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「練習見に来い」
『.......その前に行かないといけない所があるの。』
「......?」
付き合うならそれそうの覚悟が必要だ。流川くんの彼女だなんて好きだけではやっていけないだろう。
だってそもそも......流川くんの進路は.......。
それは今考えるべきことじゃないかもしれない。だってそんなこと考えてメソメソしていたって何にもならないし流川くんだって嫌な気持ちになるだろう。
放課後私は廊下で待ち伏せしていた。
「.......なまえちゃん。」
流川くんはとっくに部活へと向かった。
『晴子ちゃん、話があるの.......。』
逃げたくはないしこのままにしておきたくもない。しっかり話さなきゃいけないと思った。
『私ね、流川くんと........』
人気のないところで私が口を開けば晴子ちゃんは何も言わずに何度も頷いた。
「わかってるわ。付き合うことになったんだよね?」
恐る恐る顔をあげれば晴子ちゃんは穏やかな顔で私に笑いかけていた。散々流川くんの話を聞いておきながら、頑張れと応援しておきながら、今更こんなことになって許してもらえるとは思っていなかった私は拍子抜けして間抜けな声が出てしまった。
『へっ........あ......う、うん.......。』
「随分前から好き同士だったんだよね。なまえちゃん、私は二人のこと応援するよ!」
あ.........。
少しだけ切ない顔をした晴子ちゃんだけれど私に視線を向けるとニッコリ笑った。「おめでとう」なんて言葉付きだ。
優しいなぁ.....本当に......。
『ごめんね.....なんて言ったらいいかわかんないんだけど......』
「悪いことじゃないわ。流川くんはとっても魅力的だし、流川くんが選んだ相手なら誰だろうと応援する。それに、前は色々と大変だったじゃない?」
だからやっと二人が結ばれて、嬉しいなって気持ちもあるんだ.....!
晴子ちゃんは笑った。私に向かって笑ってくれた。
「なまえちゃん、すごく大変だったよね....。謝らなきゃいけないのは私の方よ....!」
『えっ....何で?!』
「だって、つらい時何もしてあげられなかったもの。」
そうじゃないよ。私が勝手に晴子ちゃんに合わせる顔がないって避けてただけなのに......。
屋上での一件以来、晴子ちゃんはずっと悩んでいたそうだ。私に手を差し伸べたかった、けれども流川くんとのこともあったし、何より私が誰のことも、あの流川くんすら寄せ付けなかったから。
「また仲良くしてくれる?」
『いいの....?』
「もちろんよ!練習も試合も観にきてね!」
『うん!』
「幸せになってね、なまえちゃん....!」
晴子ちゃんが差し出してくれたその手に私も自分の手を重ねた。なんだか自分が叶わなかった分まで私に託しているような気がして大きく頷けば晴子ちゃんはやっぱり笑ってくれた。
「おーなまえちゃんやっと来たーもう始まってるよ!」
『あれっ、大楠くんたち来てたんだね?』
「まぁなー。流川絶好調だぜ〜?」
体育館へと向かえば既に練習を見学していた桜木軍団4人。大楠くんがニヤニヤしながら肘で突いてくる。
『な、なに....?』
「流川の彼女さんよ〜〜彼氏絶好調じゃんか〜〜!」
『なにその絡み......』
私がゲッとした顔でそう言えば大楠くんは余計にニヤニヤを増して「憎いね〜このこの〜」なんて叩いてくる。しかし途端に真顔に戻り隣の水戸くんへと話しかけていた。
「つーかいいのかよ洋平、なまえちゃんが流川の.....痛ッ!!」
「何がだよ、ふざけんな」
水戸くんは大楠くんがまだ言いかけなのにも関わらず結構強めにお腹にパンチしていた。しかも怒っている。うわぁ....水戸くんがキレると怖すぎるんだよなぁ.....
「あーもう.....洋平マジで.......!」
「お前が余計なこと言うからだろーが。」
私の名前が出てきたことに疑問を感じて二人をジッと見ていれば「なんでもないよ」と水戸くんが笑ってくれた。本当にギャップの塊というか...水戸くんという人は魅力たっぷりだなぁ、と思ってしまう。
流川くんはみんなが言っていた通り鬼のような絶好調ぶりで下級生たちはそんな流川くんが怖く近寄りがたいようでみんな揃って流川くんに話しかけず距離を取っていた。確かに....あんな燃えてて無口な先輩怖いよなぁ....。
今年、流川くんや桜木くんにとっては最後の夏。行けたとしたら2年ぶりのインターハイ。もうすぐ彼らの全てをかけた熱い夏が始まろうとしている。
『.....頑張れ、流川くん......。』
彼女として迎えるはじめての夏。
どんなに願っても時間は止まってくれない(....なまえ送る)
(あ、ありがとう流川くん...!)