流川くんのカノジョ





『昨日のドラマ見た?』
「見たわよ〜あんな終わり方ありなのって感じだったわ。」
『そうだよね〜予告も少ししかなかったし気になる...』
「でもあれは来週何か波乱があると思いますよ!」


湘北高校バスケ部の2年マネージャー、彩子となまえと共に笑い合うのは1年の晴子だ。練習が終わり片付けの途中、話題のドラマについて話しが弾み、疲れ切った部員をよそに楽しげな笑い声が響いた。


そんな様子を微笑ましく、そしてニヤニヤしながら見守るのが桜木花道と宮城リョータだ。モップ片手に晴子に釘付けの桜木と鬼キャプテンぶりはどこへいったのか彩子を見つめニヤニヤが止まらない宮城。


「でもあの告白のシーンはときめいたなぁ....」
「ほんとそうよね、私もドキッとしちゃったわ。」
『そう〜?なんかパッとしない台詞だったじゃん!』


晴子と彩子が胸に手を当ててドラマを回想するもののなまえだけはあっけらかんと口をへの字にして首を振った。


「なまえは普段が普段だからね.....、」
「そ、そーよう、なまえさんは....羨ましいわ.....。」


彩子と晴子はそう言いながらモップをかける流川へと視線を向けた。宮城と桜木が手を止めにやけているのに我関せずといった流川は無言で掃除中だった。


晴子はそんな流川を見てやっぱり心がときめくものの自分なんかが手の届く相手じゃないんだと自分自身に言い聞かせる。なぜなら流川は......


「流川の彼女じゃそんじょそこらのドラマの台詞くらいじゃときめかないでしょうね。」
『何それ〜どういう意味なの〜!』


なまえは彩子と共に富ヶ丘中出身で中学時代から共にマネージャーをしてきた大親友。そして何を隠そう、中学時代からずっと流川と付き合っていたのだった。入学したての頃それに気付いた晴子はなまえ相手に嫉妬もあったがなまえについて知れば知るほど諦めの気持ちが強くなっていったのだ。


背が高くスラッとした見た目だけじゃない。なまえは中身もよく気さくで優しくて口調も柔らかく穏やかに見えるが人のことをよく見ており頭の切れる先輩であった。


『流川ぁあ〜なんか悪く言われた気がするよ〜。』
「...なまえセンパイ片付けしろ」
『あ、そうだった........』


モップをかけながらたまたま近くにいた流川にそう言えばハァとため息つきで帰ってきた返事。晴子はそんなやりとりですら羨ましくてもはや羨望の眼差しでなまえを見つめた。


流川くんと普通に会話するだけでも.....すごいことなのに......なまえさんは彼女なんだもん........。








さっさと学ランへ着替えた桜木と宮城が晴子と彩子を送る為4人で体育館を後にする。続々と他の部員たちも着替えて帰路につく中、流川だけは片付けが終わった綺麗なフロアに残っていた。片手にはボール。


そんな様子をいつものことだと気にもせず、制服に着替えたなまえは体育館の隅で鞄から宿題のプリントを取り出した。下敷きを取り出し床にプリントを置いて問題を解き始める。次第に流川のバッシュの音やドリブルの音が響き始めたものの彼女にとってはいいBGMに過ぎない。


音の主である流川も宿題をやるなまえも互いに一言も発さずに時間だけが進んでいく。ある程度自主練をした流川はふぅと息を吐いてなまえに駆け寄った。


「センパイ、帰る」
『おーお疲れ様ー!戸締りしておくから着替えておいで』
「一緒にやる」


なまえの気遣いにも流川は一言で返し二人は協力して体育館の戸締りをする。なまえは所定の場所に鍵を返しに行き流川が着替えている部室へと向かった。誰もいないため遠慮なく入れば彼は上半身裸だった。


『わっお....相変わらずいい体だね〜.....』
「見慣れてんだろ」
『まぁそうだけど....なんか寒くなってきたなぁ...』


なまえがそう言い両手を口の前に持ってきてハーと息を吐く仕草をする。手を温めていたのだろうけれど流川の視線はその手元へといったまま止まった。彼女のブレザーの下から出たセーターに釘付けであった。


セーター.....着てる......


昨日まではなかったそれに流川は気付きなんとも言えない衝動に駆られた。俗に言う萌え袖は流川にも通用するようだ。


ズカズカとなまえに向かって歩みを進めると不思議そうに見てくる彼女を腕の中に閉じ込めた。


『わ......ちょ...楓さーん.....?風邪ひきますよー....?』
「なまえあったけーから平気」
『どうしたの、急に.....一応ここ部室だよ.....?』


アンタが可愛いからだろと言いかけて流川は口を閉じた。なんだか悔しい。自分ばかりいつもなまえにドキドキさせられているような気がする。なまえといえばひとつ先輩だからか日頃から落ち着いており流川の意図をいつだって汲み取ってくれる。何を言っても受け止めてくれるし自分に合わせてくれる。


「.....なまえ」
『...ねぇ本当に...どうしたの...?』
「...俺ばっかり...ムカツク、」


流川はそう言うとなまえの答えを待たずに彼女の唇を奪った。荒く乱暴なそれになまえは理由はわからずとも流川の考えていることはわかり、その場ではとりあえず流され流川に付き合った。


一通り乱暴に唇を奪い終えるとなまえは口を開く。


『楓さん...、苦しいです......』
「...悪い」
『私だって毎日ドキドキしてるよ、楓さんいつだってかっこいいもん。』


言わずともやっぱり彼女は意図を汲み取ってくれる。


「なまえ、」
『たまに不安にもなる。私が彼女でいいのかって。それくらい楓さんはかっこいいし私も毎日ときめいてるんだよ。』


そう言ったなまえの瞳の奥は少しだけ揺れていた。それを流川は見逃さない。普段落ち着きがあり何をしても動じない広い心を持ったなまえがポツリと漏らした本心。見たことのない動揺。彼女が口にしたことは紛れもなく本音であり、少しばかり不安を与えてしまっていたのだと流川は瞬時に判断し、こんな風にモヤモヤしたり、モテる彼女のことばかり考えて柄にもなく自信を無くしたりしていたのは自分だけじゃなかったのだと悟ったのだ。


そうなればもう、途端になまえが可愛く思えて仕方がない。年上だからとしっかりしているように見えて実は自分と同じように嫉妬したり不安になったりと彼女も同じで、それを普段は隠していると思うとたまらなく愛おしく感じてしまい途端に再び抱きしめた。


『楓さっ.....、』
「...シてぇ」
『楓さん...ここ部室だよ。そんな破廉恥な.....』


流川は時計を確認した。自主練をした分遅くなり夜8時をさす。今から急いで帰ればなまえの家に8時20分。家に連絡をいれて勉強を教わってる体にして9時半までには帰宅するとして.........、


「いくぞ」


十分できる。そう判断した流川はすぐさま制服を着て片付けを始めた。何を考えているのかなんてお見通しのなまえはあまりの着替えの速さに少しだけため息が出たのだった。













楓さんは私の部屋に着いた途端着ているものを全て投げ捨てました


(楓さん....ちょっと、.......)
(早く脱げ)
(乱暴はやめてよお......)






Modoru Susumu
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