■ A





「なっ、なんなんだよ...」
『ごめんね無視してくれていいから』

目の前の藤真をギロッと至近距離で睨めば綺麗な顔が一瞬で歪んで不快そうな顔へと変化した。隣でなまえさんが呆れた顔しているけどそんなのもう気にならない。イチノさんと共にググッと藤真へまた一歩近付けば深津さんにゲンコツされた。イテェ...

(私ね藤真くんと結婚することになったんだぁ)

あの日、藤真と付き合っていることを深津さんから聞かされてイチノさんと共に落ち込んで、それからもうなんだかんだ5年は経ったのか。俺はすっかり日本でプレーしてるし相変わらず毎年夏になれば集まってるけど今年の夏はそんなこと聞かされてマジで気が狂いそうになった。結婚?!なにぃ?!結局シティーボーイと結ばれるんか!そうなんだな?!

「俺らへの当てつけだ」
「本当そうっすね、イチノさん」
『まだそんなこと言ってるのイチノ...』

綺麗なウエディングドレスを身につけたなまえさんに呆れられてため息をつかれたけど俺らは負けない!だってこんなのひどいですよ!隣の藤真タキシードめちゃくちゃ似合ってるけどな!ほんとムカつく!

「なまえは愛されてんだな」
『うーん、ありがたいことだねぇ...』
「藤真も米食うなよ、秋田を裏切ったんだから」
「え、俺も?」

ボソッとイチノさんが呟いて藤真はギョッとしていた。

「何言ってるピョン」
「だってー!元はと言えばピョン吉が役不足だから...」
「だーれーがピョン吉だピョン!」
「イテテテテ!すみませんでした!」

ちぇっ、本当にムカつく奴ら。あー悔しいくらいお似合いだな。はいはい、美人の隣には美男がお似合いですよね。俺一応アメリカも行ってたのに全然ダメじゃねぇかよ...

「もうなまえのことは諦めろピョン」
「...わかってるよ深津」

深津さんのボソッと呟いた声が聞こえてきた...ってええ?!何この展開...も、もしやイチノさんってなまえさんのこと好きだったのか?いやそりゃまぁ俺だって好きだったし散々2人で協力しあってきたけど...そうか、そうだったのか。

「なまえ、幸せになれよ」
『イチノ、ありがとう』
「ずっと大切に想ってた相手だから泣かせないでほしい」
「わかってる、ありがとうな」

藤真に向かってそんなこと言ってイチノさんは控え室を出て行こうとした。その時、なまえさんの声が響いた。

『イチノ!』
「...ん?」
『今までありがとう、ずっとそばにいてくれて』

まっすぐイチノさんを見てそう言うと一歩イチノさんへと近付いて意を決したようになまえさんは再び口を開いた。

『私ね、ずっと、イチノのこと...』
「なまえ」

そんななまえさんの言葉をイチノさんは遮るようにして彼女の名前を呼んだ。まるでその先を言わせないように...

『な、なに...?』
「これからもずっと友達でいような」
『...イチノ、』

そう言うとさっさと控え室を出て行った。あれ、今なんか言おうとしてたのに...いいのかな...

「さて、邪魔者は行くピョン」
「あ、あぁ、そうっすね...」

ピョン吉に腕を取られ俺も控え室を後にした。廊下には下を向いたまま動かないイチノさんがいた。

「イチノさんいいんすか?なまえさん何か言い途中だったんじゃ...」
「いい、多分好きだったって言おうとしたんだろ」
「えっ?!」

驚く俺に深津さんも納得したような表情をしていた。えぇ?!それイチノさん勘違いも甚だしいんじゃ...と思ったけどそうじゃねぇみたいだ...ウソ?!

「俺高校の時も告白されそうになったことあったんだ」
「えぇ?!なまえさんにすか?!」
「うん...その度に逃げたけど」
「に、逃げた?!」

その後俺は2人の結婚なんて正直どうでもよくなりイチノさんの話に夢中だった。なになに?!もしかして両想いだったってことかよ?なんで付き合わなかったのイチノさん!!

「お前らずっと両想いだったピョン」
「マジすか?!もったいねぇ...!」
「考えろよ沢北、あんな美人な彼女俺に似合うと思うか?」
「いや、それはそうっすけど...でも...」

なまえさんの気持ちに気づいていたらしいけど答えられなかったらしい。なにそれ...ヤバイよイチノさん...自分には似合わないと思ったこと、そして部内でカップルが出来るということ、周りにどう思われるかということ、今までの友情が終わってしまい関係が変わること、バスケットに集中出来なくなるかもしれないこと、そして何よりイチノさん自身がこの全てを怖くてたまらないと思っていたこと。それが交際に発展しない理由だったらしい。なんと贅沢な...

「あの時何か変えていれば今頃隣にいたのは俺だったかもしれない」
「それはあるピョン」
「藤真じゃなくイチノさんが...」

うーむ?想像できないけど、でもそういう可能性があったということか...えぇっ、マジで信じられねぇわ...

その後式は始まった。あまりにも綺麗な新婦になぜか俺まで泣きそうになったけど、隣のイチノさんが仏のような優しい微笑みでなまえさんを見つめていたから...あぁ、イチノさん、あなたはなんて男なんすか...我慢の男も大概にしてくださいよ...!!



何はともあれ、結婚おめでとうございます!

(イチノさんと結ばれてたら...)
(うーん...変な感じだな...)



[ prev / next ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -