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目を合わせるのが怖くて、私はとにかく流川くんを避け続けた。テスト期間に入り部活が停止となっても、何か言われる前に速攻で家に帰る。桜木くんからポロッと聞いた話によれば流川くんはバスケ部の勉強会にも参加していたようだし特に英語を頑張っていたようだった。それを聞いて少しだけ安心した。私が教えなくとも、しっかり勉強やってるんだなぁ、って。


あっという間に時間は過ぎ、テスト当日もなんとか無事終了して、バスケ部は赤点取ったのが一人も居なかったと桜木くんから聞いた。流川くんとの絡みはもう無いもののそれがとっても嬉しくて良かったなぁ、と心の中で喜んだりもする。


流川くん............。


大好きなのに、なんだか近寄れない。

今更なんて声をかけたらいいのか、何が正解なのかもちっともわからない。そもそもあの日、流川くんはなんで私にキスなんか........。


少しでも油断すると勘違いしそうになる。流川くんにとって、私は他の子とは違うんじゃ無いのか、って。










「なまえちゃん、花道見てく?」
『ごめん、今日は用事が......。』


テスト明け一発目の練習を水戸くんたちに誘われたけど断った。そもそも今日は深津一成という名の従兄弟が遊びに来るのに加えて、あれから顔を合わせていない晴子ちゃんがいる体育館には、もう二度と近寄れない。なんて話せばいいのか...今更何もなかったかのようなフリはできないし...。そもそも流川くんとの間でも解決していないアレ。結局のところなんだったのだろう。気まぐれ?可愛いって何?...もうわかんないよ..........。きっと特別なんかじゃ無い。私は他の子と違うんじゃない。特別なら、きっと言葉にして安心させてくれるだろう。こんな宙ぶらりんなこと...「好きな子」相手にしないよ。


ぼやぼやと考えながら廊下を歩けば「みょうじ」と声をかけられた。


『あ、先生。』
「進路希望の紙まだだぞ。どうしたんだ、お前が忘れるなんて珍しいな。」


あ..........。


『す、すみません、明日でも、いいですか?』
「いいよ、忘れんなよ?」


進路希望...
すっかり忘れていたそれ。そもそも出す出さないの問題以前に私には「夢」がないのだ。書こうにも何も書くことがなくて白紙のままそのままにしていたんだった。


ともかく、今日家でなんとかしようと決めて、私は門を飛び出した。










「久しぶりピョン」
『またピョンとか言ってるし...カズくんそれ大学で引かれないの?』
「知ってる奴らばかりピョン」


だから平気ピョンとか言って、相変わらず女子は近寄ってこないんでしょうね。聞いてもないのに「牧、藤真、河田は元気だピョン」とか言ってくる。いや、別に聞いてないし。


『何泊していくの?』
「二泊だピョン。バッシュ見たいからちょっと付き合えピョン。」
『あーはいはい、わかりましたよ。』


カズくんはこんな感じだけれど、あの山王工業でキャプテンを務めていたくらいの人だから、普段共に過ごしていても、ちょっとのことでは動じない。例えばゴキブリが出たとか、突然脅かされたとか、そんなことじゃビクともしない。圧倒的不動なその動じない自分自身に飽きたらしくバスケ以外楽しいことがないと感じたカズくんは、結局変な語尾を使うっていう一種の趣味みたいなものに辿り着くのだけれど。そもそもなんでこんなに落ち着いてるのか不思議だ。


『ねー高2の時進路聞かれたらなんて答えてた?』
「バスケをやる。それだけピョン。」
『カズくんバスケで食べていくの?バスケ辞める日が来たら?』
「...やめないピョン。俺にはバスケしかないピョン。」


...なんだか不思議と「確かに」なんて思ってしまう自分がいた。バスケをしていないカズくんって想像できないし、そもそもそんな深津一成は存在しないのだ。この人がバスケをしないなんて日はきっと来ない。永遠に何かしらの形で携わっていくのだろう。


「...なまえ、やりたいことは無理に探すものじゃないピョン。」
『...でも進路聞かれたら答えなきゃいけないじゃん。』
「今はまだなくとも、そのうち見つかるピョン。それがいつになっても構わないピョン。だからとりあえず勉強しとけピョン。」


急に医者になりたくなったら困るピョン、とかそんなこと言われたって、進路希望の紙は明日までに出さなきゃいけないし、来年の今頃には受験校を決めておかなきゃいけないわけじゃん。


「やりたいことがないってのも、なんだか幸せピョン。」
『どこがよ。すごく困ってる。』
「これから何にでもなれるピョン。」


カズくんがそう言った時、なんだか少しだけ胸の中がギュッとなった。でも当の本人はもう違う話をしてくる。


「沢北が英語話せなくて困ってるピョン。それを思えば可能性を含めて色々勉強しておくピョン。」
『ふぅ〜ん...。』
「バスケも上手い、アメリカ行く実力もある、なのに英語は勉強してこなかったピョン、バカピョン。」


準備が大事、とか語るカズくんをよそに、私はピンと来てしまったのだ。








バスケ、アメリカ、英語........。


もしかして、流川くんが英語話せるようになりたいのって......いつかアメリカでプレーしたいから?


『流川くん.......、』
「ルカワ?流川と知り合いピョン?」
『...覚えてるの?流川くんのこと......。』
「当たり前だピョン。高校時代唯一負けた相手のエースだピョン。」


アイツまだ日本にいるのかと問われて私は目を丸くした。


『そ、それは、どういう意味...?』
「アメリカ行きたいって、言ってたピョン。」
『い、いつ?!』
「対戦した時ピョン。沢北のアメリカ行きを聞いて自分も行くって言ってたらしいピョン。」












あれだけうまいんだもん。
あれだけうまくて負けず嫌いで、まだまだ上を目指したいって向上心もある。だからバスケットの本場アメリカを目指すなんてそんなこと当然といえば当然なのに...。流川くんの夢を聞いて、、もう叶いそうな夢を聞いて、、






「どうしたピョン」






なんでこんなに涙が溢れるんだろう......。















流川くんはいつだって、近いようで遠いです



(...一成〜〜〜助けてよ〜〜〜離れたくない〜〜〜)
(呼び捨てにするなピョン!!!!)
(そもそも誰とだピョン!恋なんて許さないピョン!)








Modoru Susumu
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