I







「練習試合って言われても、なぁ。」

「こりゃもうなんかの決勝戦だろ…」

「なんかってなんだよ、予選は今からだ。」


ぼうっとフロアを眺める俺をよそに高宮大楠チュウの三人は試合に出るわけでもねぇのに緊張した様子だった。オメェらがそんなんでどうすんだよって本当なら言うべきなんだろうけど、それを言葉にする元気もなければ、確かにコイツらの言う通りやけに緊迫した緊張感があるのも確かだった。


花道がフロアで練習してる。ここ、海南大附属のうちとは比べ物にならないほど広く綺麗な体育館で。


「おいコラ、キツネ!何ぼうっとしてやがる!まだ寝てんのか!」

「うるせー、どあほう。」


海南大附属との練習試合、いつも通りなのは花道と流川くらいか…予選前の練習試合だけあって、やっぱりどことなく流れるピリッとした空気にすっかり俺らものみ込まれちまっている。


「なぁ、んな怖い顔で見んなよ…洋平。」

「…無理だろ、無理だろ…」


同じことを二回呟く以外に脳がねぇのか俺は…と自分に呆れるもそれ以外言葉が出てこない。この練習試合を観に来ようかすら悩んでいた俺だぞ?そりゃ見てしまうに決まってるだろうが。自然と目がいく先はいつもと違い花道ではなく、相手チームのキャプテンだ。すました顔で淡々と練習をこなすその様子に早々自分との差を見せつけられたような気がして仕方がない。


先日見た。私服のなまえちゃんと並んで歩く海南の制服を着たあのキャプテン。仲睦まじそうに笑いながら歩きあれは確実に彼女のマンションの方向だった。どういうことだって、そんなの考えなくたってわかる。なまえちゃんは海南大学でアイツは海南大附属の生徒。全く接点がないわけでもない。付属ってのは怖えな…大学生が普通に敷地内歩いてるってか…?こんだけ広い学校だもんな…そりゃそうか…私立の超金持ちって有名らしいしな…


「…あれ、洋平…」

「ん?」


乱暴に肩を叩かれそちらを向く。どこか一点を見て俺をバシバシと叩き続ける大楠がいた。なんだよ…と不思議に思いながらそちらに視線を向ければそこには俺らと同じように二階からフロアを見つめるなまえちゃんがいた。


「…は?…マジかよ…」


もうこりゃ確実に黒だ。黒だ…黒…くろ…


応援に来たってか…応援に…


「…っ、」

『……!』


応援くらい来るか、まぁそうだよな…と落胆するも束の間、俺の視線に気付いたのか彼女とバッチリ目が合ってしまった。目を見開いて驚いたような彼女を確認するなり慌てて目を逸らす。久しぶりに見た…と心臓がバクバクするも次の瞬間、この場に相応しくない大きな声が耳に入ってきたのだった。


「あれっ、なまえ先生!来てくれたんすか?!」


館内に響くその声に一瞬思考が停止する。時間にして数秒のはずなのにその一瞬が随分と長く感じられて。何かを考え始める前になまえちゃんの優しい声で「信長くん」と声がした。


「コラ、信長。そんな大きい声出したら先生だって驚くだろ。」

「すみません、神さん…来てくれるとは思わなくて、すげぇ嬉しくなっちゃって…」


もはや隠す気ゼロな楽しそうな野猿とそこにスッと入る海南のキャプテン。先生…?と俺の脳がようやく機能し始めた時、なまえちゃんはフロアに向かってニコニコと手を振っていた。野猿やキャプテン以外にも「なまえ先生だ」と呟く部員の多いこと…多いこと…


「なんだ?先生って?大学生だろ?」

「…教育学部なんだよ…」


そして思う、まさか…先生ってのは…


『久しぶりだね、信長くん。元気そうで何より。今日は頑張ってね。』

「はい!もちろんっす!実習終えても会えるとは、感激です!」

『ハハッ、照れるなぁ…』


実習…先生…教育学部…


「教育実習にでも、いったってことか…」


結びつく理由、見つけた共通点。俺が納得している間に「馴れ馴れしいよ、信長」と野猿はキャプテンに怒られていた。


「でも、次の実習は神さんちのとこじゃなくて俺のクラスに来るって言ってたんですよ、ねぇ、なまえ先生!」

『あ、うん…今度は信長くんのクラスの担任の先生が、私の教育係で…あっ、これあんまり言ったらいけなくて…』

「…秘密、守りなよ。先生に迷惑かけるな。」


すみません…神さん…と野猿が謝ったあたりで席を外していた海南の監督が戻ってきた。ほどなくしてピリッとした空気に戻り試合が始まろうとしている。


なまえ先生…話を聞く感じでは、どうもあのキャプテンのクラスで先生をしてた…?次は野猿のところにってことは、また実習があるし、今度は違う学年を受け持つ…


大学の規則や単位はよくわかんねぇけど、教育学部に所属するのなら当然教育実習はあるだろうし、附属に高校や中学、小学校まであるんだとしたらもちろんそこを使うに越したことはないだろう。それでこそ附属…って、そんな感じするもんな…


「…先生ってことは、彼氏じゃねぇんじゃね?」

「…まぁ、まだ確定ってわけじゃねぇけど。」

「でも、生徒に手ぇ出したら、さすがにまずいだろ。」


大楠の言うことはごもっともだ。じゃあなんであの時並んで歩いてた?私服で実習期間以外なら別に構わないのか…?仲良くなった生徒と二人で並んで…家まで…?そんなの、あり?


「…問題はもうそこじゃない。」


じゃあなんだよ?と不思議そうな高宮はやっぱり不満そうだった。コイツは本当に女心はおろか男心すら分かってねぇな…


「あの人がなまえちゃんを好きなのはもう確実だろ。」


もはや問題はそこだ。二人の関係はこの際置いておいて。せっかくの再会の矢先、超強力なライバルが現れたことに変わりはない。俺だってなまえちゃんを好きな男として、それくらいはわかる。あの目は確実に好きな女を見つめる目だ。何が先生だ、ムカツク…


「まぁ確かに…洋平にも手強そうなライバルではあるな…」

「おとなしそうで賢そうで…頭も良さそうな上に海南に通うバスケ部のキャプテン…」

「やめろ、高宮…俺を惨めにさせんな…」


勝てることと言ったら…昔から彼女を知っていること…くらいか…


「大丈夫だ、洋平は先にキスしたもん。」

「…おい、もっとマシな慰め方を覚えろ。」










超強力恋敵現る


(…先生!見てました?!俺のダンク!)
(見てたー!すごいよ信長くん!)
(ありがとうございますっ!この清田信長〜…)










Modoru Susumu
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