番外編
眠たい.....。
学校帰りにそのまま撮影に行って家に戻ってすぐ自室の机の上で眠気に襲われた。宿題やらなきゃ...と座ったはずなのにあろうことか物の数秒で伏せてしまった私は後悔に襲われるも中々顔を上げることができない。
眠たい.....。
「なまえ?今日これ届いてたけど.....」
どこからかお母さんの声がする。
「なまえー、この間表紙飾ってた雑誌だが、よく見てみたらルカワとの対談が載ってんじゃねーか!」
「...しーっ!なまえ寝ちゃったみたいなの。」
「あっ、ハルコさんすみません....なまえ、お疲れみたいっすね....」
花道の声も聞こえたような....あぁ....もう....眠気が....
『.....っ、.........あ!寝てた!』
ガバッと起き上がりその場に立ち上がる。確か、夕飯も食べずに宿題もやらずに寝ちゃったような...
記憶を辿り焦り始める私の視界に、何故だか緑色の黒板が入ってくるわけで。よく見れば自分が座っているのは自室の勉強机ではなく、教室の机だし...ここは、教室?あれ?私......
「....なまえさん、お目覚めっすか?!」
『うわぁっ!びっくりした.....って、えぇっ?!』
どんだけ寝ぼけてたんだ...学校にいるのに家で寝落ちした記憶のままだったなんて...と反省し始めた私の目の前にヌッと現れた顔。坊主の赤頭がニコニコ顔で私を見るなり「どうしました?」と聞いてくる。
『ど、どうしたもなにも....なんで花道が制服着てるわけ?!』
なんの真似だよ...いくら母校とはいえ高校に制服着て遊びにくる親がいるかよ...と呆れる私に花道は「え?まだ部活じゃないし....」と呟いている。
あ、あれっ.....?なんか、よく見たら.....花道若くない?
『えっ.....なんか、肌綺麗だし.....若返った.....?』
「おわっ....!そ、そんな....!大胆な.....!」
私が花道の頬を触りながらその肌質を確かめている間、赤頭はおどおどしながら顔まで真っ赤に染めている。ハァ?!何照れてんの?気持ち悪いにも程が......って、やっぱりなんかおかしい。40歳過ぎた肌じゃない。目尻にシワもないし、なんか....
「.....テメェ、人の女に手ェ出すな。」
「なっ、!べ、別に出してねぇよ!なまえさんの方から触ってきたんだよ!!」
羨ましいか!キツネめ!と花道が叫ぶその先を目で追えば.....
『えっ....?!か、かえでちゃん.....?!』
「....?そうだけど?」
何を驚いてんだ?と言わんばかりの楓ちゃんがこれまた学ラン着てジッと私を見下ろしている。え...えぇっ?!な、なんで.....
『っていうか!ひ、ひとの女って......』
「...?いまさら照れてんのか...」
楓ちゃんはそう言うとクシャッと私の頭を撫でた。チラッと見上げればやっぱり若くて少し幼い顔つきの楓ちゃんが私を見るなり口角を上げた。
『(...ま、間違いない...これは、タイムスリップ...!)』
何かの夢なのかドッキリなのかもうわかりかねるけど、とりあえず同い年として同じクラスになれたらしいから....で、でも私、こんな時でも楓ちゃんの彼女設定なのなんだか笑えてくるんだけど...
「....花道、さっき晴子ちゃんが呼んでたぞ。」
「お、本当か!洋平!」
『あぁっ...!よ、洋平くんだ....!!』
私の声に洋平くんは「お、眠り姫」と笑って返してくれた。楓ちゃんに瞬時に睨まれて「うそうそ、流川の彼女!」と笑いながら訂正している。あぁ!その顔っ...!元カレの水戸くんにそっくりすぎる...。水戸くんは、花道とお母さんの旧友でお父さんである洋平くんにそっくりだなぁとは思ってたけど...水戸くんと若い頃の洋平くん本当に瓜二つじゃん。まぁ親子だから当然かもしれないけど...
「どうした?俺になんか用だった?」
『い、いやぁ....謝りたいなぁと思って....こっちの話だから気にしないで...』
私の声に「そう?」と笑う洋平くん。未来の息子さんとお付き合いさせていただいた上に勝手に夢を追いかけた私を思い「頑張れよ」と身を引いてくださった素敵な息子さんを傷付けて申し訳ございませんでした.....本当に.....後に楓ちゃんという父親と同い年の男性に惹かれてしまう私をどうか許してください.....
「桜木くん!あのね、安西先生から伝言で....」
「ハ、ハルコさん....!」
んぐっ....は、晴子さんって....お母さん!!
顔を真っ赤にして話を聞いている花道と何にも気付いていないような雰囲気でペラペラ喋ってるお母さん。私の視線に気付くなりチラッと隣に立つ楓ちゃんにも視線を向けて、ペコッと頭を下げてきた。反射的に同じことをし返す私。そして悟る。そういえば、母は楓ちゃんのこと好きだったんだった。
楓ちゃんの彼女設定である私とはあまり仲が良くないってか....なるほど....
「...なまえ、サボるぞ。」
『うえっ?....ちょ、ちょっ!楓ちゃんっ!』
『ったく....楓ちゃんってほんと変わってないんだね。』
「....なにが?」
強引なところだよ、と言えば「そうか?」とよくわかっていない雰囲気で返事をしてくれた。そりゃわかんないでしょうけどね、あなたは40歳過ぎたってそうやってこっちの意思も聞かずに腕を引っ張ったり抱きしめたりしてねぇ...!
「....ねみぃ」
ゴロンと転がった楓ちゃんは私の膝を枕にして寝る体勢に入った。あぁもう、相変わらず寝太郎だ...
「なまえ、」
『うん?』
「....可愛い」
驚いて膝の上にある楓ちゃんの顔を見れば真剣な表情で真っ直ぐな瞳で私を見つめている。びっくりして顔が熱くなるのがわかって目線を逸らせば急に膝の上が軽くなった。
「こっち、見ろ」
楓ちゃんの声に横を向けば目の前には楓ちゃんの綺麗な顔があって。あぁもう、流されそう....!彼女なんだから当たり前だろうけど....緊張する......
ギュッと目をつぶれば軽くフフッと笑ったような声が聞こえた途端唇にふにゃっと柔らかい感触が。も、もう....!頭吹っ飛びそうなくらい恥ずかしい....
「....なにそんな照れてんだ」
『だ、だって...楓ちゃん、えっちなんだもん...』
「どこが....」
私の発言を皮切りに楓ちゃんは息する暇もなく唇を奪ってきた。慌ててジタバタするものの力が強過ぎて何の抵抗にもならない。
『楓ちゃっ....んっ.....、ちょっ.....、!』
あまりの息苦しさに私の視界はだんだんとぼやけ始め、そのうち意識を失った。
『.....っ、!!』
「.....びっくりした......」
ここは....と見渡す私に「俺ん家だけど」と返したのは楓ちゃんであった。
『楓ちゃんっ.....!!』
何が何だかわからないけれどとりあえず楓ちゃんの顔面を触って確認する。あれ....これは、私の知ってる楓ちゃんだ.....ここは、楓ちゃん家だし....いつもみたいにスウェット履いてナイキのトレーナー着て自分がモデルを務めてる雑誌を片手に持った、いつもの楓ちゃんだ.....
「なんだ、どうした....」
『なんか、変な夢見て.....わたし、なんでここに....』
お前夜中にいきなり俺ん家来たろ、と楓ちゃんはそう言った。
「明日も学校だってのに、どんな神経してんだか...」
そう言われて慌てて時刻を確認すれば、私が自室で居眠りしたあの時から数時間経った時間を示していて、とっくに日付は変わってしまっていた。あの後、居眠りして....楓ちゃん家に押しかけたってこと?なんだそれは.....
『楓ちゃん....高校時代、彼女いた?』
「は?」
もうとにかく、戻ってこれたことは良かったけど、楓ちゃんにキスされた感覚がやけにはっきり残ってて、なんだかもう、おかしくなりそうなんだよ!
「いねーけど、なに?」
『じゃ、じゃあ、今まで彼女は......』
楓ちゃんは私の問いに黙り込みジッと視線を寄越してくる。なんだか疑うような探ってくるようなそんな目つきだ。
「オメェが好きだけど、何か文句でも?」
『あ、いや.....ないです.......』
先日「そばに置いておきたい」と言われて曖昧な関係を続けていたのすっかり忘れてた。なに意味不明なこと聞いてんだ、私のバカ!!墓穴掘るなアホめ!!
「なんかおかしいけど...変な夢ってどんな夢?」
『高校生の楓ちゃんが私にめちゃくちゃキス.......!』
苛立ってそこまで言いかけてハッと気付く。な、なんでもない!と大声で叫んだものの、とき既に遅しだ。
「...それは変な夢じゃねぇな。」
『な、なんでそんな...ち、近いです.....』
「それは夢っつーか.......」
俺の願望だ
そう言うと楓ちゃんは私の後頭部に腕を回しグッと引き寄せられ唇が重なった。
『....か、楓ちゃ.....っ、』
「高校ん時に、オメェと会えてたらなぁって...」
あれは夢なんかじゃない。きっと夢なんかじゃなかった。楓ちゃんの強い願望に引き寄せられた私が、楓ちゃんの願いを叶えてあげたんだと、そう思うことにした。私が事細かく話せばやけに満足そうな顔をした楓ちゃんに再び唇を奪われて、あの時みたいにそれはそれは散々な目にあった。
楓ちゃんの強引さは昔からちっとも変わってない。
いつでもどこででも俺にはキミ(こんの、変態め....)
(なんとでも言え)
どうしても番外編を書きたくてアップしました!楓ちゃんという呼び方がとても好きです。よく呼ばせてます...(笑)