大爆発編






『洋平くん、お昼頃来てね!ちょうど休憩になる頃だから!』

「わかったから、早く行きな。」

『うん、行ってくるよ!』

「それ言うためにわざわざありがとうな、いってらっしゃい。」


朝洋平くん家に寄ってから学校へと向かう。寝起きの無防備な洋平くんを一目でも見れればそれだけで一週間はハッピーで生きられるよ、私。あぁ可愛い洋平くん…


『よーし、楽しむぞー!』














『お作りしますのでお待ちくださいね!』

「みょうじ、これブルーハワイね。」

『はーい!』


じろちゃんから受け取った山盛りの氷に青いシロップをつらつらと垂らしていく。最後にストローで出来たスプーンを差して出来上がり。ひとつひとつ丁寧かつスピーディーに捌いていく。うわぁ、私に向いてる仕事かも!


『ありがとうございました〜!』

「なかなかの売り上げだな。」


氷をガリガリしていたじろちゃんが他の男子と交代して私の隣に並んだ。共に店番をするなりおしゃべりが止まらない。最後の最後に同じクラスになれてよかったなぁ…


「来んの?水戸さん。」

『来るよ、多分もうすぐ来る。』

「ふぅん、よかったじゃん。」


じろちゃんも洋平くんに会えてよかったね、と笑えばなんだかぎこちない笑顔で「うん」と言われた。あれ?憧れてたよね…?


『野間くんも大楠くんも高宮くんも来るはずだけどなぁ〜。言ってなかった?』

「あーどうだろう…来るって言ってたかな?」


じろちゃんは兄であるチュウこと野間くんと本当に仲良しで。よく二人で遊びに行った話やご飯を食べに行った話をしてくれるから本当に仲が良いんだなぁ…と微笑ましくなるのだ。「そういえば…!」と突然思い出した昨日見たテレビの話をしてもじろちゃんは嫌な顔せず付き合ってくれるどころか一緒になって「俺も見た!」と言ってくれるから凄く嬉しい。永遠にマブダチだ!


『それでさ、あのシーンが…ねぇ、じろちゃん聞いてる?』

「……」


突然目の前を見たまま固まったじろちゃん。先程まで打っていた相槌がなくなり完全に私を無視している。「おーいー!」と揺らせばじろちゃんは「あ……えっ……」と声を漏らしていた。


『もう、どうしっ……』


じろちゃんどうしたんだよーと彼の視線の先を共に追うように前を向けば、そこには大きな男の人が立っていた。目の前に人がいるとは思わずに「うわっ?!」と声が出た私。


『えっ…?!』

「…よう、来るって言ったろ。」

『る、流川楓……!』


そこに立っていたのは完全に流川楓であった。周りがちらほら気付きワーキャー騒ぎ始めている。なんの変装もせずに相変わらず黒い服で私の前に立つ。スッと差し出してきたのは小銭で「イチゴ」と言われた。もしや、かき氷の話…?!


『あ、あぁ…いっ、いちご、ひとつ……』


なんとか後ろの男子に伝えれば「りょ、了解…」とぎこちない返事が聞こえた。ガリガリと氷を削る音が始まって流川楓は「みょうじ」と私を呼んだ。


『な、何…』

「昨日、ありがとうな。安西先生に言ってくれたろ。」

『あ、あぁ……ポスカ貰いにいった、ついでだったから……』


まさかお礼を言われるとは思わず、そもそも買いに来るなんて冗談だと思いすっかり忘れていたこともあってこの状況を飲み込めない自分がいた。なんで流川楓がここに立ってて、かき氷なんか買ってて…だめだ、考えるほどにわからん。


ちょいちょいと横からじろちゃんに肘で突かれるもそれどころではなくて。「後で説明するから」と軽くあしらっても彼は私を突くことをやめなかった。


『だからー、なに、じろちゃん!』

「…見ろよ、前!」

『へっ?』


焦ったように次第にバシバシと叩かれてハッと視線を前に向ける。


『……よ、洋平くん……!』

「…よう、なまえちゃん。」


流川楓の斜め後ろにはポケットに手を入れた洋平くんが立っていた。私にそう言うとジッと流川楓を見る洋平くん。目が合うと「久しぶりだな、流川」と言うものの、その表情はどこかおかしい。


「…うす、久しぶり。」

「帰ってきてたんだな。」

「まぁ。」


洋平くん…なんかおかしい…テントの中でソワソワとする私の元に削った山盛りの氷が運ばれて落ち着かないまま上にイチゴのシロップをかける。流川楓に「どうぞ…」と差し出せば「一緒に食うか?」と問われた。


『い、いいよ!意味わかんない、ひっ、ひとりで食べて!』

「んだよ、オメェ…昨日俺に礼儀がどうのって言ってたけど…」


何か不満があるらしくそう呟く流川楓の声を遮るようにして「あのさ」と声がする。その声の主はジッとこちらを見つめる洋平くんだった。


「 ” 昨日ありがとうな “ って、何?」

『えっ……?』

「さっき言ってたろ、昨日…何かあったの?」


そう言った洋平くんの目は完全に私を見つめていて。その無表情さに何故だか背筋が凍りつく。まさか、怒ってる…?さっきからずっと様子が変だと思ってた…けど…


『あ、あの…そのっ……、』

「なまえちゃん、答えて。」

『…っ、……』


低く放たれた一言。思わずゴクリと息を呑む。後ろから大楠くんが「おい、洋平落ち着けよ」と彼の肩を掴んだ。


「ここ学校だぞ?一旦落ち着けって…」

「……わかってる、」


洋平くんはそう言うと一度下を向いた。モゴモゴと口ごもり言葉が出てこない。言いたいことはたくさんあるのに、あれ…なんでだろう…こんな洋平くん見たことなくて…なんか、怖い…ゆっくりと顔を上げた洋平くんはもうすっかり普段の柔らかい表情に戻っていた。


「…ごめん、俺帰るわ。」

『えっ…、来たばっかなのに、帰るの…?!』

「…またね。」


洋平くんはそう言って私に背を向けた。スタスタと門に向かって歩いていく。なんで、帰るの…?とどうしたらいいかわからない私に隣から「行けよ」と声がした。


「行け、早く、いいから行け!」

『じっ、じろちゃん……』

「こっちはいいから、早く追え!」

『あ、うん…あ、ありがとう!』


ポンッと背中を押されてテントから飛び出る。段々と離れていくその後ろ姿目掛けて走り出した瞬間、グッと腕を掴まれた。


『へっ…、』

「…どういうこと、」


流川楓だった。私を掴むなりそう問う。そこに「離してください」とじろちゃんが割って入ってきて私の腕は解放された。


『水戸洋平くん、知ってますよね。』

「…知ってる。」

『私の、彼氏です。』


そう告げれば流川楓は目を見開いた。それを確認して慌てて洋平くんを追いかける。今度は何にもつかまれず何にも止められず…


『洋平くんっ、!』

「…ごめん、帰るから。」

『なんで…っ、行かないで…!』


わからない、わからないけど、なんだかもう会えない気がした。怖いくらいに洋平くんが離れていく気がした。どうしてかはわからない。でももはや本能みたいなものだった。何かで感じ取った。「引き止めなきゃ」と必死だった。


『洋平くんっ…!』

「…?!」


グッと彼の襟元を引き寄せた。近くなった洋平くんの顔に勢いよく近づきチュッと音が鳴る。


『…、行かないで。洋平くんが好きなの。』


初めて触れた唇。なんだか勢いがつきすぎてよくわからなかった。柔らかい…?ともはや感触も何もないのだが、それでもよかった。好きを伝えるにはどうしたらいいのか、これ以外思いつかなかった。


「なまえちゃん…、」

『さっきの質問、答えるね。昨日、流川楓に会った。ポスカを取りにいった時に外にいたあの人と会って「安西先生呼んできて」って言われたの。ただそれだけ。』


先程答えそびれたものにもちゃんと答える。洋平くんは呆然としたままだった。


『洋平くんと一緒に回りたい。最後の文化祭だもん。戻ろう?ダメ?』

「…やっぱ、帰る。」

『えっ、なんで……?!』


何がそんなにダメだったんだ…と焦る私の腕をキュッと掴む。洋平くんは私を見ては「文化祭は回れない」と言うではないか。


『そんなっ……』

「一緒に、帰る。行くぞ。」

『えっ?…わ、私も…?!』


グイグイと引っ張られ門を出ようとした時だ。洋平くんはそれはそれは大きな声で「大楠!」と叫んだ。


「…わかってるよ、洋平!こっちは任せろ!」


大楠くんの返事が聞こえるなり洋平くんは早足で正門を潜り抜けた。グイグイ進んでいく見慣れた街並み。洋平くんのマンションにたどり着くまで本当にあっという間だった。


部屋の扉を閉めた途端、ドンッと壁に手をつく洋平くん。ビックリして「ヒィッ!」と声を上げながら目を瞑るも恐る恐る薄目を開ければ目の前に洋平くんの綺麗な顔があった。


「…俺が今までどんだけ、我慢してきたと思って…」

『よ、ようへい、くん…?』

「もう、手加減しねぇからな…」

『えっ、ちょっ……、!』


後ろは壁だ。逃げ場はない。一瞬で重なった唇。先ほどと比べ物にならないくらいしっかりと感触がありとっても柔らかい。一気に全身が熱くなりバクバクと心臓がうるさくなる。数秒押し当てられたそれは角度を変えて再び重なり、その後何度も何度も角度を変えては触れ合った。


『んっ、……』


時たまパクッと食べられるようなキスをされて頭がくらくらする。洋平くんと、いま、き、キスを…だなんて考えれば考えるほどに胸の奥がブワッとなってとろけそうになる。はじめての感覚に自然と目に涙が溜まっていく。


『…?!』


ヌルッとした何かを感じて驚くのも束の間、何かが口内に侵入してきて息ができなくなる。慌てて息を吸っている間にもそれは止まることを知らなくて呼吸が上がっていく。それが洋平くんの舌だとわかるのに時間がかかった。


『ふあっ、……く、くるしい……』

「…無理、やめれない。」

『ちょ、待っ……!』


再び強引に入ってくる舌に必死になってついていくもドロドロに溶かされるだけだ。頭がチカチカしてきた時パッと離れた唇。途中まで私と洋平くんの唇を糸のようなものが繋いでいて、それがなんなのか認識するなり恥ずかしさで倒れそうだった。


「続き、するから……」


ひょいっと抱えられ部屋に連れて行かれる。呼吸を整えるのと頭を整理するのに必死でもはや言葉すら出てこない。


ベッドにドサッと降ろされて上に洋平くんが被さった。こんな角度で彼を見たことがない。あまりの色気に全身鳥肌が立った。


『よ、ようへい、くん……っ、』

「ごめんね、もう、止まらない。」









愛してる以上の言葉を教えてほしい











Modoru Susumu
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