05






流川楓に電話しなきゃ.....とその晩私はベッドの上で何時間も格闘した。そして意を決してかけたその電話は2コール目で「はい」と無愛想な声が出て、『もしも...』辺りで「あ、みょうじ。さっさと寝ろ」と切られてしまった。


........いやいや、私の時間を返せ.......。












自分から電話をかける用事もなくて、特に何もないままテスト本番3日目となった。テスト期間に入ったばっかりの時に会ってから、もうすぐ10日。テレビのニュースで流川くんを見るたびに「うわぁ...」と変な気持ちになっていた。


明日でテスト最終日。部活も始まる。今日が最後。部活のない放課後......


昼休みに歯を磨きにトイレへと行った私の制服のポケットの中に入ったiPhoneが光る。学校に行ってる時間に親から連絡が来るなんてことは滅多にないし...。誰だろう、と手に取ると画面に表示された名前を見て思わず声が出てしまった。


『...ひぃっ.......?!』


流川くんから電話.......。


慌ててトイレを出て誰もいないだろうところまで行くと口元に手を当てて極力小さい声で電話を取った。


『も、もしもし...。』
「おー...何その声。ちっさ」
『だって!学校だから!何の用なの?!』


私が最大限の声量でそう言えば「あー悪いな」なんて全然悪気のない謝罪が聞こえてきた。いやいや、もっと悪そうにしろ。


「テストは」
『明日まで』
「今日は」
『今日まで部活無し』
「この間の場所に16時......いや、違う」


そんなこと言われてドキッと胸が高まった瞬間「いや、違う」があまりにも声が低くて一気に現実に引き戻された。いやいや、違うってなに.....。


「翔陽の裏門の脇道わかるだろ」
『えっと......あ、はい。わかるけど.......』
「そこに16時。あそこ誰も通んねーから」


わあぁ!やっぱりお誘いだったー!なんてどこか喜ぶ自分もいるけれど、「なんでそんな細かい道知ってるんだ?」なんて冷静な自分もいる。


『翔陽来たことあるの?あんな細い脇道知ってるなんて...』
「お前拾うのにどこがいいか探したんだよ」
『えっ.......?!』
「じゃ、遅れんなよ」





....ピロンと音が鳴って電話は終了した。


お前拾うのにどこがいいか探した....?
それってさ...流川くんがひとりで車運転してさ...私と待ち合わせするのに最適な場所を探してさ...翔陽の近くまで来てくれてさ...ここなら拾えるって思ったってことだよね....?!


なにそれなにそれ.....。


どうしてもドキドキが止まらなくって放課後まで魂が抜けたような感覚でテストに励んだ。いやぁ...こんなの初めてでどうしたらいいかわからないよ.......。心が落ち着かなくてフワッフワしてる感覚......。









「よ。後ろ乗れ」


流川くんは約束通り16時に来てくれた。誰も通らない裏門の脇道に車を停めて私を拾ってくれる。乗り込めば今日もサングラスをかけた流川くんが「お疲れ」と言ってくれた。黒いフードのついたトレーナーに黒いスキニー 。少し派手目のスニーカー。サングラス。...いやいや、いつにも増してイケメンか...。


「勉強できんの」
『まぁ...勉強は得意な方だよ。』
「へぇ...偉いな、マネージャーも大変なのに。」


ほ、褒められたー!

うわ、無理。なんて思いながら隣に置いてある服を見れば今日は少しだけ動きやすそうな服装で。何も言わずに着替え始めれば着替え終わった私を見て流川くんは「似合う」と言ってくれた。


なんか今日...やけに優しくない...?










「いけ、スリー」
『...あ〜〜っ!しまった...!』


少しだけ横にずれたボールがリングにガコンッと跳ね返って床に落ちた。流川くんは「ヘタクソ」なんて笑いながら拾いに行ってくれる。いやはや...やっぱり全身黒コーデが鬼のように似合うな流川楓...。相変わらず香水じゃない香りなのにいい匂いするし....大人の男の魅力って感じする...。


「よし、医務室」
『えぇ...揉むと痛い...やだぁ...。』
「文句言うな」


急にくるっと振り返った流川くんがムギュッと私の頬っぺたを掴み、両頬を真ん中に向かって摘まれた。う〜〜っ!何するんだ.......


「...ガキんちょ」
『ガキんちょじゃないよ〜!』


必死になって言葉を出すけどふにゃふにゃした喋りしか出来なくて流川くんはクスクス笑ってた。いやぁもうやめて......。






「ちょっと寝ろ、腰揉むから」
『えぇ......』
「早くしろ」
『は、はい!』


なんだかこの人に命令口調で言われると「やばいやらなきゃ!」って気になるんだよなぁ。どんなに理不尽なことであっても...。不思議だ...。そりゃ決まってるか、怖いもんな。うん、とっても怖い。無愛想。


「我慢しろよ」
『......痛いよ......』


医務室のベッドにうつ伏せになって流川くんが腰を揉んでくれる。だんだん痛みが気持ち良さに変わって眠たくなってくるのはもう仕方ない。でも前回みたいに突然意識を手放したりしないぞ!と気合いを入れて目を見開いてたら流川くんは笑ってた。そこ笑うとこじゃないし。


「大学とか行くの」
『大学......まぁ、行くとは思うけど.......。』
「行きてーとこあんの」
『今のとこはないけど.....。』


ふぅん、なんて興味あるんだかないんだかわからない返事が返ってきた。


『流川くんは、高校卒業したらすぐアメリカ行ったの?』
「あぁ」
『えっと今何歳だっけ....永野先生が28でもう三十路〜とか騒いでたから...二つ下で26歳?』
「まだ25」


俺誕生日1月、と言われてそうだ!この人の誕生日お正月だ〜!と思い出したわけだ。そうそう、よくテレビで見てるし色々な番組で「スターは生まれた時から1が好きなんだなぁ」とか言われてるもん。高校の時も今も背番号は11だしね。


「18から24までアメリカにいた」
『どうして日本に戻ってこようと思ったの?』


何気なく聞いたことだったけどなかなか返事が返ってこなくてまずいこと聞いたのかも!と勝手に話を変えようと新しい質問を考えていたら「お前ならわかるだろ」と言われた。


「仙道、知ってんだろ」
『あ、うん。仙道彰?』
「俺、いまだに勝ったことがねーんだ」


その言ってる意味がわからなくって、わかるだろと言われたのに「ごめん私わかんない」とか思いながら必死に考えていたら流川くんは静かに笑った。


「高校ん時も試合では勝っても仙道には負けてた」
『.........仙道彰、そんなにすごいの.......?』
「あぁ。アメリカでも試合には勝ってもやっぱ勝った気がしねーんだよ」


アイツ天才なんだよ、なんて流川くんは少しだけ羨ましそうに言った。流川くんが羨ましがるくらい、すごんだ......仙道彰......。


『もしかして、仙道が日本に戻ったから流川くんも...?』
「そう。引退しちまう前に絶対勝つ」


なんと.......。アメリカでも順調だった流川くんをそこまでさせる仙道彰って何者なんだ......。いやはや、恐ろしいよ......。


「っし、だいぶ良くなった。右片足で立ってみろ」


.....やだ.....。
さすが流川くん...私が相当バランスが悪くて片足立ちが大の苦手なことよくわかってる....。


両手を真横に広げて右足だけでバランスを....と片足になった瞬間、やっぱりバランスがとれなくってフラフラと横にずれてしまう。うわっ、やば....と思った時、流川くんが瞬時に腕を支えてくれた。


『わっ......ありがと......、』
「バランス悪いな...大丈夫か」


流川くん、背高いな...手も大きいし、指長くて綺麗だし、私も女子では背高い方なのに、並ぶと流川くんの肩くらいだし...いい匂いするし......


かっこいいし.....。






「みょうじ?」
『うっ、わっ......!!』


支えられながらも一応まだ片足で立ってたのに、ヒョコッといきなり顔を覗かれて。突然綺麗な顔でニュッと現れたからビックリしてバランスが崩れた私は流川くんが支えてくれてた腕の中へと飛び込む形になってしまった。


ひいっ......や、やばい.......!!


『ご、ごめっ....、』
「いーけど、大丈夫か」


心配そうな顔で覗かれる。うわ、見ないでほしいよ...!絶対顔真っ赤だし変だし....!!


「お前熱でもあんの」
『な、ないよ!ないない!もう一回スリー打ちたい!』
「...じゃ戻るか」


不思議そうな顔する流川くんを置いて私はフロアへと戻った。やけに心臓がうるさい。もうやめて...。お願い、わかってるから.....!!












「リハビリ。バランスやれよ」


次会うまでに片足で立てるようになってこいとか言われて私の頭は「また次があるのか!」とそこにしか向かなかった。いやいや...毎回これは心臓が持たないぞ...。


「テスト明日まで?頑張れよ」
『わかったぁ.....。』
「夜更かしすんなよ、おやすみ」


家の前に着き「ありがとう、おやすみ」と答えて後部座席から降りた。家の中へ入ろうと背を向けた時、流川くんが車から降りてきた音がして慌てて振り向けば紙袋片手にこちらへ歩いてくる流川くんがいた。


『....どうしたの、』
「やるからには1番獲れよ」


テスト?と聞けばコクッと頷き「負けんの嫌いだから」と言ってきた。そりゃあなたらしいけど私は別に1番とらなくても...なんて思いながらも「わかった」と素直に答えている自分がいた。従順か。


「明日からまた部活も頑張れ」
『うん、』
「風邪ひくなよ」


そう言われて答えようとしたら持っていた紙袋を強引に押し付けられて、とりあえず受け取れば流川くんは何も言わずに車に乗って帰っていった。










『嘘っ......?!』


部屋で開けたその紙袋からは、私が欲しいと思っていたあのブランドのショルダーバッグ、ついでに同じデザインのボストンバッグまで......。いやいや!ついでがボストンバッグっておかしいよ!おかしいってこんなの...!総額いくら?15万くらい?!


『どうしよ....これ、もらっていいのかな....。』


別に何も言ってなかったから...プレゼント?なのかもよくわからない...。私誕生日も過ぎたし...欲しいものがあれば買ってくれるの?これも「我儘言えよガキ俺が叶えてやる」シリーズのひとつ?!うそ.....


そしてもうひとつ、紙袋には封筒も入っていて。









『.....チケットだ.....!しかも!仙道彰のチームとの...!!』


もはや手に入ることすら困難だと言われている流川くんが所属するチームの公式試合のチケット。しかも仙道彰のチームとの......。


『観に来いってこと、だよね?.......』

あぁ、神様.....いいのでしょうか.........。
私、もう元へは戻れないところまで、来てしまったようです....。あんな有名人相手に、こんな想いを抱えてもいいのでしょうか.....。















この気持ちを表す最適な表現は

(........あんな人好きになるなんて馬鹿だ私は...)







Modoru Susumu
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