手強い敵に要注意 (愛知)







『諸星、明日の準備した?』

「したけど....なまえは?」


何持っていったらいいかわからなくて...と続けたなまえは俺を見るなり「緊張するなぁ」と笑っている。


「普通に着替えとかでいいんじゃね?あ、でも女の子は色々荷物が多いのか.......」

『さすが諸星。わかってるねぇ。』


よっ、モテ男!だなんていらない合いの手をいれてくる唯一のマネージャー、なまえはいつもいつも俺のことを「モテ男」だとか時には「チャラ男」だとかそんな不名誉な名で呼んでくる。実際俺は「愛知の星」というそれこそ自分の意思に反した異名のためにバスケット以外は考えられない生活を送っているわけで。だからこそ「モテ男」は否定できないかもしれないけれど、彼女だっていないわけだし遊んでる時間だってないわけだし「チャラ男」ってのは全力で否定したいわけだよ。髪型のせいかなぁ.....


「誰がモテ男だよ。ほら、さっさと片付けるぞ。早く帰んねーと、明日遅刻するだろ。」

『はーい。さすが諸星。頼りになるなぁ。』


なまえはそう言うと片付けの手を早めた。


キャプテンとマネージャーという、最高にして最強のポジションである俺となまえ。同じ愛和学院に通う三年にして、片思い三年目の俺の想い人だ。いつだってのんびり笑っていてつらい時もつらいと言わない我慢強い女の子。好きだからこそ大切にしたくて、好きと伝えて混乱させるつもりもないし、付き合いたいなんてそんな高望みもしない。ただ隣にいられる限られた時間を大切にしたくて。


だからこそ、明日からの国体合宿に、マネージャーとして同伴することになったと知った時は正直すげぇ嬉しかった。本来なら離れているはずの時間を共に過ごせるということに加えて、チームメイトの怪我もあって愛和学院から選ばれたのは俺だけだということに喜びを感じずにいられない。


だって...何かあった時、いや、何もなくたって、頼れるのは俺だけだろうって、そう思うじゃん。愛和からは俺となまえだけが体験できる、特別な時間じゃん。


「...っし、朝寝坊すんなよ?」

『しないよ。大丈夫。早起きだけは得意なの。』















「....あのなぁ、森重。自分勝手な行動はよくないわけだよ。名朋では許されてんのかもしんねーけどさ...?」


もう何から伝えたらいいかわからない俺が一応愛知のキャプテンとして話しかければ、堂々と合宿所の大広間のど真ん中に座って一人で既に飯を食っている森重が「え?」と振り向いた。え?じゃねぇし。こっちがは?だし。


「あのさ飯は今からみんな揃ってだし、まず三年が先に座るし、そもそもお前もうシャワー浴びてんの?他の一年はまだ片付けしてたけど....」


極めて自分勝手な言動が目立つ名朋の一年、森重。監督にも先輩である俺らにも敬語を使わないどころか勝手に飯食ったりマナーがなっていないことだらけで。


「あ、そうなんだ....ま、他がやってくれるっす。」


だからいいでしょ、だなんて相変わらず周りが見えていないコイツをどうにかするのは俺の役割だと思うとため息が止まらなくって。どうすっかなぁ...と悩んでいればそこに「あ、諸星じゃん」だなんて俺の想い人が登場するわけだ。


「おう、なまえ....」

『もうすぐご飯だもんね....あっ、もう食べてるの?美味しそうだなぁ....』


なまえはそう言うとあろうことか自然と森重の目の前の席に座るではないか。


「あ、なまえさん。お疲れ様っす。」

『お疲れ、森重くん。さっきは荷物運んでくれてありがとうね。おかげで片付けスムーズに終わったよ。』


いやぁ、助かったなぁ...だなんて可愛い声を出すなまえに森重は「あんくらいいつでもやるっす」としっかり返事をしているではないか。







......え?ちょっと待って。どういうことなの?なんでなまえと森重がこんなに仲良さげに喋ってるわけ?さっきはありがとうって何?さっきって何?俺の知らないところで何が起こってたの?なぁ、ちょっと待ってくれよ.....


「なまえさんも食べますか?」

『食べたい......けど、みんなが来るまで我慢しておくよ。森重くん見てるとどんどんお腹空いてくるなぁ。美味しそうに食べるよね。』

「うまいっすから。」


固まって動けない俺を無視して二人は仲良さそうにしては話を止めない。いや、待て。俺を置いていくな。つーかこんな巨体と仲良くしてる場合かよ....なまえは確かに可愛い上に人懐っこいし?どこに行ったってすぐ友達ができるタイプなのは間違いねぇけど?だからってよりによって森重と仲良くなる必要は.....


『名朋ってどの辺だっけ?愛和と近い?』

「俺愛和の場所がわかんねーす。」

『あ、そうだよね。私もあまりうまく説明できない。』


ないよ。絶対ない。そんな必要ないのに...あぁ、神様どうして...俺となまえの仲が深まる合宿三日間じゃなかったのか?!いや、そりゃね?真剣にバスケやりにきたよ?でもさ、少しくらいはなんつーか、その...進展っていうわけじゃねーけど、なんかこう...距離が縮まるきっかけになるかなぁって思うわけじゃん!


『名朋のキャプテンって今怪我してるの?選ばれてないけど...』

「あー、あんまうまくねーっす。」

『あぁ、そうなんだ....うちの諸星はどう?愛和でもキャプテンなんだけど....』


森重はなまえのその言葉を聞いて俺をチラッと見やる。なんかむかつく...本当にむかつくわ...


「愛知の星、髪型がなんか変...」

「...っ、はぁ?!テメェ黙って聞いてれば...!!」


さっきからなんなんだよテメェは!なまえと仲良くおしゃべりだなんて敬語も知らねぇテメェには百万年早いんだわ!ったく調子乗んのも大概に....


『まぁまぁ、諸星。大人げないよ?落ち着いて。』

「なまえ.....」

『こう見えてもモテるんだよ。この髪型は結構オシャレだって評判良いしバスケも上手いしキャプテンだしね。』


この間は他校の制服の女の子から呼び出されて告白されてたの...とコソコソ森重に耳打ちするなまえ。いや聞こえてるし。つーかなんで知ってんの?!


「...モテるっすか、」

「ま、テメェよりはモテるだろうよ!なんだよ?文句あんのか?!」


怒りがおさまらない俺に森重は一目ジロッと視線を向けると何故だか「ハァ」とため息を吐いた。


「....好きな女には、モテてなさそうっすね。」












「....テメェ!!!!ふざけんな!!!!」

『ちょっ...諸星!落ち着いて!どうしたの急に暴れて...諸星!聞いてるの?!』









ポッと現れた大型新人


(諸星、一年生相手に暴れたらダメだよ。さっきは本当にどうしたの?諸星らしくないよ?)
(....なまえのせいだよ。なまえが.....なまえが....)







Modoru Susumu
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