妹様は恋愛中






神奈川県某市 ーーー

そこには昔からここらで有名な兄妹がいました。
兄の名は健司、妹の名はなまえ。年子として産まれた2人は両親から絶大なる美貌と誰もが羨ましがる才能を贈り物として受け取りすくすく成長していきました。兄の健司はバスケットに励み妹のなまえは勉学と料理に打ち込む日々でした。

兄の健司は極度の過保護で妹が何かするたびに口を出し幾度となく妹のピンチを救ってきたのです。もちろん救わなくてもいいところまで。なまえはそんな兄にうんざりしていました。

私立翔陽中に通っていた2人ですがそのままバスケットの為に進学した健司と違い翌年なまえは海南大附属高校を受験し2人は初めて別々の学校に通うこととなったのです。表向きにはよりよい環境で勉学に励む為とし偏差値を気にして海南を選んだということにしておきましたが、なまえの本心としてはただ健司に邪魔されずに恋愛の1つや2つしてみたい、ただそんな理由でした。そんなこと知る由もない兄は常に隣にいた妹がいない事実に悩み、心配し、苦しんでいたのです。

誰かに告白されちゃいないだろうか。
変な奴に絡まれていないだろうか。
可愛すぎていじめられていないだろうか。
男に告白されていないだろうか。
告白されて、告白されて、付き合ったりしないだろうか。

健司はとにかく妹に彼氏ができることに大反対でした。その時がいつかはくることをわかってはいましたがまだ早い、まだ早い、と言いながらあっという間に高校に入学してしまったのです。それになまえときたら海南を選んだ。自分の知らないところでなにかが起こるのでは、と毎日ピリピリした空気で生活していました。

そんなこんなで1年が経ち健司は高校生活最後の学年へと上がったのです。色々な感情を抱えた1年間でしたが、なんとかなまえに男の気配は無くそれはそれで安心していた健司でした。しかし、彼の安堵は束の間。すでになまえはすっかり恋する乙女になっていたのです。

とある日、インターハイを終え神奈川へ戻ってきた牧と共に健司は放課後ファーストフード店にいました。翔陽の練習は今日は休み。普段なら冬に向けて自主練のはずが、今日はインターハイを終え引退した牧、そしてこの後合流する魚住と3人で久しぶりにゆっくり会って話をする予定でした。

「あぁ、来たか」
「相変わらずでけーよなマジで」

ズカズカと店内に入ってくるその巨体に2人は自然と口からそんな言葉が出ていました。よくこの3人で集まりあーでもないこーでもないとバスケについて語り、そして海南に通う牧から妹のなまえについて情報をもらう、それが健司の日課でもありました。

「悪い遅くなった、仙道のやつがだな...」

魚住は引退したもののかなりの頻度でバスケ部に顔を出しているようで自分のキャプテンという位置を引き継いだ仙道にひどく不満があるようでした。

「あいつは天才だからな」
「だからこそやれば凄いんだがな、集中力がだな...」
「凡人には理解できねーなほんっとに」

全くやれやれ。健司は自分のことを努力家や真面目な奴だと自負していましたが決して天才だと思ったことはありませんでした。やっぱり天才というのは仙道のような奴を指す言葉であっている。そうは思うものの魚住の苦労もわからんでもない。その狭間でどちらの気持ちもわかるようなそんな気分でした。

「あぁ、仙道に言い忘れた...」

魚住のそんな言葉を聞いて牧と健司は仙道の家に行き直接伝えることを提案しました。なにせ魚住がここから仙道のアパートは近い、そしてもうこの時間なら家にいるだろうと言ったからです。それなら電話するより直接の方が...それは自然な考えでした。



ピンポーン ーーー

仙道のアパートのインターホンが鳴るとしばらくしてバタバタ中から音が聞こえてきました。するとハーイという仙道にしては高い女性のような声が聞こえてきたのです。

「あれ...部屋間違えたか?」

魚住がそう疑問に思った瞬間、ガチャリ。扉が開きました。ハーイ、もう一度そう言いながら中の人物が一歩、外へと踏み出したその時です。

『ハーイ...えっ、...えっ?!?!』

なんと仙道の部屋から出てきたのは健司の妹であるなまえだったのです。見間違えるはずもない自身の妹に健司は心臓が飛び出そうなほど驚いた後、自分と目が合い瞬時に扉を閉めようとした妹の手をグッと掴みました。

「なっ?!なんでお前が...なんでお前がここに...?」
『痛ッ...離してよ!健司!』
「なっ!なんでお前が仙道の部屋から出てくんだよ!」

大きく怒鳴った健司の声になまえはキッと目の前の兄を睨みつけました。

『別に関係ないでしょう?!何でいちいち健司の許可が必要なの?!』
「質問に答えろよ!なんでお前がここに...ッ!」

同じ声量で言い返したなまえはトントントン、と階段を上がってくる音が聞こえてきて目を見開きました。まずい、この音は...そう思った時同じように健司が階段の方を振り向きました。その人物の正体を知り健司は空いている方の拳をグググッと握りしめたのです。

「仙道...テメェ...!!!」
「おっ、落ち着け藤真!」

びっくりした顔で階段の途中で止まる仙道と今にも飛び蹴りしそうな藤真を瞬時に抑えた牧と魚住。そして呆れた顔をしているなまえ。ハァ、とため息が漏れました。

「藤真さん...あれ牧さんも魚住さんもどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもねーよ!?お前の部屋から何でなまえが出てくんだよ?!」
「あぁ...改めて挨拶しますね、お義兄さん」
「おっ?!...オニイサン...?!?!」
「なまえちゃんと付き合ってます、仙道です」

その言葉を聞いてなまえはクスッと笑いました。いつかは来ると思っていたこの日がまさかこんな状態で迎えることになるとは思ってもいなかったけど、それでもなんとなく嬉しい気持ちもありました。部屋の中から香るいい匂いに仙道はにっこり微笑みました。

「ただいまなまえちゃん」
『おかえり仙道くん、ご飯作っといたよ』
「ありがとう!さぁ食べよう!」

よかったら一緒に食べますか?
悪気のない顔で固まる3人にそう言うと再び藤真がジタバタ暴れ出したのでなまえはそっと扉を閉め鍵をかけました。玄関先で仙道はなまえをぎゅっと抱きしめると耳元で"ただいま”そう囁き首筋に顔を埋めたのです。カプリ。豪快に噛み付くとなまえはビクッと反応しました。

『ちょっと!跡ついちゃうよッ...』
「大丈夫だって」
『仙道くっ...』

重なる唇からはリップ音が漏れました。それはなんと扉1枚挟んだ外にも聞こえていたのです。生々しい音が聞こえてきて牧と魚住は顔を赤く染め健司は怒り狂って扉を蹴り続けました。

「おい!!仙道テメー何しやがる!!おい!俺の妹に手ぇ出すなこの馬鹿野郎が!!」

仙道はもちろんわざとそんなことをしてみせたのです。どうだなまえちゃんは俺のもんだ。扉越しにそう笑ってみせたのです。















認めてもらわなくて結構ですお義兄さん

(彼女はすでに俺のもんですから)
(何言ってんだよテメー!!!)
(...マジ過保護)





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