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「んだよ、洋平〜…んな顔して…」

「春休み前ラストだぞ、パァッといこうぜ!」


元気付けようとしてくれる仲間たちが優しくて、気を緩めたら不意に涙が出そうになった。


「…だって俺、最低だろ…」

「んなことねぇよ、俺らは男なんだから。時にはガツッといく時もあんだよ!大丈夫だ!」


大楠のその言葉に余計に泣きそうになってしまう。


先日、なまえちゃんにキスをした。それも有無を言わせない怒りに任せた乱暴な。言いたいことを言いそのまま彼女の部屋を出て、その後謝りに行くことも彼女が怒りに来ることもなかった。


どうしたらいいんだろうって、今更後悔したって遅いんだって、そんなことを考えながら時間だけが過ぎていく。どんな顔をして謝りに行ったらいいのか、なまえちゃんを傷つけて、どれほど怖がらせてしまったか、考えるだけでも自分が憎くて仕方がなかった。


「帰りにカラオケ、絶対な!」


強引に約束を取り付けられ空返事で「おう」と言う。春休み前最後の登校日らしく、次ここへ来る時には高校も二年になっているのだと思うと時の流れの早さに驚いてしまう。再会に喜んだのも束の間、結局俺は彼女を傷つけ怖がらせ…


何やってんだ、馬鹿野郎…


「席につけー、ホームルーム始めるぞー!」


朝から睡眠に徹している花道は口からよだれが溢れていた。コイツは高校に入り様々な経験を重ねて日一日ごとに目に見えて成長していくってのに、俺は一体何をしてたんだ…?


俺にとって初恋だった。なまえちゃんは天使のような存在で、だからこそ転校すると、引っ越すと聞いた時は信じられなかったし、七年ぶりにまた会えた時だってある意味信じられなかった。嬉し過ぎたのもあるし、こんなに綺麗になった?ってのもあるし…


幸せを感じる自分が、気持ち悪いぐらい毎日彼女のことで頭がいっぱいだったのもある。


「水戸洋平ー。」

「…うす。」


朝の点呼、呼ばれた名前。水戸洋平…自分のフルネーム、この間も名乗った。「俺は水戸洋平…」そんなの、言われなくてもわかってるよって、すんげぇ勢いで恥ずかしい…


















「つーか、ゴールデンウィーク終わるの早過ぎなかった?」

「バスケ部に付きっきりで、なんも遊ばなかったな。」

「いや、マジでリョーちん鬼すぎて遊んでる場合じゃねぇよ、俺ら部員じゃねぇけどさ!」


あっという間に春休みが明け、高校二年がスタートしたと思ったら五月も十日をすぎていた。放課後、とぼとぼと街中を歩く。たまにここらで大学帰りのなまえちゃんに会うこともあって、俺はやたらと周りを警戒してしまうのだった。


あれから、彼女には一度も会っていない。


会いにいくタイミングを完全に逃し、彼女の方からはもちろんなんのアクションもなかった。どうしたらいいんだって考えすぎて、もはや無かったことにしてもらった方が、彼女の傷をえぐらなくて済むんじゃねぇかなって、そんな結論にたどり着いた。最低以外のなにものでもない。


俺の母親はなまえちゃんに何度か会っているらしく、大学二年になり毎日が見違えるほどに忙しくなったと漏らしていたようだ。ふぅん…と聞き流しながらも内心バクバクで、俺の話してなかった?って、何度聞いてやろうと思ったか…。するわけねぇか。


「…なぁ洋平…アレ……」

「っ、馬鹿、高宮…洋平、なんでもねぇよ、行こうぜ!」

「そうだそうだ、あっち行こうぜ、うまいラーメン屋が…」


俺を呼んだ高宮を大楠とチュウが慌てたように制して、何故だか反対方向へと進もうとする。その意味がわからないほど浅い関係ではない。進路を妨害する二人を退けて俺に隠してたであろう先を見つめる。


「…なまえちゃん……」


そこには、俺が毎日頭の中で謝りたいと願う彼女と、その隣を歩く背の高い男がいた。


「…制服、?」


男はひょろっとしていてだいぶ背が高い。花道と同じくらいか…?いや、もっと高い…?そして制服を着ている。あれどこのだ?いや、なんで制服…?


「高校生…?」


ぶつぶつと独り言が止まらず、自然と握り拳を作る俺に「見間違いかもしれねぇし!」と笑ってくる大楠。


「いや、あれはなまえちゃんだ。間違いねぇ。」


俺の目を誤魔化せるわけねぇし、俺があの人を見間違えるわけがねぇ。あれは絶対になまえちゃんだ。…それで、隣の男は…?


「俺はダメで、アイツなら…いいのか…」


同じ制服を着た高校生でも、俺はダメなのに…そりゃそうだ。嫌われるようなことしたんだから、ダメになる理由もちゃんとあるんだから…当たり前だよな。でも…でも…すげぇ、悔しい…


「洋平、別に恋愛感情が無くたって、男女で並んで歩く理由はたくさんあるぞ?」

「そうだ、コスプレかもしれんし…相手が高校生と決まったわけじゃ…」


慌てるようなコイツらをよそに俺の目はその男の横顔をとらえる。あれ……待てよ……


「どこかで…見たことのある…、」


あの背の高さ、あの横顔、あの品のある制服…


「…あ、海南の…!」












君はいつでも近くて遠い


(…なんで、歩いてんの…?)






Modoru Susumu
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