重い愛編







『....あの!好きです!』

「....は?」


「は?」から始まった私と洋平くんの関係。今思えばあんな振られ方したなぁ...だなんて笑い話になるくらいだけど、当時は必死だったなぁ。


「悪りぃけど俺、ガキには興味ねぇんだわ。」

『....ずっとガキじゃないもん。二年後には高校生だもん。』

「だからそれをガキだっつってんの。」


年上の男に憧れでもあんなら他当たれって、洋平くんはそう言って私をシッシと追い払った。かれこれ二年前だ。まだ中学二年生だった私が、たまたま道端で不良に絡まれもうダメかもしれないと思った時、この水戸洋平という6個も歳が離れたお兄さんに助けてもらったのだ。


ふざけんのも大概にしろ、ガキどもめ.....


あの時私を背中に隠し、そう言って相手を一人残らず倒した洋平くんを忘れるなんて絶対に無理だ。後日ストーカーのように同じ道を通るはずだと待ち伏せし、私は「好きです!」と思いを伝えた。そしてものの見事に「は?」と返され、ガキはお断りだと追い払われたわけだ。あぁ、悲しい。しかしここで諦めるわけにはいかなかった。必死になって洋平くんに付き纏い、高卒で社会人二年目の彼を追っかけ回した。あまりのしつこさに洋平くんは怒る気力も失くしたのか「わかったよ」と折れ、私に言ったのだ。


「高校に入るタイミングで付き合ってやる。」


あの時は痺れた。電撃くらったみたいな衝撃に体が震えて、洋平くんは「おい、聞いてんの?」なんて私の顔を覗いてきたけれど、生憎その時の私は目の焦点も合っていなかったし、綺麗な洋平くんの顔を間近で見ることは出来なかったわけだ。


母校が同じだと何かと私のテンションが上がるためもちろん湘北高校に入った。「ここで洋平くんも授業受けたんだろうなぁ」とか「ここで昼寝してたのかなぁ」とか毎日がパラダイス過ぎて学校は大好きだ。


「なまえちゃん、何変な顔してんの?」


飯出来たけど。と続けた洋平くんが不思議そうな顔をして私を呼びにきてくれた。


『今までのこと思い出してて...最初「は?」って振られたなぁ、とか。』

「またそんなこと思い出して....続きは後にしな。」

『はぁーい。』


念願の彼女となって数ヶ月。高校一年生の私は同棲は許されないため一人暮らしをしている洋平くんのマンションへと週に何度か遊びに来ている。いつも綺麗に整った部屋に少しずつ増えていく私の私物。それがなんだか嬉しくって、この間は歯ブラシを勝手に置いてみたけど次来た時には無くなってた。泊まりはダメだって軽くキレられたし。あぁ、憧れがあったのに....。


『美味しい....洋平くんが料理人じゃない世の中って誰が信じるだろうね。』

「みんな信じるよ。俺普通に会社員だから。」


そのシラッとした顔も私には眩し過ぎてたまりません。ジロジロ見ながらパスタを頬張っていたら「顔にタラコついてるよ」と言われてしまった。サラッと手でとってくれる洋平くんが男前すぎて見惚れてたら「いいから食べな」といつものようにあしらわれる。うん、最高です。


「もうすぐテストでしょ。勉強やってんの?」

『やってるよ。もうバッチリだよ。』


だってそうじゃなきゃ、交際許してもらえないからね。と私が続ければ洋平くんは「そうだな」と笑ってくれた。


親に恋人がいることがバレるなり相手がどんな人なのか聞かれ適当に「学校の人」なんて誤魔化してたら超心配性の父がストーカーじみた行為に走り出し、ここの愛の巣も、明らかに学生じゃないスーツの洋平くんの存在もバレてしまったわけだ。6個も年上という、女子高生の親からしてみたらとんでもない案件を見逃してもらう条件として「外泊禁止、成績上位キープ、門限夜7時」を掲げられたわけだ。洋平くんの為ならなんのその。


『それに、洋平くんもこの学校に三年間いたんだなぁと思うと、なんだか勉強がはかどるんだよね。』

「....はかどる理由になれるならなんだって嬉しいよ。」

『最高だよ。水戸洋平本当に最高だよ。』


湘北の宝だよ。と続けたら「わかったから」と苦笑いされた。洋平くんの存在がどれほど大きいかを伝えるのにこんなんじゃまだまだ足りないんだけどなぁ....。


「それ食べたらどうする?どっか買い物でも行くか?」

『いいの?買い物!行きたい!』


勉強頑張ってんなら息抜きしなきゃな、と机の上に置いたあったバイクの鍵を握り締める洋平くん。くぅ....後ろに乗せてくれるってかぁ....なんて贅沢な時間なんだ....


「なまえちゃんほんっとに食べ方汚いんだから。」


慌てなくても食べ終わるまで待ってるから...と続けた洋平くんは向かい合って座っていた席を立ち上がり私の元へと駆け寄ってくれた。「もう」とティッシュで口を拭いてくれる。覗かれるようにしてすぐ近くにある洋平くんの綺麗な顔に冗談抜きにして私は本気でときめいたわけだ。


『あ、あの.......ありがとう.......』

「どういたしまして。俺のことばっか考えてヘラヘラし過ぎなんだよ。」


呆れたように綺麗に笑った洋平くんが美し過ぎて目を離せずにぼうっと眺めていたら「ん?」と再び顔を覗かれてしまった。こ、これは....その、チャンスじゃないかなって....この距離は、その....


キ、キスとか........!


「....んな顔したって、未成年には手ぇ出せねぇの。」

『んぐっ......!』


何もかもお見通しだった洋平くんにムギュッと頬っぺたをつままれて変な声が出る。解放された時にはすでに洋平くんは私の近くにはいなかった。


「皿洗ってくるから。食べ終わったら持ってきて。」

『.....はぁーい.....。』


いつもこうだ。付き合って数ヶ月。まだ洋平くんに触れたことは一度もない。体はおろか唇さえも...いや、手も繋いだことないか...。


『....覚悟は出来てるんだけどなぁ。』


私の呟きは洋平くんには届かない。








好きすぎてどうしたらいいのかわかりません

(...っぶねぇ、マジで可愛いの塊かよ....)



裏では洋平くんも必死に耐えてるという設定でございます。







Modoru Susumu
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