19







「なまえ」
『あ、流川くんおはよう。』
「うす」


新学期が始まった。長い長い夏休み、彼のおかげでとっても楽しくてそしてワクワクさせられた。でもそれだけじゃない。今年の夏は........今までのどの瞬間よりも輝いていて、熱くて......


どこか寂しくて.......。


『夏休みあっという間だったね。』
「...だな」






結局流川くんの宣言通り、湘北はインターハイ決勝まで残った。結果は準優勝だったのだけれど。私はありがたいことに決勝戦を観戦することができたけれど始まる前からあまりの緊迫感と彼らの凄さに泣いてしまってずっと泣き通しだった。


あんなの無理だ。平常心で見ていられない。


おかげでさらに「流川楓」の名は全国へと知れ渡り、彼の活躍とその後に世間は期待しているようだった。


......アメリカ。


ますます近づくそれにとうとう見て見ぬ振りはできなくなった。あまりにすごくて遠い存在で隣にいるのが怖くなる。私なんかが隣にいていい存在じゃ.......





「なまえ」
『....んっ、あ、どうしたの?』
「何ボーッとしてんだ」


なんでもないよと言おうとしたら「な」が出かけたところでほっぺたをムニッと掴まれてしまった。


『い...いひゃい.....!』


流川くんは少しだけ笑って手を離してくれた。私の教室の前につけば「またな」と言って廊下を歩いていく。その後ろ姿がやっぱり遠い人に思えて泣きたくなった。








流川くんの口から彼の進路や今後について出たことは一度もない。そして私の方から聞いたことも...もちろん一度もなくて...。







「おはよなまえちゃん。」
『おはよー水戸くん!インターハイぶりだね。』
「そうだなー。元気にしてた?」


夏風邪とか引いてなかったかー?なんて笑って聞いてくる水戸くん。全然元気だったよーと答えれば「俺も」なんて返事が来る。


『バイトばっかりしてたんでしょ。』
「あーなんでバレたんだー?おかげで忙しい夏だったぜ。」


まだまだ暑いなーなんて腕を伸ばす水戸くん。なんだか少し日焼けした?色が白いイメージなのにほんのり焼けている感じがした。なにせ今年の夏は異常に暑い。








『うわっ...すごいな.......』


休み時間に移動教室で流川くんのクラスの前を通ればものすごい人だかりで生徒で溢れかえっていた。その場にいるほとんどが女子でやっぱり流川くんを見てキャーキャー騒いでいる。


「テレビより本物の方がいいよね!」
「流川くんに彼女がいようがいまいが一生ファンでいる!」
「今のうちにサインもらっとこうかな.....」


そっか。決勝戦はテレビ放送があったんだ...。元々の人気に拍車をかけるようになった目の前の現実に、流川楓の彼女として生きていく為にと固く誓った決意が簡単に崩れそうになる。サイン....。確かに彼は間違いなく有名になるだろう...。あぁ、もう余計なこと考えたくないのに。
















『家庭教師?』
「あぁ」


放課後、流川くんに練習を見ていくよう言われて残っていた。さっさと着替えて出てきた彼と並んで学校を後にする。自転車をゆっくり押しながら流川くんは「母さんに無理矢理な...」と呟いた。


『そっか...。バスケ部には冬まで残るんだよね?』
「いや、国体まで」
『国体まで.....?』
「そっからは勉強」


だるいけど...なんて疲れたように呟いている。家庭教師をつけられて本格的に勉強をしなきゃいけない環境になったこと、そして国体まではチームに残り選抜には出ないことも教えてくれた。こうやって身の回りのことを話してくれるのは本当に嬉しい。けれどもやっぱりその理由を考え始めると心中穏やかではいられない。


『じゃあテスト前に英語教えなくても平気ってことね。』
「...だめ」
『なんでー!』


手間が省けると思ったのに。と茶化して言えば流川くんは「...む」と呟いた。何それ可愛いが過ぎるよ....


「一緒に勉強やる」
『えぇ〜。そろそろ本気で抜かされそうだもん。』
「抜かすために一緒にやるんだろ」
『卑怯者めー!』


怒っている仕草を見せれば流川くんは自転車片手に私の頭をポンと叩いた。一瞬触れてすぐ離れた彼の大きな掌が私に触れることなんてそのうち無くなる気がして胸が苦しくなった。













どんどん遠くへ行ってしまうんですね


(わかっていたことなのに悲しいな...)





Modoru Susumu
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -