06






『すご....こんなとこで試合すんの....。』


ありがたいことにその日はいつもより早く練習が終わった。午後6時からの試合に間に合うように会場へと足を運ぶ。初めて踏み入れるそこはなんだかとっても広く感じて、とんでもない緊張感がある。


『.....すごい前の席なんだけど.....。』


もらったチケットは特別席なのか選手にほど近い距離の二列目。いや...臨場感すごいし...。


あれから色々考えて、何かお礼をしたいと思った私は流川くんが履いてもおかしくないようなスポーツブランドのスニーカーを買った。結構高かったと言っても3万円程度でもらった鞄に比べたらちっともなんだけど...。いつ渡せばいいのかわからないけどとりあえず紙袋片手に席へと座る。おかしくないように髪も緩く巻いたしメイクもそれなりに、1番お気に入りのワンピースも着てきた。少しでもいいから大人っぽく見えたらいいな、なんて思いながら。流川くん試合だから私になんて気付かないだろうけど。











『仙道彰.....』


相手のチームにひとりだけオーラも何もかも違う選手がいる。仙道彰。相変わらずテレビで見るみたいに髪の毛はツンツンで少しだけ横が駆り上がってる。うわぁ...なんかもう、立ってるだけで...。



流川くんは当たり前だけどユニフォーム姿に左腕に黒いリストバンドをつけてる。




うっわぁ... かっこいい... 。



試合は序盤少しだけ流川くんのチームがリードを許して後半に入った。なんだかもう、瞬きするのがもったいないくらい目が離せない。仙道彰は流川くんの言ってた通り「天才」という言葉がまさにピッタリでこのことを言ってたんだなぁ、なんて納得してしまう。


なんか...掴みどころがないというか...。
サラッとすごいプレーしてみせる仙道彰。
これはもう「センス」「才能」「天才」という言葉以外見当たらないなぁ。もちろん努力だってしているんだろうけれど、天性の才能の塊なんだろうなぁ...。


『頑張って...流川くん....っ、』










結局後半に逆転して試合は流川くんのチームが勝った。


けれども、流川くんが言っていた「試合は勝っても仙道には勝てない」の意味がよくわかったような気がして、なんとも言えない気持ちになってしまった。これかぁ...これが流川くんがアメリカを捨ててでも追いかけてきたものかぁ....。


試合前も試合後も、流川くんと目が合うことは一度もなく、そのままお客さんが帰り出す時間となった。この紙袋...どうしようかなぁ...。試合観にきただけなのに、どうして渡せると思ったのか...ここんとこの私は現実をしっかり見れなくなっている。



またいつか、次会えた時にでも...。



そう思って席を立った瞬間、聞き慣れた声に名前を呼ばれた。


「...みょうじ?」


途端に嫌な予感がして背筋が凍りかけたけどとりあえず振り向いた。


『.......っ、藤真先生......。』
「よ。みょうじも観に来てたんだ?さっきぶりだな。」


藤真先生も観に来てたんだ......もしかして少しだけ早く練習が終わったのもこの為?なんて苦笑いしながら考えてたら藤真先生は何かに気付いたような顔をした。


「...なんでこんな席に座ってんだ?」
『えっ?........』
「ここ特別席だよな?」


手に入んねーはずだけど.....なんて不思議そうに見てくる藤真先生。しまった....!まさかそんなこと言われると思ってなくて、流川くんに直接もらったなんて言えるわけもなくて............


『あー、えーっと.....』


とにかくこの場を脱出せねば...と必死に考えていたら後ろから「あれ?なまえちゃん?」なんて声が聞こえてきた。いやいや!誰!でもありがとう!助け舟!


「やっぱり〜。お、藤真....!」
「お前も観に来てたのかよ」
『....宮城さん、三井さん!』


誰かと思えば流川くんの先輩たちじゃないですか〜!と目の前の藤真先生を置いておいて後ろの二人に手を振れば宮城さんは笑って振り返してくれた。


「なまえちゃん久しぶりだね〜、元気だった?」
『あ、はい!宮城さんも観に来てたんですね。』
「そりゃね。仙道と流川の対決なんて俺ら高校の頃からやってたからさ。見届けてあげないと。」


やっぱりそうなんだ...とか思ってたら後ろから藤真先生が「宮城に三井...」と呟いていた。


「みょうじ、二人と知り合いなのか?」
『あ....まぁ、はい......。』
「そうか...。久しぶり」


藤真先生は二人にそう挨拶すると「また明日」と私に言って去って行った。


『わぁ.....助かったぁ.....。』
「何々?どうしたの?」
『あ...この座席で試合観てたの藤真先生にバレちゃって...なんでこんな席で観てたんだって言われて...。』


私がポツリポツリとそう話せば宮城さんは「なるほど〜」とすぐに察してくれた。ありがとう...宮城さん...。


「藤真、先生なんだもんね。流川と仲良いことバレたらちょっとまずいもんなぁ...。」
「なんでまずいんだよ?別に恋愛は自由だろうが。」
「何言ってんだよ三井サンほんっと頭悪いなー。なまえちゃんまだ高校生っすよ?しかも相手は流川なんだから。」


そういうのは内密にしておかないと。って宮城さん本当に最高です。ありがとうございます。


「ま、でもこんないい席のチケット渡すなんて流川もやるなぁ、しかも結構大胆だ.....。」
『どういう意味ですか?』
「いやいやこっちの話。」


ひとりで帰れる?なんて聞かれて「大丈夫ですよ!」と答えたら「それじゃあまたね」と手を振ってくれた。いやぁ助かりましたよ...ありがとう....。







会場を出るか出ないかのところで「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉が急に開いてビックリしていたら突然出てきた男に腕を引っ張られ中へと連れて行かれた。


....は?!


『や、ちょっと、.....!!』


ズカズカとしばらく歩いた後、パッと手を離して私の方を向いた男。


『..........えっ.......?!』
「キミ、流川の彼女?」
















『せ、仙道彰......!!』


私の言葉に「知っててくれてて嬉しいなぁ」なんてのんびり笑ってる。いやいや!全人類が知ってるでしょ!!


じゃなくて!!


『違いますよ!彼女なんかじゃないです!』
「へぇ〜?あの席に座ってたし流川ばっか見てたしてっきり招待された彼女かと。」
『違いますって...!!』


ヘラッと笑いながらそう言われて慌てて手をブンブン振れば「ふぅ〜ん」なんて楽しそうに笑ってる。いやいやいや!意味わかんないし!!


『あ、あの、.....帰ります......。』
「えぇ〜?やっとアイツにも彼女が出来たんだと思ったのに...。見た感じ随分若いね?.......アレ?キミ、藤真さんとこの生徒じゃない....?」


......なっ、なぜバレた?!?!


仙道彰はジッと至近距離で私を見つめる。



『あ、あの........。』
「俺たまに藤真さんと飲み行くんだけどさ。見せてもらった集合写真に写ってた子にそっくりだね?」
『......や〜...違うと思いますよ.....?』
「そうかな〜?バスケ部のマネージャーで、確か名前が...みょうじなまえちゃん...だったかな?」


なんで...名前まで........!!!!

仙道彰は目の前でニコニコしながら「本当にそっくり」なんて言ってくる。いや、怖い.....。この人怖い....ていうか、この界隈怖いんだけど...みんな繋がってるじゃん......。


流川くんも藤真先生も永野先生も宮城さんも三井さんも仙道彰もみんなお互いのこと知ってるじゃん.......。









「みょうじ!」


そんな時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてハッとそちらを見ればジャージに着替えた流川くんがこっちに走ってきている。


あ、流川くん.....!!!!


なんだか安心して到着を待っていれば仙道彰は「やっぱりね」と笑った。


「やっぱりみょうじなまえちゃんだ。藤真さんの生徒の。」
『あっ........。』


途端にしまった...と思いもしかして何かチクられるんじゃ...!と焦っていたら流川くんが間に入ってくれて一気に仙道彰が見えなくなった。うわ、デカい......


「何してんだテメェ」
「別に〜?流川の彼女が可愛いなぁって声かけてただけだよ?」
「この野郎....!」


流川くんは今にも掴みかかりそうな勢いなので慌てて腕にしがみつけばその場にピタッと止まった。


「何もされてねぇか?」
『大丈夫だよ!少し、話しただけ.....。』
「何を」


流川くんはギロッと仙道彰を睨んだ。


「流川の可愛い彼女が藤真さんとこの生徒だなぁ〜と思って話してただけだよ。ね〜なまえちゃん?」


仙道彰はそう言うと「じゃあまたね」なんて去って行った。


『バ...バレちゃった....』
「別に大丈夫だ、なんとかする」


流川くんはそう言うと私の肩をポンッと叩いた。安心しろって意味かなぁ、なんて少しだけ嬉しくなる。

でも流川くん...やっぱり元気ないなぁ...。仙道彰にまた負けちゃったって思ってるのかな...。


『あ...あのね、藤真先生も観に来てて...それで、なんでそんないい席に座ってんだって聞かれちゃって...』


流川くんと一緒に言い訳考えておけばよかったよ...と必死に話題を考えて呟いたら「そうだな」と笑ってくれた。まぁ笑うところじゃないけどね、ピンチだったし。


『宮城さんと三井さんも来てたよ。久しぶり〜って声かけてくれた。』
「...そういや今度メシ...センパイたちがみょうじと話したいって言ってた」


私が「行きたい!」と頷けば流川くんは「連絡する」と頭を撫でてくれた。


.....やっぱり、負けたこと、気にしてるのかな.....。


『...あ、そうだ。これ!』


そういえば、せっかくこんなところで会えたんだからと紙袋を渡せば流川くんは「なに」と言いながら受け取ってくれた。


『この間の鞄のお礼.....。』
「んなもんいらねーよ」
『違うの!!私の...ほんの気持ちというか...流川くんに似合いそうと思って買ったから.......。』


だから.....と言葉を繋げれば流川くんは「サンキュ」と言ってまた頭を撫でてくれた。あぁ、よかった。受け取ってもらえた......。


『本当にありがとう...高かったよね...?』
「全然。いくらでも買ってやる」
『そんな.........じゃ...じゃあ、私帰るね...!』
「送るか?」
『ううん、平気。お疲れ様...!』
「迎え呼べよ」


わかった!と返事をして手を振れば流川くんは「またな」と言ってくれた。


...またがあるんだ...。


それが嬉しくて何故だか泣きたくなった。







『流川くん!』
「なに」
『かっこよかった......1番!』


私の言葉に流川くんは一瞬真顔になった後、ほんの少しだけフッと笑った。


「みょうじ」
『何?』
「観に来てくれてありがと」


そう言って流川くんは私に背を向けて歩いて行った。

「ありがと」の4文字が永遠と頭の中でリピートされた。













好きだと思わずにいられませんでした


(.....ガキのくせに......1番って.....)



最後の一言でドキッとさせられた流川くん。やられた...とか思ってて欲しいなぁ〜〜!!










Modoru Susumu
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