貴様何者編







「んでさぁ、好きな子が出来たとか言うんだよ。」

「青春かよ!チュウんとこの弟いくつになったんだ?」

「やっと高校に入ったとこだよ。あんの純情野郎。」


高校時代と変わらずいつものファミレスに集まるパチンコ帰りの四人。大楠、高宮、野間、洋平。堂々とスロットを回せるようになった今、高校時代と唯一変わったことがあるとするなら、桜木花道がこの場どころか日本にすらいないということだ。


「そういうのは洋平先生に聞くのがベストだ。」


洋平は盛り上がる三人の話をよそに頬杖をつきぼうっとガラス窓の外を眺めていた。あっという間に下校時刻なのか、外には見慣れた湘北の制服を着た生徒たちが歩いている。自分を指した高宮の言葉も頭に入ってこない。三人はそんな洋平に苦笑いをして話を続けた。


「んで、その女の子には彼氏がいるんだと。」

「んだよー。そりゃ諦めるしかねーな?」

「でもよ、あいつが言うにはよ、その彼氏とうまくいってねーんじゃねーかって。」


どういうことだよ?と大楠と高宮が食いつき、野間がせっせと説明する。その間もそんな三人の会話を右から左へと流す洋平は外を見つつも頭の中はなまえのことでいっぱいであった。


「どうにもその子の愛が重くて?話聞いてる限りだと彼氏がだいぶそっけないんだと。」

「破局の瀬戸際っちゅーことか。今が狙い時なんじゃね?」

「俺もそう言ったら自信満々に「俺の方がいい男だ」とか言っちゃってさぁ!」


マジで花道みてぇだな...と三人はここにいない超純粋な単純王である赤頭を思い出し少しだけ寂しさを感じていた。そんな三人をよそに洋平はその場に立ち上がると「俺、行くわ」とテーブルの上に札を置く。


「おっ、護衛係出動ってか。」

「そんなんじゃねーけど...最近不審者も出るらしいしな。」


そんじゃ、と右手を上げファミレスを出て行った洋平の後ろ姿を見て三人は寂しさなんてすっかり忘れてニヤニヤし始める。


「ったく、洋平の奴ほんっと彼女で頭いっぱいなんだから。」

「だよなぁ。ま、なまえちゃん可愛いしな。」

「この間それ言ったらヤバかったよな、空気が凍った。」


あの日あの場にいなかった野間へと大楠が説明する。洋平は中々の嫉妬野郎だということを。


「なるほどなぁ....洋平の前でなまえちゃんの話はあんまり出来ねぇな....」
















三年間通った懐かしの正門へと差し掛かるなり洋平はキョロキョロと辺りを見渡していた。正門から続々と出てくる湘北の生徒の群れの中に自分のお目当ての人物はいるだろうか。その時、たまたま良いタイミングで門から出てきた女の子に洋平は反応した。


「....おい、なまえちゃ.....っ、」


言いかけて止まる。あげかけた右手もゆっくりと下ろす。


『それでね、この間考えたんだけど....』


正門から出てきたなまえはやけに楽しそうで。


「なるほど。まぁ、良い考えなんじゃね?」

『でしょう?』


隣には並んで歩く学ランの男がいたわけだ。洋平はササッと影に隠れるとなまえと隣の男は洋平に気付かず目の前を通り過ぎていく。


洋平は自分を置いてどんどんと遠くなるなまえの後ろ姿を無表情で眺めていた。見えなくなるなり何事もなかったかのように反対方向へと歩き出す。遠回りになるがそのルートで家に帰る以外思いつかなかった。





誰だ、あの背の高い男は......


『....あれ?洋平くん?』


ポケットに手を突っ込んだまま歩く洋平の背後から聞こえたのは聞き慣れたなまえの声で。遠回りしたもののどこをどう帰ってきたのかなまえと鉢合わせするのだから困ったもんだ。


「お、おう。おかえり。」

『ただいま。あれ?出かけてたの?仕事は?』


今日は「パチンコ三昧だ!有給取れよ!」と高宮からの指令があった日なのだった。それを報告するのは日々学生として奮闘しているなまえに悪い気がして洋平は黙っていたのだった。


「午後休だったんだよ。アイツらと飯食ってた。」

『あぁそうだったんだね。今帰り?』


うん、と頷けばなまえは「洋平くん家寄り道してもいい?」なんて言うではないか。


「まぁ、いいけど....テスト勉強は?」

『昨日でテスト終わったよ?洋平先生、任務完了であります。』


ビシッと敬礼してそう言うなまえを見ていると、先ほどの思い出したくもない案件が頭に蘇ってくる。洋平は心の中で舌打ちしながらも「まだ結果返ってきてないでしょ」と言い返した。


『大丈夫だよ。絶対クラス順位1位だもん。』


褒めてもらいたくて頑張ったーとニコニコ笑うなまえに洋平の頭の中はクラクラとおかしくなりそうであった。


クソ...可愛い...だけどさっきの奴は...マジでしばく...










「もう文化祭?こんな時期だったか?」

『そうだよ。洋平くんあれでしょ、真面目に行事参加しなかったタイプの人でしょ。』


ま、私がいない場で真面目に参加して女子に惚れられてたら大変だったから、その選択は最高だけどね!ともはや意味不明な文をつらつらと言われ洋平はとりあえず「おう」と返事をする。なまえはなんでも真面目に取り組みすぎた結果、文化祭実行委員に選ばれクラスの出し物を必死に考えているらしかった。


『桜木花道と流川楓を招待して1年3組はバスケットカフェってどう?ドリンク一杯千円、サイン付き。』

「....真面目に考えようか。」


水戸洋平という日本の宝を最大限活用した案だったんだけど...と返したなまえに洋平は返事をすることすら面倒になりそっと野菜ジュースを差し出した。なまえは大好物であるそのパックを受け取るなりパァッと笑顔になる。俺を活用したって、その使い方はただの電話帳じゃねぇか...結構残酷だ。


「それ飲んで頑張れ、実行委員。」

『ちぇっ、バスケットカフェは無しかぁ。じろちゃん全然考えてくれないんだよなぁ。』


なまえのその一言にコーヒーを飲んでいた自身の動きがピタッと止まる。口からマグカップが離れたすぐの微妙な位置で動きが止まった洋平を変に思ったなまえが「洋平くん?」と声をかけるも返事はない。


瞬きすら静止させていた洋平がようやく動きを取り戻すとなまえは安心したのか話を続ける。


『じろちゃんと二人だからなぁ、実行委員。放課後居残りしたってちっとも案出してくれないし....』


おしゃべりばっかしちゃって全然進まないんだよねぇ...


そう続けたなまえに洋平はなまえが飲み終えてテーブルに置いていた野菜ジュースの紙パックを手に取るとものすごい勢いでグチャグチャグチャと片手で潰す。中からはほんの少し残っていた中身が飛び出しテーブルの上はオレンジ色の水たまりができる。


「....ゴミはゴミ箱に捨てねぇと....。」


そう言い席を立つ洋平。ゴミ箱に潰れた紙パックを投げ捨てる洋平の顔はこの世のものとは思えないほどに無表情でそれはそれは恐ろしいものであった。







どこぞの誰だか知らねぇが


(生かしておくわけにいかねぇな....)




物騒すぎる(笑)
文化祭へご招待します→









Modoru Susumu
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