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「卒業おめでとう!!」
藤真先生の声が響いて、男泣きの部員たちの泣き声が大きくなっていく。
「ここまでよく頑張ったな。三年間、俺についてきてくれてありがとう。」
先生は笑った。
その笑顔が今でも少しだけ憎たらしく見えてしまう。流川くんをあんな目に遭わせた張本人。やってることは正解かもしれないけど素直に受け止められない自分がいる。
あれから流川くんは試合に復帰した。表向きには怪我と公表していたけれど完全復帰した試合でひとりで50点とって観客と私の心を奪った。夏に行われたワールドカップでは怪我で欠場の沢北栄治に代わって日本代表のエースとして臨みなかなかの好成績を残した。バスケはまたさらに人気スポーツになり四天王4人揃ってCMやテレビに度々登場しており、会えなくとも流川くんを見る機会が日に日に増えていった。
あれから連絡はない。彼が出した決断もまだ知らない。でも私は宮城さんが言ってた通り彼をひとりにはしない。流川くんが何かを考えているのならそれがまとまるまで待つ。たとえ決別を選んだとしても全てを受け入れる覚悟はある。
「みょうじ、ありがとう。」
『藤真先生、お世話になりました!』
「世話になったのは俺の方かもしんねーな。みょうじと過ごした時間全部が俺の宝物だ。」
そんなことないのに。
その笑顔が、今は嫌いになった。
『また遊びに来ますね。』
それでも、藤真先生は私に寄り添ってくれた。
「いつでも来い。仕事頑張れよ。」
結局これといった夢を持てなかった私は藤真先生に再三大学進学を勧められたのに就職する道を選んだ。だってお金もったいないし、夢もないのに勉強する時間があるのなら自分でお金稼いで早く自立したかった。社会人として世間に認められたかった。その全てに彼が関係していることはわかってる。もうそこは変えられない。
進学校だから翔陽は就職活動は支援してくれない。働くのなら自分で探さなきゃいけなくて、でも藤真先生はあらゆる伝手を使って私の就職先を探してくれた。それもなかなかの大手企業で、どうやら高校の時の友達が働いている会社らしい。長谷川さんといったかな.....。
『はい。先生、お元気で。』
「.......みょうじ、」
『はい?』
私が立ち止まると藤真先生の綺麗な顔が歪んだ。
「代わりになろうなんて最初から思ってなかったけど、やっぱりなれなかった。」
『え?』
「引き裂くような真似して悪かったと思ってる。」
それが何を意味しているのかすぐにわかり今更何を言い出すんだと思ってしまった。
『先生は悪いことしてないじゃないですか。』
「いや、.......好きだからこそ、協力してやればよかったのかもしれない。」
『好き?』
「俺.............、」
藤真先生はそう言いかけて「ハァ」とため息をついた。
「........やっぱりいいや。」
不思議に思って先生を見るけれど今度は綺麗な顔で笑っている。
「もう高校生じゃねーな。就職するし立派な大人だ。」
『......はい。』
「みょうじが幸せになれるように祈っておくとするよ。じゃ、気をつけて帰れよ。」
...変なの。
夜7時に焼肉に集合だ〜とバスケ部のキャプテンに言われて一旦家へと戻る。5時からは友達と最後のプリクラだしその前はクラス会にも顔を出さなきゃ。制服のままだけど髪型をもう少し気合い入れて......
『ただいま!』
卒業式を終えて先に帰宅していたお母さんにそう告げると玄関先に置かれた大きな靴が目に入る。革靴......お父さんの?にしては大きいな.....?
お客様かな〜なんてゆっくりリビングを開ければ........。
「おかえり」
『...........え.........?』
.......ついに頭がおかしくなったんだと思った。
あ、そっか。高校生じゃなくなってこれからはもう大人だーとか期待しちゃって幻覚が見え始めたんだな。だってうちのリビングに流川くんがいるわけ.........しかもスーツなんか着て......
「卒業おめでとう」
『嘘......だよね?』
「嘘じゃねーよ」
『なんで、いるのっ?!』
いやいや、普通にリビングに正座してお母さんと向かい合って座ってるし。ズズズってお茶飲んでるし。いやいや、なにこれ.....?!
「なまえ、流川くんが挨拶に来てくれたのよ。」
『挨拶.......えっ、何処か行っちゃうの?!』
私の必死の言葉に流川くんは笑った。
「んなわけねーだろ」
『よかった.....でも挨拶って.......。』
「なまえとお付き合いしたいんですって。」
.........え?
「卒業したろ。もう高校生じゃねーから」
『...うそ...それで...うちに来た...の?』
「あんなことになったから...黙って付き合えねーだろ」
あんなことになった........確かにそうだ.......。
『流川くん、本当にごめんね。私、』
3か月も謹慎させて...と謝りたくて土下座の勢いになった私に流川くんは「は?」と声を上げた。えっ、怖いんだけど...突然の「は?」はやめて...。
「ごめんって何?まさか藤真と付き合うとか...」
『え?先生が、何?』
「お前こそ何?」
『えっ....?』
ちょっと待って?「何?」が多すぎて意味わかんないし。
「俺お前と付き合いたくてここに来た」
『う、うん。そんな改めて言われると照れるんだけど...。』
「で?」
『で?っていうのは.....』
「返事」
『....うちに挨拶にまで来ておいて今そこ確認するの?』
なんだかもう順番が分かんなくなっている。お母さんはクスクス笑ってるし。いや、なにこれ。
「返事」
『私も、付き合いたいです....。』
「......そ。」
えぇ....なにその素っ気無い返事は。
「で、なんのごめんだよさっきの」
『あ...だから、大変だったでしょ...謹慎したり生活制限されたり...本当に謝りたくて...ごめんって言っても許されるわけじゃないけど...』
「なまえのせいじゃねーだろ。俺はお前より大人だから仕方ねーことだったんだよ」
......あ。呼び捨てにされた......。
「....とりあえず卒業おめでとう」
『あ、ありがとう.....。』
「流川くん、なまえのこと、頼みますね。」
「ありがとうございます」
お母さんは笑った。「よかったわね」と。いつのまにそんなことになってたんだろう。どんな話をしたんだろう。気になるけど......でも........!
『流川くん!!』
「....ビックリした....」
もう、なんでもいいや。だってこの人が目の前にいる。私の目の前で「なんだ急に」なんて文句言ってる。もうそれだけで、なんでもいい!
『来てくれてありがとう....!待ってた!』
「ありがと、待たせて悪かったな」
『全然平気だった。流川くんたくさん活躍してくれたから嬉しかったよ!』
「そうじゃねーと迎えに来れねーだろ。かっこ悪くて」
あぁもう...大好きだ....。とってもとっても...大好きだ......!!
お母さんに許可をとって、制服を脱いで着替えて、ハメ外してばれないようにすることだけ約束して流川くんと外に出た。車を走らせてきてくれたのは海だった。
『うわぁ〜.....海だ.......!』
「広いよな、気持ちいい」
『全然終わったんだ.....何もかも、もう.......。』
全てが終わった。
みんなのバッシュの音も毎日着たジャージも藤真先生の笛の音も怒った声もみんなの笑い声も全部がもう二度と戻らない。そう思うと少しだけ悲ししいけど......でも、
おかげで手に入った幸せがたくさんある。
「なまえ」
『ん?』
「俺と付き合ってください」
改めて言うけど、なんて流川くんは続けた。
「散々待たせてごめん。つらい思いもさせたし我慢もさせた。たくさん泣かせた自覚もある。でももうそんなことさせない」
流川くんは私を抱きしめてくれた。フワッと包まれる香りに心が安心する。
「俺の全てをかけてなまえを幸せにする」
『ありがと........っ、』
「信じて待っててくれてありがとう」
ゆっくりと唇が重なった。
これからの全てを彼に捧げよう。今まで出来なかった分をゆっくり取り戻していこう。
『流川くん、これからよろしくお願いします...!』
「こちらこそよろしく、なまえ」
あなたとわたしが作るラブストーリー(あぁー!友達との集まり忘れてた!!)
(んなもんいーだろ)
(よくないよー!みんなもう会えなくなるのに...)
(...俺のこと見捨てんな)
(これから毎日一緒にいられるんだからいいでしょ)
(...ドライめ)
あとがき。。。
二十代後半の流川くんって絶対ヤバいよな、色気。と思ったのがきっかけで思いついた設定でした( ˙-˙ )大人になったみんなと年下のヒロインっていう設定がどうしても書きたくてこれからも何作品か書いてしまいそうです。。笑
流川くんはアメリカに行ったりなんなりで揉まれて歳を取るたびに少し口数が多くなってたらいいなって思います。それでも好きになったら相手が誰だろうと好きだ!みたいな感じは変わってないままでいてほしいし基本的には高校生のままでいてほしいなぁ〜。
藤真先生はとりあえず友情出演?のわりには出過ぎたな〜〜。相変わらず思った通りに書けません。
本編で仲良くしてる流川くんとヒロインの場面が少なすぎたので何個か番外編を書いて幸せなその後をお見せしたいと思います。。少ない完結作品の中でもかなりお気に入りの作品となりました。あはは。ここまで読んでいただきありがとうございました(^o^)v
そして流川くんの誕生日、本当におめでとう!!