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朝学校へ着き教室に入ると同時に私は誰かに腕を引かれて今歩いた廊下へと逆戻り。
『えっ........流川くん?!』
何が何だかわからないけれどとりあえず前を見ればその後ろ姿はどこからどう見ても流川くんで。
いやいやいや!どういうことなんだ?!そりゃ昨日も本屋さんで........色々と........思い出すだけでドキドキしてくるけど............
「みょうじ」
『えっ......流川くんここは......。』
ズカズカと歩いてきた流川くんは教室の前でピタッと止まった。ここは.....流川くんのクラス?
「......諦めらんねーんだよ」
流川くんは聞こえるか聞こえないかの微妙な声でそう言うと閉まっている教室の扉を勢いよく開けた。私の腕を引っ張りズカズカと中に入れば固まって話している女子の元へと一直線に向かう。
「流川くん....?」
女子たちが彼の姿にキャーキャー騒ぎ出すと同時にその顔を見て思い出す。あ、この女の子たち...私をトイレに呼び出したグループの子たちだ.....。
強張る私をよそに流川くんは無表情で女の子たちの前に立つと私を彼女たちの前に出した。
「次手出したら命ねーから」
.......それは、一体どういう意味なの........。
「流川くん....何言ってるの?」
「俺はみょうじが好きだ」
女の子たちが意味がわからないといった顔をする中、そんなとんでもない言葉を口にする流川くん。無表情で彼女たちを見下ろしている。
「指一本触れるな」
教室の中は静まり返っていて流川くんのその言葉も、女の子たちの「えっ」という声も全てがよく響く。周りの生徒たちが途端に静かになったところを見るとみんなして流川くんに注目しているのだろう。
流川くんが何を考えているのか.....怖い。こんなことしてまた自分が狙われてしまうのも、彼の足を引っ張るのも、本当に怖い。
でもまた聞けた「好きだ」の言葉に途端に胸が熱くなりじわじわ目が潤むのも事実だ...。
どうしよう..........やっぱり私は.........この人が........、
「悪かった」
『.....何が?』
「今まで全部」
1時間目はサボることに決めた。だって流川くんが手を離してくれないし、彼を説得する気力も残っていない。
天気の良い屋上はとても気持ちがいい。私の心なんて無視して穏やかなポカポカ陽気だ。
「好きだ」
『....もう、わかったよ....』
「みょうじは」
私は.......私は........もう.......
『平和に過ごしたかったよ、流川くん...』
「...む」
『私のことなんて忘れてくれてよかったのに...』
私がそう言うと流川くんは再び「む」と言って私の顔を自分の方へと向けた。体育座りをした私は顔だけ右を向きかなり苦しい体勢だ。それなのに流川くんは穏やかな顔で近付いてくる。
「好きだって言ってんだろ」
『.....怒らないでよ、怒りたいのは私の方...っ、』
まだ話途中なのに。
それなのに唇を奪われて急に息が苦しくなった。
もうやめてほしい.....。
朝流川くんがみんなの前で私のことが好きなんだと宣言したことは瞬く間に全校生徒に知れ渡り「あの人だ」とか「流川くんの彼女」だとかまだ昼休みなのにもうそんなことで指差されている。
「で?好きだって言われたわけだ?」
『もうやめて.....怖いよこんな注目されるの....』
「そりゃ流川だから仕方ねーよ、で、どうすんの?」
どうすんのって言われても....水戸くん....。
『わかんない..........』
「.....好きなんじゃねーの?」
水戸くんの方を見ればなぜだかとっても真剣な顔で。わかんないなんかではぐらかしてはいけないような気になってくる.....もう、本当にこの人は........。
『好き......だよ......。』
「.......だったら、もういいんじゃねーの?」
『いいって.....?』
「今度こそ大丈夫なんじゃない?流川も真剣みたいだし。」
まっ、俺がついてるから大丈夫だよ。なんて頭を撫でてくれる水戸くん。
『水戸くん......、』
「またいつだって助けに行ってやるし、なんならそうなる前に防いでやる。流川に泣かされようもんならアイツ相手でも容赦しねーよ俺は。」
『ありがとう.......水戸くん........。』
あぁ.....もう、本当に心強いなぁこの人は......。
「ほら、行ってくれば。」
『う、うん.......ありがとう........!』
「なーんで背中押しちゃうかなー俺は.....。」
私は走った。流川くんがいるだろう屋上へ。
『流川くん!!』
「.....みょうじ?」
『私も、流川くんが好きだよ!』
今度こそ、流川くんの隣で幸せになりたい。だから、自分に素直になる。どんなことでも乗り越える。
「みょうじ」
流川くんが好きだ。
「付き合おう」
流川くんの温もりに涙が止まりませんでした(もう泣かせない)