■ 陵南





越野から久しぶりに連絡が来たと思ったら仙道が2年ぶりに帰ってくるから集まりますなんて願っても無いチャンスがやって来て、随分と前からこの日を楽しみにしていたわけだ。美容院にエステ、ネイル、服も買ったしカバンや靴まで...何にそんな気合い入れてんだか自分でも笑えるくらいだ。

仙道くんは陵南バスケ部の1つ後輩で当時からスタープレイヤーだった。天才仙道って言われ続けて飄々とした大人っぽい雰囲気を身に纏う高校生離れした男の子。惹かれるのに時間はかからなかった。
だけど気持ちを伝えるなんて出来るわけなくて、ついに何もないまま私は陵南を卒業、仙道くんはその1年後、高校を卒業した後そのままアメリカへ行ったのだ。

「マジで社会人キツすぎだろ」
「まぁまぁ落ち着けよ越野、あ!なまえさん!」
『久しぶりみんな〜』

居酒屋に着けば既に顔を赤くした越野が植草に宥められていた。越野は本当に大変そうだ。そこそこいい会社に就職したと思ったら残業だのブラックだのそんな噂はよく聞いている。そんな越野の隣にこっちを見つめる大きな男がいて...

あ、目が合った。

「なまえさん、お久しぶりですね」
『久しぶり、仙道くん』
「見送りの時来てくれないから嫌われたかと思いました」
『まさかそんな、ごめんねあの時は』

サラッとそんなこと言われて心拍数は最高潮。なにそれ、本当にずるいよ。むしろ嫌いになれたらどれだけ楽か...

仙道くんがアメリカへ旅立つ時、陵南のみんなで大々的に見送りの式があったみたいだったけど私は参加しかなかった。というよりできなかった。どんな気持ちで彼を見送ったらいいのかわからなかったからだ。あれからもう7年?帰国は2年ぶりらしいけど私は実に7年ぶりの再会ってわけだ。2年前の帰国の時も越野から声がかかったけどその時もなんとなく行く気になれなくて断ったんだった。なんとなく今なら会える気がしたし純粋に久しぶりに仙道くんの顔が見たいと思ったから来たわけだけど、7年経ったって目の前のこの人にドキドキが止まらない私は本当にどうなっているんだろう...無理だ、好きだと思わずにいられない...

「おい飲み過ぎだぞ越野」
「うるせぇな植草、お前はいいよな、結婚してさ」
「俺らの中で1番が植草とは意外だったな」
「...確かに」

仙道くんの言葉に福ちゃんがボソッと同意すれば植草はそうかぁ?なんて首を傾げた。植草は去年結婚した。私の学年の魚住や池上もまだだしもちろん私も...彼氏すらいないし、そんな私達を置いてサラッと結婚するんだと報告された時は心底驚いたけどなんだかみんな大人になったなぁって寂しさすら感じていたのだった。

植草が結婚ってことは仙道くんも充分そういうことがありえる年齢にいるってことだ。アメリカまで行ってバスケ一筋なのはわかるけど実際女なんて選び放題だろうしね...

「何言ってるんだお前ら、植草はもうすぐ父親だぞ」
「んなこと知ってますよ魚住さ〜んだから悔しいんですよ」
「ったく越野は飲んだくれてないで彼女でも作れ」
「できることならとっくに作ってます〜池上さんもいないでしょ〜」

図星を突かれてイラっとしている池上を見てなぜかホッと安心した。月日は流れて大人になっていくけれど私たちの関係性は変わらないんだ。...仙道くんへの想いさえ断ち切ってしまえば、平和に暮らせるような気がするんだけどなぁ...

「なまえは彼氏出来たのか?」
『何よ〜魚住〜痛いとこ突かないでよ〜』
「なまえはキャリアウーマンだから1人でも大丈夫だろ」
『私だって結婚したいよ池上のバカ』
「だってお前そこら辺の男より年収多いだろ」

池上にジトッと睨まれて睨み返しながらサワーを飲み干せば魚住にグラスを取り上げられた。飲み過ぎだとかなんとか言われたけどまだまだ飲み足りない!同じ場に仙道くんがいるということが自分の中で何とも落ち着かない状況であり飲まずにいられないのである。

「アレなまえさん、フリーなんですか?」
『...仙道くんまで何、からかわないで』
「ハハ、まさか」

いきなりぬっと現れて隣に座ってきた仙道くんに一瞬で酔いが冷めそうになった。ヤッバイ近い、こんな距離にいられると...動悸とめまいが...

「間に合ったみたいで良かったです」
『ん?何が?』
「なまえさんの気持ち、ずっとわかってましたよ」
『.........?!』
「長いことお待たせしました...お迎えにあがりました」

頭の理解が追いつかないまま仙道くんを見つめているとテーブルの上にそっと箱を置かれた。その箱の中身が何なのかは言われなくてもわかっている。...これは、いわゆる、プロポーズ...???

ちょちょちょっと待ちなよ私!なんで私が仙道くんにプロポーズされるわけ?冷静になれ、落ち着け...

『あ、あの...』
「ずっと言い出せなかったんですよ、なまえさん夢があるって言ってたし」
『...』
「アメリカについて来てなんてただの我儘だから、そんなのに付き合わせちゃいけねーって思ってて」

そういうと仙道くんはテーブルの上の箱を開いた。中からキラキラ輝くそれが顔を出し私はとうとう頭が爆発しそうになった。

「2年前越野からなまえさんまだ彼氏いないって聞いてもしかしたら間に合うかなって、あぁ、よかった...俺、来シーズンから日本でプレーするんですよ」
『あっ、あぁ、そうなんだ...』
「もうどこにも行きませんから、俺の奥さんになってくれませんか?」

どうです?なんて強気の笑顔で言われて私はついに爆発した。止め処なく涙が溢れて前が見えないまま仙道くんに抱きつくという名のタックルを決めた。おっと、と言いながらも受け止めてくれたそのたくましい体にしがみつき、お願いしますという名の返事を返してみんなに拍手で祝福されたのだ。










お迎えに参りましたシンデレラ

(...マジかよこれで仙道も既婚者)
(なまえ...幸せになれよ...)
(そういや魚住さんなまえさんに惚れてたっけな)








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