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「なまえ」
『......流川くん、』
「帰ろう」


...来た。流川くんが迎えに来てくれた。


『あ、うん...!』


隣に並ぶと彼は口を開く。


「...どこか行くか」


........嘘。嬉しい........


『...行く!!!』
「よし」








あっという間に寒くなり高校生活最後の冬を迎えた。流川くんは国体を終えて部活を引退し家庭教師やたまに部活に参加したりと相変わらず忙しい日々を送っているようだった。


そんな中迎えた12月24日。忙しい彼の為、そしてあまりイベントに興味を示さなそうな彼の為にわざわざ約束など取り付けていなかったのにも関わらず、何を思ったのか放課後教室まで迎えに来てくれたのだった。


『どこ行こうかな....どこも混んでるのかなぁ....』


あまりの嬉しさに興奮を隠せなくってついつい独り言が漏れてしまう。流川くんは隣で「んー」なんて言葉を伸ばしながら私の頭をポンポンと撫でてくれた。相変わらずあなたはやることがイケメンだ....。





去年の冬は....水戸くんとのんびり過ごしてたっけなぁ。


『あーどうしようー......とりあえず何か甘いものでも...』
「ん、何食うの」
『ケーキとか...?あ、いやでも...買い物とかも...あー....』
「なまえ」


うっ.....。欲を出しすぎて呆れられたかと恐る恐る視線をあげれば流川くんはなんだか優しげな顔で「時間はあるから」と言ってくれたのだ。


「やりてーこと全部やるぞ」
『......う、うん!!』













『これ、流川くんの分ね。後これも.....!』
「サンキュ」
『いやいや...お金出してくれたのほとんど流川くんだから...』


私の方がありがとうだよ、と言えば流川くんは満足そうにフッと笑って私が渡したお揃いで買ったマグカップとキーホルダーを受け取ってくれた。ふらふらと立ち寄った買い物に嫌な顔せず付き合ってくれて今だって甘いもの食べたさに寄ったカフェでも支払いを済ませて一緒にケーキを食べてくれる。意外にも甘いもの好きらしくってそんな可愛いところにも一々魅力を感じて胸が高鳴ってしまう。


流川くんは本当に非の打ちどころがなくって...。


「...うまい」
『ひとくちちょうだい!』


私がそう言えば当たり前と言った雰囲気で自分のフォークで一口すくって「ん」と差し出してくる。遠慮なくパクッといただけば途端に甘さが広がってなんとも言えない幸せな感情がこみ上げてきた。


『んー....美味しい.......最高........。』


私の分もと無言でケーキをすくい流川くんの前に差し出せば一瞬間が空いてからゆっくり近づいてパクッと食べてくれた。


なんだか...やばいなこれ...。流川くんに餌付けしてるみたいでなんだかもう.........しかも素直に食べてくれるんだね........可愛いの塊...........。


「...うまい」
『(しっかりと感想まで....!)』








これから何しようかーなんて店を出て歩けば甘ったるい口の中にいつものアレを放り込みたくなるのだけれど。ポケットを漁っても何も出てこなくてそういえば切らしてたなぁ...と少しだけ落ち込めば隣からスッと伸びてきた腕。


『えっ...?』
「これだろ」


それは流川くんの綺麗な手で私の前までパッと開かれた掌には私がいつもよく食べるリンゴの飴ちゃんが乗っていたのだ。


『....あ!これ...!』
「なまえ好きだろこれ」
『うん...これもらっていいの?』
「当たり前」


ありがとう...!と遠慮なく貰えば流川くんもポケットからひとつ取り出して口に運んでいた。なぜ持ち合わせていたのか問えばなんといつかの学園祭から常にポケットに入れていると言うではないか。


「うまかったしいつも食ってたい味」
『流川くんにそこまで言わせるなんて...飴ちゃんすごいなぁ...』


ふむふむと感心していれば流川くんは隣でクスッと笑っていた。


「なまえ」
『ん?』
「...俺ん家、来るか」


さてこれから何しようかなんて張り切っていた時に不意にそんなことを言われて。彼の目を見ればそれが何を意味しているのかわかってしまうけれど私はなんの躊躇いもなく頷いた。もう何もかも覚悟は出来ている。


時間が経つにつれて、今後のことを考えてどうこうなるよりも今この時間を楽しむべきなんだと、流川くんの隣にいつまでいられるかを嘆き悲しむよりも、今この瞬間を精一杯生きるべきだと気持ちを切り替えて過ごすことが出来ていたのだ。その中で迎えた今日は最高に幸せで夢みたいな時間であった。


「...行こう」


忘れられない思い出にしたい。


『うん...』


もう二度とこの日を共に過ごすことがなかったとしても。



























「明日卒業式だなんて早いわよね。」
『まぁ...。出来ることなら永遠に高校生が良かったな...。』


時間は言うこと聞いてくれないわよねーなんてしみじみ話す母の隣で私もウンウンと頷いていた。





時の流れは恐ろしく早く日付が変われば明日は卒業式であった。進路も決まり地元の大学に進学が決まった私は日に日に忙しさを増す流川くんとなんとか時間を合わせては共に帰り、ごくたまにデートしたりなんかしてそれなりに幸せな日々を送っていたのだった。


卒業式前日、母の買い物に付き合わされていた私は駅前で荷物を持ちながらふらふらと歩いていた。


「色々と大変だったけど流川くんと洋平くんのおかげで無事卒業出来そうね。」
『まぁね.....感謝してもしきれないよ......』


そうよね〜と納得した母の言葉が耳に入った瞬間、私は目を疑うようなものを目の当たりにしたのだった。


「なまえ?どうしたの突然立ち止まって...」




















『..........えっ..........、』


私がいる反対側の道を歩いてくるのはどこからどう見ても流川くんだ。


コートのポケットに手を入れて寒そうにしている。


何か声をかけられるたびに頷いたり返事をしたりして雰囲気はとっても良さそうで.........







隣の女の人....誰........?

すごく綺麗でニコニコ笑顔で彼に話しかける隣の女の人は........














積み重ねてきたものが瞬時に崩れ落ちる音がした


(.......なんなの..........)





Modoru Susumu
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