随分と楽しそうに笑っている。流川くんは意外にも面白いで有名な人なのだろうか。そんなことを考えているうちに先生が来てついに新しい一年が始まりを告げた。










随分と長いこと席替えの予定はないらしくて生徒からはブーイングの嵐だったけど、先生は座席表を作るのが面倒とかで考えを曲げなかった。あっという間にジメジメとした季節になり私は最近気付いたことがある。


流川くんは基本どんな時も寝ているのに、英語の授業だけは起きている。そして眠そうな顔して必死に先生の話を聞いている。なんだか執念すら感じられるそれに私は毎回不思議でならなかった。なんで英語だけ...?


「この問題を...みょうじ。」


席を立って答えを告げれば「正解」と返ってくる。昔から勉強は得意な方だ。むしろそれ以外に取り柄がなくてやる以外に選択肢がなかった。


休み時間になれば流川くんは何かがプツンと切れたように机に伏せた。英語が終われば後は睡眠らしい。それでも廊下にはいつものように女子生徒が集まり「流川くーん」なんて呼ばれている。寝ていますよ〜なんて返したら「おまえ誰だよ!」とか言われるんだろうなぁ、なんてどうでもいいことを考えていたら隣から小さく舌打ちが聞こえた。


「......るせーな、」


それは紛れもない流川くんの本音だった。

もう一つ彼について気付いたことがある。それはあまりにも人気すぎてかわいそうになってくるレベルだということだ。どこへ行くにも後ろに女子がたまり、トイレの前でも待ち伏せされ、どこへ行かずとも廊下で名前を呼ばれる日々。少しでも動きを見せればそれが何であろうと「キャーッ!」と聞こえてくる。さすがにそれではしんどいだろう。人気者は大変なんだとつくづく彼に同情した。


舌打ちを聞いてしまったのがいけなかったのか、なぜか流川くんは廊下とは反対方向の私の方へと顔を向けたまま伏せている。ジロッと見られて目が合い私は途端に「何も聞いてません」と腕をブンブンと振った。しかしそれは流川くんの左手に掴まれたことによって阻止されてしまう。


『えっ......、』
「寝てるってことにして」


あ、そうか。ここで私が流川くんと話していたら親衛隊の子たちは「あれ?起きてるの?」なんて思い始めるかもしれない。それに私の命だって...考えただけでも寒気がしてコクリと頷けば私の腕は解放されて流川くんはため息をついた。


「......うるせーから寝れねー」
『...大変だね、人気者は...。』


流川くんの方を見ずに次の授業の支度をしているフリをしながらそう告げれば流川くんは「ん」とだけ言った。


それがなんだか嬉しくてまた無視されなかった...と思いながら彼の方へチラッと視線をやれば既に流川くんは夢の中でうるさくて寝れなかった彼はどこへ行ったの、と笑いがこみ上げてくる。しかしこちらを向いたまま寝られるとは思っていなくてそんな綺麗な寝顔を晒されたままなんて心臓に悪い...と私は私で苦労がたえないのである。








流川くんはとっても正直ものです


(そして寝顔すら綺麗です)












Modoru Susumu
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