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「花道、すぐそこに晴子ちゃん居たぞ。」

「な、なぬっ…!」

『頑張って、桜木くん!』

「ありがとうございます、なまえさん…!」


休み時間、自然と集まる廊下。トイレから戻った大楠くんの言葉により桜木くんは廊下を走り晴子ちゃんの元へと駆けて行った。


廊下の角からちょうど曲がってきた晴子ちゃんとそのお友達。桜木くんはキキッとその場にブレーキをかけると真っ赤な顔で話しかけていた。


『うまくいくといいんだけどなぁ…、桜木くん…』

「どうだろうな、嫌われてはねぇだろうけど。」


その様子を一緒に見守る洋平くんは優しく柔らかい表情で「とにかくバスケを頑張るしかねぇな」と笑った。桜木くんが羨ましくなるくらいに穏やかな顔だった。


「晴子ちゃんを振り向かせる材料はバスケ以外ねぇからな。」


野間くんがそう言うと「にしても、流川に勝てる要素なんてねぇんじゃねぇの」と楽しそうな大楠くん、「そうだそうだ、花道には高嶺の花だ」とヤジを飛ばす高宮くん。そんなこと言いながらも心では桜木くんを温かく見守ってるってわかっているし、親友の恋路を見守る桜木軍団の四人が本当に優しくてこっちまで幸せになる。


『いつか必ず報われるよ、大丈夫。』


私は心からそう思った。桜木くんの良いところをたくさん知っている。いつかそれに晴子ちゃんも気がつくはずだし、仮にその相手が晴子ちゃんじゃなかったとしても…だ。桜木くんにお似合いの人が必ず現れると思う。


「なぁなぁ、今日洋平バイトだろ?帰り寄って行こうぜ!」

「お、いいなそれ!久しぶりじゃねぇか?」

「んだよ、邪魔しに来んなって…なまえちゃん以外お断りだ。」

「んだとー?!姉ちゃんの弟として顔を出すんだ、俺は!」

「俺はその大楠の友達として顔を出す!」

『なんだそれは…滅茶苦茶だ…』













穏やかな時が流れた。気が付けばいつだって隣に洋平くんがいて、それは私を心の底から温めてくれた。桜木軍団の皆と笑い合って、時に楓とお喋りして。こんなに幸せな日々を送ってバチが当たらないかどうか不安になるぐらいだった。


「よっ、遅くなってごめんね。」

『ううん、わざわざ家まで迎えに来てくれてありがとう。』


とある土曜日。洋平くんと会う約束をしていた私は時間通りに家まで迎えに来てくれた彼にならって外へと飛び出した。気合いを入れすぎない程度に着飾って、相変わらず慣れない心は彼の隣に並ぶだけでドキドキとしてしまうけれど…洋平くんは二人で会う私服の時はリーゼント頭じゃないことも多くて、今日もまたふわふわと前に垂れた前髪がすごく可愛かった。


『どこ行くの?』

「内緒だよ、ついてきて。」

『…?』


住宅街に入り洋平くんは「もう少しだよ」と笑っていた。繋がれた手に手汗をかいていないか心配になりながらも離す気はない。珍しく口数が少ない洋平くんに合わせて私も黙り込む。着いた先は一軒の大きなお家だった。


「ここ、俺ん家。」

『…洋平くんの…おうち…』


表札に書かれた「水戸」という文字に膝がガクガクと震える感覚だ。洋平くんは私にニコッと微笑むと「よし、おいで」と手を引っ張り中へと入っていく。


『ま、待った…!心の準備が…!』

「ハハッ。大丈夫だよ、親はいねぇし。」

『あ、そっか…じゃあ……って、!』


ま、待って?!じゃあいいかじゃない!余計ダメじゃないか…?!親がいないってことは、誰もいないってこと…?洋平くんって兄弟いたっけ?何人家族だっけ…待って、これってもしかして……


「…ぶはっ、んな百面相しなくても。」

『あっ、ご、ごめん…別に、その…』

「落ち着かなそうだから言っておく。親はいねぇけど、今日はそういうつもりで呼んだんじゃないよ。」

『へっ…?!』


間抜けな声が出てぼうっと洋平くんを見つめてしまう。そして彼の言った意味を理解し始めて心底恥ずかしくなった。顔が熱くなり爆発しそうになる。私が想像していたことが彼にバレて、「違うよ、何もしないよ」と宣告されたわけだ。な、なんという…失態を…は、恥ずかしい…


「ま、とりあえず入って。」

『わっ…?!』


玄関に入るなり「お邪魔します…」となんとか声を出す。「どうぞ、いらっしゃい」と洋平くんに返されてそのまま彼についていく形で階段を上った。家の中はとても綺麗で見た目の通り広かった。洋平くんの匂いがする…すごい、幸せ…


「っし、入っていいよ。」

『…?』


部屋の前に立ち止まり、何故だか私が扉を開けるのを待つ洋平くん。不思議に思いながらもそうっとドアノブに手をかけて扉を開ければ中からは勢いよく「パンッ」と音がした。


『…っ?!』

「ハッピーバースデー!なまえちゃん!」

『…えっ、みんな…?』


飛んできた紙吹雪。火薬の匂い。鳴らされたのはクラッカーで、鳴らしたのは桜木軍団のみんなだった。頭に三角帽子を被った桜木くん、大楠くん、野間くん、高宮くんがそれぞれクラッカーを鳴らしてくれたらしい。「うわっ、臭いが…」と顔をしかめた洋平くんだったけれど、「明日誕生日だろ?フライングパーティー」と隣で笑う。そういえば、すっかり忘れていたけれど…確かに明日は、私の誕生日だ…


『うそ…、なんで知ってたの…』

「ハハッ、まだまだ知らねぇことも多いし知りたいことも多いけど…これくらいはわかってなきゃな。」

『洋平くん…、ありがとう…』


扉付近で感動していた私を「いいから入りな」と大楠くんが引っ張ってくれる。用意されていた座布団の上に座らされて「じゃじゃーん」と効果音付きで目の前にケーキが現れた。


『うわっ…、!』

「すげぇだろ、俺ら五人の手作りケーキ!」

『うそ…すごい、美味しそう…!』


ホイップクリームが塗られ上に苺が不規則に並んでいる。チョコレートのプレートにはひょろひょろとした白い文字で「なまえちゃん ハッピーバースデー」と書かれていて何故だかロウソクが三本だけ刺さっていた。ホイップクリームのはみ出し具合とか、苺の不揃いな感じとか、本当に愛おしいと思うポイントが多すぎて気が付けば笑いながら泣いていた。


『ありがとう…本当に、嬉しい…』


こんな風に誕生日を祝ってもらったのは初めてだ。幼い頃こそ楓に「誕生日おめでとう」とプレゼントを貰ったこともあったけれど…手作りケーキでクラッカーを鳴らされてパーティーを開いてもらえるなんて…信じられない…


ロウソクを吹き消すと慌しく「プレゼント!」とたくさんのお菓子を渡された。どれもこれも私が好きなものばかりで緩む頬を抑えられない。そして隣からスッと伸びた手のひらがそっと私の目元に触れた。


涙を拭ってくれたのは洋平くんの温かい手だ。


「…涙脆いな、本当に…」

『だって、嬉しくて…』

「一日早いけど、誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、本当にありがとう。」


「ありがとう」は私のセリフだ。私のセリフであって洋平くんから言われるものではなかったはずなのに…これだけ色々なものを与えてくれて、私を満たしてくれる洋平くんにこそ「ありがとう」を伝えたいのに、予想外に飛んできた「生まれてきてくれてありがとう」は私の涙腺を崩壊させるのに充分すぎた。


『洋平くんの、馬鹿……』

「わっ、なんで…泣くなよ…」

『ありがとうって、…こっちの、セリフだよ…』


「洋平が泣かせたー」なんてからかうようなセリフが聞こえてくるも、桜木くんの「洋平…お前はなんていい男なんだ…」という涙声によりそれもかき消されてしまった。一緒に感動してくれる桜木くんとは一生友達でいたいと思います…ほんとに洋平くんってどこまでいい男なんだろうね…桜木くんもそう思うよね…?


「俺の方がありがとうって言いたいんだよ。これからもなまえちゃんを守ります。よろしくお願いします。」


律儀にペコッと頭を下げた洋平くん。顔を上げるなり「プレゼントは二人の時に」と微笑む。それを周りにヒューヒュー言われて野間くんが取り分けてくれたケーキを口に運ぶ。甘くて美味しくて…しあわせの味がした。












『ずっと泣いてて意識してなかったけど…、洋平くんの部屋だよね、ここ…』

「そうだよ、なんもねぇからつまんないっしょ。」


四人は先に帰っていった。残された私と洋平くんは二人で部屋の片付けをしながらのんびりと話している。意識していなかったこの部屋で洋平くんが普段寝起きしていると思うと…なんだか不思議な気持ちになる。胸が熱い。


『綺麗に片付いてる…なんか、想像通り…』

「そう?どんなイメージなの?」

『きちんとしてそうな…感じ…』


私の言葉に洋平くんはハハッと笑う。そして片付いた部屋で「これ、受け取ってくれる?」と箱を渡された。


『ありがとう…!』

「気に入ってもらえるといいな。」


そっと中をあげればキラキラと輝くネックレスが顔を出す。そこそこの値が張るブランドのものだった。可愛くて綺麗で何より嬉しくて、緩む頬を抑えきれずに眺めていれば唇に一瞬フワッとしたものが触れた。


『…!』

「なまえちゃん、これからもずっと一緒にいよう。」


何年先も、ずっと隣で誕生日を祝わせてほしい


その言葉に深く頷く。視線が交わり今度はゆっくりと唇が触れた。何度も何度も重なり次第に深くなっていく。胸の奥がゾワゾワと熱くなり頭がぼうっとしてきた時、一瞬にして唇同士が離れた。


「…やべっ…、これ以上は……」


洋平くんは慌てて私の手を引き外へと出た。「家まで送る」とそう言って隣に並んで歩く。初めてあんなに深くなったキス。戸惑いもあったけれど、洋平くんとならなんだって構わないしそれに…「まだ触れ合っていたかった」だなんて思う自分もいて。何を考えてるんだ、私は…わがままだし欲張りだよなぁ…


でも、好き…


横を見上げれば耳が赤い洋平くんと目が合う。「どうした?」と微笑まれ「好き」と返す私がいる。出会った頃から変わらずに私のヒーローである彼とこの先もどうか永遠に、共にいられますように…心がそう叫んだ。


「…うん、俺も。」

『本当に、好き。大好き。』

「困ったな…、ここが外じゃなかったら、確実に襲ってるところだった。」










あなたが生きる「明日」になりたい


(…改めまして、誕生日おめでとう)
(0時に電話くれるなんて…洋平くん…すき…)
(うわっ…、やべぇ、マジで会いたい……)







あとがき (^_^)

最後までお付き合い頂きありがとうございました★思っていたよりずっとずっと長くなり、そして時間ばっかりかかってしまってすみませんでした( ; ; )楓ちゃんと幼馴染の女の子が楓ちゃんに振られ親衛隊にもいじめられてドン底状態のところを助けてくれた洋平くんといい感じになっていくストーリーでした(^^)常連様からネタを提供していただき話を書かせていただきました。ありがとうございます!

流川楓という男と幼馴染として生まれたからには、そのまま特別扱いで彼女になるルートも有り、はたまたこうして幼馴染のままで、親衛隊に目をつけられるルートも有るのではないかとそう思いました。洋平くんとお付き合いをするにあたって、彼なら絶対に楓ちゃんとなまえちゃんをいい距離に戻してくれそうだなと思ったし、見て見ぬ振りをする場面もあれば、仲介してくれる場面もあるだろうとそう思いました。絶対的にいい男ですよね( ; ; )!


番外編もいくつかご用意しておりますので最後の最後まで楽しんでいただければ嬉しいです。たくさんのコメントと応援メッセージありがとうございました(^^)心から励みになりました!











Modoru Susumu
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