家出少女編







『....なんで?こんなに頑張ってるじゃん!これ以上私にどうして欲しいの?!』


なまえはそう叫ぶと何も持たずに家を出た。自分の名前を呼ぶ父親の声が聞こえるも立ち止まるつもりはない。金曜日は塾に通うなまえ。塾を終え帰宅するなりひょんなことから「怠けている」と母親に言われたなまえは珍しくカチンときた。22時を過ぎた外は真っ暗で怖さすら感じるもののなまえは制服のまま全力で駆け抜けた。


『......ハァ、.....っ、ハァ........』


ノンストップで駆け抜け辿り着いたのはもちろん洋平のマンションの前で。一度立ち止まり呼吸を整えてから涙目になる目を拭いて洋平の部屋のインターホンを押した。しかし、中から出てくる気配はなく「甘えすぎたらダメだ」と合鍵はまだもらえてないこの状況で携帯電話も持っていないなまえが洋平と連絡を取る手段はなかったのだ。


『....まだ、仕事....?.....遅いなぁ......っ、』


普段20時頃には連絡がつく洋平だが今日はまだ帰宅していないのか、よく見れば部屋の明かりもついてはいない。困ったなまえはそろそろ帰宅するかもしれない洋平を探しにウロウロと歩き始めた。ごく近くにコンビニがありここらはまだ明るい。


『洋平くんっ....どこ.....っ?』


コンビニを通過し少し歩いた先に数軒の飲み屋がある。なまえは明るいそこらに辿り着くなりその場に立ち止まった。スーツを着た数人の大人の群れの中に目当ての人物がいたからだ。


『洋平くっ.......、』


そう言いかけてピタッと立ち止まった。あろうことか洋平の隣に立つひとりの女が洋平へと腕を絡めたのだ。何を話しているのかここからは聞こえないが確実に「そういう感じ」に見えてしまうなまえ。遠目ではあるがその女は髪は茶色くウェーブがかかるワンレンで丈の短いスカートに細長い脚を全面に出しながら高いヒールを履いている。圧倒的な自分との「差」に制服姿のなまえはグッと拳を握りしめた。


『......ようへい、くん.........』


普段なら乗り越えられる「6歳の差」が、今となってはとても重くのしかかってくる。洋平の隣にいる綺麗なお姉さんを見てなまえの目にはじわじわと涙が溜まった。


そんな時だ。視線の先にいたその女はなまえの視線に気付くなり不思議そうにこちらを見てくるではないか。家出少女とでも思われたのだろうか。身動きが取れないなまえ。じろじろとどこかを見る女に気付いた洋平もまたなまえの方へと振り向いた。


「....っ、?!....なまえちゃん....?!」


遠くてもそれだけはわかった。


洋平くんは今、わたしの名前を呼んだ。


「....待て!!」


一歩、また一歩と後退りしたなまえだがその場を抜けて追いかけてきた洋平に捕まったのだった。












「水戸くん今日、飲み会あるんだけど、どう?」

「今日っすか....あ、いや俺は....」


声をかけてきたのは何かと絡んでくる女上司であった。洋平は断ろうと頭を下げかけて部長に捕まったのだ。「来るよなぁ?水戸くん」その言葉に行く以外の選択肢をもらえなかった。それでも洋平が仕方ないから行くことにしたのにはわけがあった。金曜日、それはなまえが塾に行く曜日だったのだ。22時頃まで学習塾に通うなまえからその後電話など連絡が来るとして、それまでに家に帰れば特に問題ないと判断したのだった。


「水戸くん、二次会行こうよぉ〜!」

「いや、俺帰ります。」


一軒目を出たのは洋平の計算通り22時を過ぎた頃だった。こまめに携帯をチェックするが今のところ連絡はない。このまま家に帰れればきっと大丈夫。洋平はそう確信していたのだ。だからこそ二軒目をねだりあろうことか腕を絡めてくる酒臭い女上司にうんざりしながら「帰りますんで...」と主張していた。


その時だった。


「ねぇ、家出でもしたのかなぁ?」


女上司にそう言われ彼女の視線の先を追う。洋平は心の底から驚いた。そこにはジッとこちらを見て目に涙を溜める制服姿のなまえがいたのだから。


「....っ、?!....なまえちゃん....?!」


洋平は慌てて絡められた腕を解くと逃げようとするなまえを追いかけた。腕を掴み怯えたなまえを見つめる。ポロポロと目からは涙がこぼれて洋平は何から口にしたらいいのか迷っていた。


「....とりあえず....来い....っ、」


洋平はなまえの腕を掴むなり輪の中へと戻った。マンションへと帰る道のりのついでに通りすがりに洋平は会社の人々へ頭を下げる。


「....俺、帰ります。失礼します。」


そう言って足早にその場を去ろうとする洋平となまえに向けて声をかけた人物がいた。


「ねぇ、水戸くん、その子....妹さん....?」


先程の女上司だ。そう問うその表情がどういうものなのか洋平は一瞬で判断がつかなかった。身内だと思い心配してくれたのか、はたまた、この様子を見て「まさか女子高生が彼女なんてこと、ないよね?」という確認なのか、わかりかねる。


洋平は彼女の存在を秘密にしていた。それは自分の為なんていうものではなく、ただただなまえを守る為だった。彼女の存在を知られあろうことか女子高生だということがバレたとして、おもしろおかしくネタにされることなど目に見えていた。どういうルートであれ結果的になまえを傷つけることになる可能性があることは控えたかったのだ。


そんな洋平は「妹」と聞かれ確実にショックを受けて震えているなまえの腕を掴む手に力を込めた。


「....違います。彼女っす。」


そう答えると軽く頭を下げてその場を立ち去った。










部屋へ辿り着くまで二人は無言に包まれた

(.....何から話せばいいのやら、)









Modoru Susumu
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